理想の貴女はここにいる?オタクのための理想の彼女/メリーに首ったけ
映画監督であるファレリー兄弟は、序盤に発表した作品で、理想の女性を描いています。
また、障害をもつ人を普通にだすというのが特徴の監督です。
普通だすにっていうのは、映画の中で、特別な役柄としてではなく、当たり前の人として障害をもつ人をだすということです。
人間がいる以上一定の確率で、肉体的にマイノリティの人もいるわけですが、そういった人たちは、映画に配役にのぼることはあまりありません。
逆に、7歳児ぐらいの知能しかないショーン・ペン演じる主人公が、娘に知能を追い越されていく「アイ・アム・サム」や、ダスティン・ホフマンが演じる自閉症だけれど数学の天才である「レインマン」など、障害はもっているけれど特別な存在、あるいは無垢な存在として描かれる傾向が多いのです。
ですが、ファレリー兄弟は、障害をもつ友人に指摘されたこともあって、映画で積極的に特別ではない存在として障害者をだすことにしているのです。
性格の悪い障害者をだすことで、障害をもつ人間は純粋である、みたいにしてしまう映画業界を遠まわしに批判してみたり、端役としてだすことで、障害があるということが特別なことではなく、個性であるという点をこめているのがよいですね。
「メリーに首ったけ」は、障害者に限らず、不細工だろうが、太っていようが、どんな人であろうと平等にやさしく話をしてくれるキャメロン・ディアス演じるメリーがヒロインです。
理想の女、メリー
メリーは医者で、趣味はゴルフで、えっちな話題も全然平気で、誰にでも分け隔てなくやさしく、おまけに美人。
こんな人がいたら、誰もがみんな放ってはおきません。
さて、この映画の監督であるファレリー兄弟は、メリーというキャラクターをつくるにあたって、自分たちにとって理想的な女性として、メリーを創造したそうです。
今の説明だけ聞いても気になるところかもしれませんが、メリーという女性は、出来すぎています。
美人で偏見もなく、男が好きなスポーツの趣味なんかはバッチリあわせてくれて、稼ぎもよくて、性格もいい。
そんな人がいるはずないのです。
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ただ、映画好きな男が考える理想の女性とはまさにメリーのような女性なのだ、ということを意識してみていただけると、「メリーに首ったけ」は、別の意味で深くみることができると思います。
特に、映画少年たちをキュんとさせてしまうのは、メリーが一番好きな恋愛映画についてでしょう。
「私が一番好きな恋愛映画は、ハロルドとモードよ」
メリーにいいよる男は、盗聴してメリーの好きな映画をききだして、さも知らなかったかのように、僕が好きな映画は「ハロルドとモードさ」とかましてきます。
当ブログの相方、ニャロ目も紹介していたハロルドとモードですが、自殺を趣味にする少年と80歳で死ぬつもりの老婆が出会い、死に近いはずの老婆に、少年が生きることのすばらしさを教えられるという物語です。
カルト映画として、最近までDVDになっていなかったのですが、数年前からツタヤなどで借りることができるようになった傑作映画です。
一日に一つ新しいことをすることで、生きることが楽しくなるっていうことを教えてくれる作品ですが、これを好きっていうのを言われたら、映画少年たちは、俺達のことをわかってくれている、と一発で認めてしまうこと請け合いな映画なのです。
一方で、まるで男のために生まれてきたようなキャラクターに嫌悪感をします人もいるようです。
2014年に公開されました、デヴィット・フィンチャー監督「ゴーン・ガール」の原作者であり、映画の脚本も手がけたギリアム・フリンは、劇中で主人公の行方不明の妻エミリーに、メリーに首ったけのキャメロン・ディアスのこととしか思えないような批判が込めた台詞を言わせています。
一緒にスポーツ観戦したり、女が男のために理想を演じるのに、男は気づいてないの。
「ゴーン・ガール」はそういった役割を期待する男たちを強烈に批判する話にもなっているのが面白いです。
ですが、「メリーに首ったけ」そのものも、見た目でしか女性を判断しなかったり、自分の都合のいい面でしか女性を判断しない男そのものを、痛烈に批判している映画になっているので、女性蔑視みたいなものを推し進めている映画ではないのですが、見方によっては都合のいい面だけが目に映ってしまうかもしれません。
コメディだけれど、身勝手さを痛烈に批判している。
改めて、どのような批判が作中で行われているのか。
主に二つの批判がされています。
一つは、冒頭でも書いたように、障害者への扱い。
劇中の中で、メリーに近づこうとする足に障害のある男がでてきます。
男が鍵を落としてしまったので、メリーは手を差し伸べようとします。
しかし、その彼は、
「自分の力でやりたいんだ」
とアピールしながら、生まれたての小鹿のような動きをします。
ぶるぶると震えながら、床に落ちた鍵を拾おうとする様は、嘘くさすぎます。
もう、これ絶対ありえないだろう。
と思うのですが、これは障害をもつ人を嘲笑するものではなく、「障害をもつ人をバカにしている人間」を批判するシーンになっているのが痛快です。
軽いネタバレになってしまうので詳しくは書きませんが、このシーンだけみていると、ただただ障害をもつ人を哀れに描いているように見えるのですが、あとの場面をみると、そういうバカにしている人そのものを痛烈に批判していることがわかります。
車椅子にのった口の悪い人もでてくるのですが、それは、ファレリー兄弟の友人が、ゲスト出演していたりして、役柄ではなく、障害をもつ人も分け隔てなく出演させるという意識が、ファレリー兄弟の作品にはちゃんとみてとれるのです。
ファレリー兄弟の友人が、「町を出歩けば、車椅子に乗った人にだって出会うはずなのに、映画には健常者だけがいて、まるで障害のある人間は存在しないみたいにしている。それはおかしい」と監督に伝えたことで、意識が変わったという話です。
こころをみるか?からだをみるか?
主人公であるベン・スティラーを含めて、最終的に5人の男が、メリーをめぐって恋の鞘当てを行います。
猿顔で、どちらかというと不細工なベン・スティラー。
役に恵まれなかったのですが、本作品に限って言えば、イケメンが演じてはいけない役なので、まさにはまり役でした。
特に、高校生時代のベン・スティラーとメリー。
ほほえましい二人ですが、ベン・スティラーはなかなか笑顔になりません。どうも不自然。
最後に、にこっと笑うところで、その謎が解けるのですが。
随所に、情けない笑いが入ってくるところがファレリー兄弟の絶妙な演出です。
ラブコメディですので、最後に二人が結ばれるのはネタバレでもなんでもないと思うのでいってしまいますが、ベン・スティラーはメリーに選ばれます。
ただ、ベン・スティラー自体はたいして魅力的でもないのに、なんで、と思うかもしれません。
ですが、唯一、ベン・スティラーだけが、彼女の見た目ではなく、心が好きだ、というところが重要になっています。
他の男たちは、彼女の見た目、可愛さだけを目的に惚れていますが(あとは、男に都合のいい趣味など)、ベン・スティラーだけは、友人に嘘の報告を受けたときに、
「メリーは、ものすごく太ってしまって、車椅子にのっているんだ。そんな彼女でも会いたいのか」
「俺は、見た目なんて気にしない。俺は、彼女に会いたいだけなんだ」
そう、唯一、ベン・スティラーだけが、彼女の内面をみていたのです。
って、まぁ、ただ、その後のアプローチというのが、なかなかに情けないので、怪しげに感じるかもしれませんが、ちゃんと内面でみているかどうか、っていうところをファレリー兄弟はちゃんと示しているのです。
それは、女性に限らず、障害を抱えていようが、不細工だろうが、どんな人でも中身をみろということを示している作品になっています。
そして、人は見た目じゃない、っていうテーマをさらに進めてつくられたのが、「愛しのローズマリー」です。
愛しいのローズマリー
「愛しのローズマリー」は、父親が死ぬ前に、若くて見た目がいい女を手に入れろと言われたために、女性のことを見た目でしか判断できなくなったデブでチビな男が主人公です。
ジャック・ブラック演じるチビでデブな男は、催眠術をかけられて、人の心が見た目でみえるようになってしまいます。
そして、体重が100キロを超えるローズマリーに一目ぼれをして、周囲に驚かれながら、ジャック・ブラックはどんどん彼女にはまっていく、という物語です。
ヒロインのローズマリーは、世界でもっとも美しい顔に選ばれたことのある、グウィネス・パルトローです。
さすがの美しさですが、特殊メイクをしていて、椅子に座っただけで椅子が壊れる巨漢を演じるという体当たりさも、一つの見所になっています。
キャメロン・ディアス演じるメリー。
グゥイネス・パウトロー演じるローズマリ-。
二人の笑顔は、すごくよく似ています。
悪意がなく、無垢な笑顔。
ファレリー兄弟の演出によってなのか、もともともなのかわかりませんが、二人の笑顔が共通していることからも、メリーの発展系が、ローズマリーであるということが推測できるように思います。
ただ、その笑顔が人工的すぎて、うそ臭く思えたりするのですが、どこまでも彼女たちは裏表がない設定なので、その嘘臭さもまた批判的にとらえることができるかもしれません。
ヘアジェルと、犬の格闘
メリーに首っ丈の話をしたら、絶対に話題にあがるシーンがあります。
それは、ヘアジェルです。
アメリカでも、「メリーに首ったけ」が公開後、ヘアジェルといえば、これっという代名詞になったこともあったぐらいだそうです。
コメディ映画の中でも、ある意味歴史的なシーン。
メリーとデートをすることになったベン・スティラーが、友人のアドバイスを受けて、落ち着くためにあることをするのですが、それが自分の耳についてしまうという衝撃的なシーンです。
しかも、メリーは、それを手にとって、ヘアジェルつけたかったのよ、といって前髪にそれをつけて跳ね上げてしまう。
その笑顔の無邪気さ。
いたたまれなさと共に、メリー自身の天真爛漫さとチャーミングさが一発でわかってしまうすばらしいシークエンスです。
また、ベン・スティラーがメリーの家で、男にとって最も重要な場所がファスナーで閉じてしまいます。
主人公が隠そうとすればするほど、話が大きくなっていってしまうというギャグ。
どんどん主人公が大変な状況に追い込まれるのは、痛いやらおもしろいやらで、コメディはこれぐらいのサービスが必要だと思ってしまいます。
あと、ベン・スティラーが犬と格闘するシーンがあります。
実は、ハリウッド映画では、犬を虐待するようなことはしていはいけないという暗黙のルールがあったらしいのです。まぁ、普通に犬と闘うなんて、人間としてもどうかとは思いますが。
あきらかにぬいぐるみにかわるのですが、犬をボコボコにするという映画的タブーに挑戦しているというのが、ベン・スティラーのこっけいな演技とあいまって、もう抱腹絶倒間違いなしです。
コメディは、現状の何かへの批判になっていることがよくあって、ファレリー兄弟は、わかりやすく身近なテーマで行うことが多いので、見やすく深く、面白い作品が多いです。
ただ、劇場公開されずにそのままDVDになることも多いのが残念です。
最近では、一週間の独身パスを奥さんにもらった男達を描いた「ホール・パス」なんかがDVDででています。コメディを通して、愛がしっかり描かれているので、「メリーに首ったけ」が気に入った人は、まとめてみてみるのも面白いかもしれません。
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名作すぎると逆に見る気にならないものですが、「メリーに首ったけ」は、今見ても古びることがなく、大女優となってしまったキャメロン・ディアスの初々しい頃がみれるので、色々な意味でみておきたい作品です。
以上、「理想の貴女はここにいる?オタクのための理想の彼女/メリーに首ったけ」でした。