親子の和解。ティム・バートンオススメ映画「ビックフィッシュ」
父親の存在が大きければ、子供たちもまた苦労しますし、どういう風にして生きてきたかを知らないままで、親を尊敬しろ、というのもなかなか難しいものであったりします。
父と子の和解、というテーマといえば、ティム・バートン監督ははずせないところです。
ティム・バートン映画の代表作の一つでもある、「ビックフィッシュ」について感想や見どころを書いてみたいと思います。
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嘘つきな父親
主人公であるウィルは、父親とうまく付き合えないでいた男です。
というのも、子供のころには大好きだった父親の話が、大人になってからは信じられなくなり、恥ずかしく思ったりする中で、素直になれなかったためです。
きっかけとなったのは主役であるはずの自分の結婚式で、父親のいつものホラ話によって、いいところをもっていかられてしまってから3年間、彼は父親と会話をしなかったほどです。
「ビックフィッシュ」は、そんな嘘つきな父親と、そんな父親を認めることのできない息子との、和解をテーマにしているところが面白い作品となっています。
本作品は、あくまで父親の語りを再現しているものとなっており、どれが本当で、嘘なのかもわからないようになっています。
はじめ、視聴する我々は、息子の視点を通じて父親の話を聞いていきますが、やがて、ファンタジーの世界に浸りはじめ、やがては、その境界線に対して、どちらがいいのか、ということを問われるようになっています。
嘘と真実と映画
突然ですが、映画「アイ・トーニャ」では、インタビューをしている本人の言葉を、ばかばかしいまでに再現している、という作り方になっています。
つまり、整合性がなかったとしても、それぞれの登場人物たちの真実というのを語っている、という内容になっており、結果として、芥川龍之介原作、黒沢明監督「羅生門」のような、真実は藪の中であることを語った作品になっています。
真実はどこかにあるんでしょうが、それが語られることによってゆがめられたりする面白さがあります。
さて、「ビックフィッシュ」もまた、存在しない魚について語るタイトル通りの作品ではあるのですが、一風違った解釈がされているのがおもしろい点です。
みなさんは、ファンタジーは好きでしょうか。
でも、この世の中にファンタジーが存在しないのが当たり前だと思っていると思います。
「ビックフィッシュ」の主人公であるウィルと同じであれば、それは当然です。
ファンタジーなことを語る人がいれば、遠巻きに見守るか、関わらないようにするほうが賢明です。
しかし、本作品をみたあとは、少し違った視点を味わうことができるのです。
父になる息子
物語が動き始めるには、息子であるウィルに、子供ができることがきっかけとなっています。
そして、父親がもう長くない、という事実。
本作品は、長年口を利かなかった親子が突然話を始めるということについて、それほど劇的に描いていません。
「我々が話してるのをみて、母さんはきっと驚くぞ」
と本人たちがいうぐらいです。
ウィルという男は、まだ父親にはなっていませんが、やがて父親になろうとする心構えをもつにいたったからこそ、自然と会話ができているのです。
「本当のことを知りたいんだ。父さんに聞いたできごと」
ウィルの仕事はジャーナリストです。
常に真実をはっきりさせなければならないジャーナリストと、嘘としか思えない話をする父親。
「めったにない死に方だ」
魔女の目をみて、自分の死にざまがわかっているといいはる父親。
物語の見事な終わり方も含めて、素晴らしい映画となっています。
ファンタジーとは
ティム・バートン監督といえば、「チャーリーとチョコレート工場」や、「アリスインワンダーランド」といった色彩豊かなファンタジー映画の印象が強いと思います。
できれば、映画をみたあとに本記事を読んでいただきたいところですが、父親の最後も含めて書いていきます。
父親が語った、何メートルもある大男カール。
オオカミに変身するサーカスの団長。
理想郷のような隠された町スペクター。
父親は、そんなウソのような話を繰り返し語ってきました。
そんな中、主人公は、そんな話の中に、本当の真実の断片を見つけていきます。
その行為は、ウィルが、父親に対して勝手に抱いていた嫌悪や勘違いも取り除いてくれるのです。
不在の父親
「きっと、父は不倫していたんだ」
そうウィルは言います。
長く家を空けていたということが彼の言い分ですが、父親の職業や経歴をおっていくと、その理由もわかってきます。
戦争から帰ってきて、セールスマンとして国中をわたりあるいていたため、めったに家に帰れなかったという事実。
苦労しながらも、人々を助けたりして、多くの人々に感謝されていたこと。
父親が言っていたことは尾ひれがついていたかもしれませんが、真実も多分に含まれていたことがわかってきます。
意識のない父親がいる病室で、昔をしるベネット医師がウィルに言います。
「君の生まれた日の話を知っているか?」
「魚を釣った話ですよね」
ウィルが生まれた日、父親は、結婚指輪を湖の主に結婚指輪を返してもらった、という話をよくしており、父親の話の中でもよく話されるものでした。
「その話じゃない。お母さんは予定日より早く午後3時ごろ入院した。お父さんは旅回りをしていた。残念がっていたよ。それが本当の話だ。つまらん話だろ」
よくある話です。今と違って、分娩に立ち会うという時代でもありませんので、そのときに近くにいることができなかったことを悔やむこともないはずです。
ですが、ウィルの父はその真実にファンタジーをふりかけたのです。
「どちらか一方の真実を選ぶのであれば、私は、結婚指輪を魚が飲み込んだというほうがずっと面白いと思うね。私の好みだがね」
父親の話していたことはそういうことなのです。
信じたい真実
そして、無くなる寸前の父親は、自分の死に際の話を息子に語るように言います。
病院のベッドで死んでしまうのが、本来であれば事実でしょう。
ですが、ウィルに対して、最後までいわなかった自分の死に方を、ホラ話かもしれないけれど、「めったにない死に方」というのを、息子に決めてほしかったのです。
出来事は変えられないかもしれませんが、ただ、その事実をどういう風に解釈するかはそれぞれの人にかかっています。
真実も大事ですが、真実と同じくらい大事なことを、親子の和解というテーマを下敷きにして教えてくれる作品が、存在しない魚のことをタイトルとした「ビックフィッシュ」となっています。
エンディングでは、嘘みたいだった話の真実が垣間見れたりしますが、基本的には、人生をどのように生きるべきかの道標を示してくれる作品となっていますので、改めてみてみるのも面白いかもしれません。
また、ティム・バートン自身もまた父親を本作品制作の1年前に亡くしており、また子供ができたということも作品そのものに大きくかかわってきていることが推定され、ティム・バートンの転換期ともいえる作品になっている点も見どころといえます。
以上、親子の和解。ティム・バートンおすすめ映画「ビックフィッシュ」でした!