シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

園子温の描くエロの先/アンチポルノ

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園子温監督といえば、「冷たい熱帯魚」や「恋の罪」といった実際の事件をもとにした映画を製作したり、「ヒミズ」や「希望の国」といった社会に沿った作品もつくるなど、幅広い活躍をしている人物です。


若い頃から、東京ガガガといったパフォーマンス集団を率いてみたりと、その活動の幅は広い人物ですが、その園子温監督の一つの特徴といえば、エロとグロです。


とことんまで噴出す血しぶき、まろびでる女性の胸。


そんな園子温監督が、日活ロマンポルノ45周年を記念してつくった、反ポルノ映画「アンチポルノ」について紹介してみたいと思います。

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日活ロマンポルノとは

当ブログではあまり成人指定になるような作品はあまり紹介しておりませんので、さらっと説明いたしますと、日活ロマンポルノとは、映画製作・配給を行っている映画会社日活で製作された、成人指定の映画のことを言います。


特徴だけ大づかみでいいますと、エロさえあれば何をつくってもいい、という表現者たちにとっては凄まじい映画作品群となっています。


創作などを行う人でなければ、その価値というのは想像しづらいかもしれませんが、インターネットが発達していなかった当時は、多数の人間に自分の作品をみせるということ事態が大きなハードルでした。


そんな中、経営難に陥っていた日活が、成人映画路線に舵をきったことで、意欲的だけれど創作の場所をもっていなかった若手監督たちが次々と映画づくりの場に参入するきっかけをつくっていったのです。


そのため、タイトルこそ淫靡なタイトルが多いものの、芸術性の高さや、テーマ性などを含めて、日活ロマンポルノというのは大変な黄金期を迎えることになるのです。


そんな日活ロマンポルノの45周年を記念して、「ロマンポルノ・リブート」として作られた作品の一つに、園子温監督「アンチ・ポルノ」が出されたのです。

 

エロくないエロ

園子温監督も、前述したとおりもともとがエロとグロの監督です。


自分の奥さんである、神楽坂恵をどんどんヌードにして出演させますし、若手だろうがなんだろうが容赦なく脱がせていきます。


「アンチポルノ」では、園子温監督が、単純なエロはつくらないといった条件をつけた中で、本作品がつくられたそうで、タイトルの通り反ポルノ映画を目指してつくられているようです。


たんに服を脱げば、エロなのか。

そのあたりも含めて園子温監督映画としてみることで、たんなるロマンポルノではない作品の側面が見えてきます。

 

自分というつくりもの

作品の内容に入っていきますが、物語そのものは舞台劇のような形になっています。


富手麻妙演じる主人公の京子は、小説家であり絵もかける新進気鋭の人物です。


ただ、彼女は、精神的にかなり不安定であり、マネージャーにたいしてむちゃくちゃな要求をしてみたりして、横暴な人物となっています。ただ、その理由も明らかになっていきます。


構造的には、売れっ子小説家である京子とは、彼女が演じている舞台なのか。はたまた彼女の願望なのか、誰かの借り物なのか。メタ構造をつかいながら、みている側の頭を混乱させるようなつくりになっています。


ネタバレになってしまう部分もありますので、気になるかたは気をつけてみていただきたいと思います。


富手演じる主人公は、トラウマを抱えています。


最愛の妹を失くし、父親とケンカしたときに自暴自棄になってしまったりしたことで、心に傷を負っています。


この作品は、そんな一人の少女の心の動きを表しているとしてみると混乱しないでみることができます。

 

オズ

さて、突然ですが、オズの魔法使いという作品をご存知でしょうか。

この作品は、ドロシーという少女がタツマキに飛ばされてオズの王国にいって戻ってくるまでの話となっていますが、つきつめると、少女の想像力による物語となっています。


自分のまわりにあるもの、内面にあるものを物語として具現化したものなのです。


アンチポルノにおいては、舞台劇を演じているのですが、その中ででてくる妹は、富手演じる主人公の妹と重なっていますし、彼女が自分自身の初体験をしたシーンを映画にとっているといった部分などは、もう、彼女自身の倒錯した心理状態そのものが舞台劇になっているという構造になっています。


ロジック通りにぴたりとはまるようなものではありませんが、夢を見ているとおもっているほうが夢であるということもある、というメタ構造の作品となっており、そのあたりを意識しないと混乱するかもしれません。


すべては、少女の心の中の出来事かもしれず、かといって、それがまったくの作り事かというとそうではない、ということが明らかになります。

 

園子温は変わらない。

もちろん、本作品には、今までの園子温作品の要素がたっぷりつまっており、ファンであれば、何度と無くみたような光景を見ることができるでしょう。


「クソのようなわたし、くそったれなやつら」


小説家というわりには、語彙に乏しい主人公は叫びます。


嘘のようなやり取り、大げさで、大雑把な精神構造のキャラクター。


これがメタ構造だとわかるまでのやや30分は、ちょっと辛いかもしれません。


富手麻妙のヌードがいきなりみれる驚きはあるものの、本作品には、裸はありますがポルノはありません。

エロくないエロを目指してつくられた本作品を、エロ目的で見る人にはオススメしません。


ただし、園子温監督のファンであれば、今までの作品の片鱗をみることができる映画となっています。

 

「自殺クラブ」などからも見られる血しぶきの表現。

地獄でなぜ悪い」では、部屋中が血で冠水するほどのとんでもない表現をだしていましたが、「アンチポルノ」においても、部屋中が色にまみれるシーンがあり、キャラクターの心理状態を含めた演出がされています。


園子温監督作品の中では、比較的小粒な作品といえなくもないですが、風味の変わった映画をご覧になりたいかたは、ロマンポルノな世界に踏み込んでみるのも、面白いかもしれません。

 

以上、園子温の描くエロの先/アンチポルノでした!

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