シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

戦場は男の世界/ローン・サバイバー

ローン・サバイバー(字幕版)

 

戦争は常に悲劇を生むものですが、その中で戦っている人たちがいることもまた事実です。


マーク・ウォールバーグ主演「ローン・サバイバー」は、アフガニスタン紛争におけるアメリカのタリバン政権への軍事行動であるレッド・ウィング作戦を取り扱った作品となっています。


この作品は、たしかに軍事的な作戦を取り扱った内容ではありますが、物語の前半は、男たちの世界についてかたられたものとなっており、後半については、怒涛の戦闘シーンとなっています。


本記事においては、そのあたりに見所を含めて感想&解説を述べてみたいと思います。

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ネイビーシールズ

ネイビーシールズとは、アメリカ海軍の特殊部隊であり、アメリカ軍の中でも最強の部隊となっています。


近年における活躍は凄まじく、トム・ハンクス主演「キャプテンフィリップス」などでもその活躍が映画化されています。

 

 

ローン・サバイバー」では、ネイビーシールズの4人の活躍に主眼をおき、レッドウィング作戦前後の生活を描くことで、作戦の内容と言うよりも、作戦に参加したシールズたちの生き様を描いています。

 

漢(おとこ)の世界

この作品は、数ある戦争映画とは一線を画している部分があります。

それは、この作品は戦争そのものを描くということよりも、彼らが男の世界で生きている、という点を強調していることです。


マーク・ウォールバーグ演じるマーカスは、恋人から婚約の証として、二匹の白馬を要求されます。

なぜこんなものを恋人が要求するのでしょうか。

ネイビーシールズにいればお金が沢山手に入るから馬ぐらいどうにでもなるということなのか。

恋人がお嬢さんだからそういう要求をしてくるのか。

そういうわけではおそらくありません。

その理由は、そのあとの映像をみていくことでなんとなく見えてきます。


冒頭では、上半身裸の男たちがむきむきの身体をみせつけながら走っています。

その映像は、どことなくホモソーシャルな雰囲気を感じさせるものです。

男同士の、というよりは、男の世界であり、入り込めないセカイをつくっている空間とみたほうが大間違いはしないと思われます。


物語のオープニングでは、ネイビーシールズに入るための訓練の様子が描かれ、その過酷さがあっという間に映し出されます。


そんな条件をクリアして入隊した彼らは、兄弟なのです。


では、そんな前提をもとに、恋人からの白馬の要求がどういうことかと考えれば、なんとなく、意味はつかめます。


つまり、二匹の馬は男の世界でじゃれあうものを表すとともに、そんな高価なものを要求する時点で、恋人は思っているのです。

あんたは、男の世界でいるから、どうせ結婚するつもりなんてないんでしょ、と。


だから、絶対に買えないだろう馬を要求しているに違いありません。

入隊の儀式

パットン二等兵曹が新人として入ってきたとき、みんなから色々なことを要求されます。


自己紹介をしろ、ダンスを踊れ。


非難が殺到する中、彼らはパットンに言葉を要求します。


「戦いからは、決して逃げない」


彼らの中の大事な言葉を言わせることで、ネイビーシールズというフラタニティに入れるためのイニシエーション(通過儀礼)をしていることがわかります。


ちなみに、イニシエーションについて描かれている作品は、ほかにも沢山あり、アニマルハウスや、最近のものであればピッチ・パーフェクトといったものもあげられるところです。

 

cinematoblog.hatenablog.com

 
何か強烈な負荷をかけ、それを乗り越えることで入会させる。

ネイビーシールズの場合は、入隊のための訓練に加えて、仲間たちから認められることが必要なのです。


パットン二等軍曹に対して、面白いこともいえないことに対してみんなが不平を言っているのは、何を考えているかわからないやつに、命なんて預けられない、という必要にかられた部分もあるはずです。


そんな彼らだからこそ、認めた部隊の人間を兄弟と思っているのです。

 

究極の選択

物語の後半に入ってくると、レッド・ウィング作戦が発動され、偵察にでた4人の究極の選択から、戦闘への流れにうつっていきます。

 

作戦行動中に、目の前に暗殺するべき相手がいる。

しかし、作戦本部との通信がうまくつながらないために機会を逃してしまう。

また、現地の羊飼いと接触してしまったことで、彼らを殺すか生かすかで判断することになるなど、いくつかの不幸が重なります。


「市民を殺していいのか」


軍隊とはいえ規律があります。

敵地の相手だからといって民間人をただちに殺していいということにもなりません。

ですが、もし現地人を殺さなければ、敵に通報されてしまい、自分たちが危うくなってしまうかもしれないのです。


本部との連絡もとれないまま、彼らは究極の選択を迫られます。

 

不死身のネイビーシールズ

戦闘が始まってからは、怒涛の展開です。


映画のあらすじによれば、4VS200という圧倒的に不利な条件の中で戦い抜いたそうです。


敵の武器はかなり精度が低いとはいえ、相手は圧倒的多数です。次々と現れる敵に対してなすすべなく追い詰められていきます。

撃たれたり、崖のようなところから落下したりしながら、逃げ延びる姿は不死身そのものです。


後半にも補足しますが、このあたりの描写について演出が強いようには思われます。


ただし、これはネイビーシールズという部隊がいかに屈強であるかを表したものとして捉えることができます。


どんなに厳しい条件でも戦い抜く。

そんな中でも、精神をおかしくしていったり、頭をすこし吹き飛ばされながらも戦闘を続ける彼らの姿には圧倒されます。

 

ものすごい戦闘シーンのあと、マーク・ウォールバーグ演じるマーチスは、絶体絶命のところを現地人の親子づれに助けられます。


現地人の親子は、パシュトゥーンの掟という、敵から追われている者を、自らの命を懸けて助けよという掟に従ってマーチスは匿われます。

このような事実を知らないと、なぜ現地の親子が助けてくれたのかわかりませんし、村の住人がタリバンに全滅させられるかもしれないにもかかわらず、アメリカ人を助けたのかがわかりません。


匿われながら、マーチスがナイフで自分の足に刺さった金属の破片を抜き取るところなどは、映画「ランボー」を思い出すような痛々しくも激しい場面になっています。


事実に基づいた物語

本作品は、「アフガン、たった一人の生還」を原作に映画化されたものであり、ネイビー・シールズ史上最大の悲劇であるレッド・ウィング作戦の物語であることはもはや書くまでもないかと思います。

 

アフガン、たった一人の生還 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

アフガン、たった一人の生還 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

 

 

実は、原作となったものが事実と異なる部分があったりして賛否がある物語ではありますが、本作品は、あくまで映画「ローン・サバイバー」として楽しむことをオススメします。


本作品は、ネイビーシールズというアメリカ屈指の最強部隊にいる男たちの世界をえがき、レッドウィング作戦で命を燃やした男たちの戦いを映し、掟に従って客人(マーチス)のために命をかけた人たちの物語です。


絶体絶命の状況に陥ったとき「戦いはからは、決して逃げない」という教えを思い出すことで、一歩踏み出す勇気がでるときもあると思いますので、事実との齟齬など気にせずに、純粋に映画作品としてみてみることで大いに勇気付けられるに違いありません。


以上、戦場は男の世界/ローン・サバイバーでした!

 

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