怪獣は海からやってくる。/パシフィック・リム
巨大な怪獣と、巨大なロボットが町を壊しながらバトルする。
それだけで、少年の心をもった人はわくわくすることでしょう。
でかいもの同士が闘うという迫力と、怪獣に取り付かれてしまった人間の責任と苦悩を描いている映画。それこそが、映画「パシフィック・リム」です。
監督は、「パンズ・ラビリンス」などで有名な、ギレルモ・デル・トロ監督。
この監督は、非常に日本が好きで、特に「パフィシック・リム」では強い影響を受けている、というか、かなりそのまんまなものになっている部分もありますので、とにかく少年が大好きなものを全部詰め込んだら、こんな映画になってしまった、というのを感じつつ、作品の見所を解説してみたいと思います。
怪獣と巨大ロボットが並存するセカイ
「パシフィック・リム(Pacific Rim)」は、直訳すれば、太平洋の縁ということになります。
この場合の縁とは、おそらく、怪獣たちが現れる次元の裂け目を表しているのだと思われます。
この世界では、ある日突然、海底に裂け目が発生し、その中から「怪獣」がやってきてしまいます。
その怪獣は強い放射能をだし、身体の中を強力な酸がめぐっているとんでもない生物です。
その怪獣を倒すためには核兵器をつかわなければならず、その影響の大きさから、イェーガーと呼ばれる人型の兵器が建造されたというのが、大枠の設定となります。
80メートルを超える巨大なロボットは、人間一人で動かすにはあまりに負担が大きいため、二人の人間が脳を繋いで一つのロボットを操作するという設定のもと、多くの戦闘が繰り広げられています。
戦闘は、基本的にロボットと怪獣による肉弾戦になっています。
腕からプラズマ砲をうったり、回転ノコギリが手からでてきて怪獣を切り裂いたりもしますが、基本的にはパンチがメイン攻撃です。
マシンの塊が行うのが、殴り合いっていうのが実に胸を熱くさせます。
マジンガーZなどでもお馴染み、ロケットパンチ(字幕ではエルボー・ロケット。吹き替えでは、杉田智和氏による声で叫ばれる)も放たれるので、古くからのロボットファンの方も納得のロボット世界です。
これは余談ですが、かつて伝説のゲーム機メガドライブやスーパーファミコン等で存在した、「キング・オブ・ザ・モンスターズ」を思い出させるところです。
このゲームは、怪獣を操作して、地球に現れる怪獣を、プロレスっぽい方法で倒していくというゲームでしたが、このゲームを映画にしたらこんな感じ、といったところでしょうか。
こだわった設定
とにかく、パシフィック・リムを見て楽しみたいのはそのディテールです。
主人公のローリーがイェーガーに乗り込むときのシーンだけで、その細かさがわかります。
専用のスーツを着こんでイェーガーに乗り込むのですが、その乗り込むまでにいくつかの段階を踏んでいます。
一人では切れないスーツであるため、スタッフに着せてもらうところから、実際にイェーガーに乗り込むまでの間に、どれだけの試作が重ねられてきたかがみてとることができるのです。
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どういうことかと言いますと、ロボットと怪獣がでてくるという性質上、そのほとんどがCGで製作されています。
CGといえば、どうしても、質感をだすのが難しく、ツルツルしてみえたり、新品同然のものにみえがちです。
ですが、パシフィック・リムでは、つかっていく中でボロボロになってしまったであろうところが、そのまま表現されているのです。
はじめは汚れかな、と思うのですが、ところどころ錆びていたりするあたりから、歴史的なものが積み重なっているのがわかり、主人公たちが、たしかにこの世界で長年イェーガーに乗って怪獣と闘っているのだな、と感じ取ることができるのです。
また、主人公がのるイェーガーが壊れて、中身がみえてしまうシーンがあるのですが、その中身の骨組みが、ミツバチの巣でみられるような、6角形の骨組みが集まってできているのが見て取れます。
この構造によって、80メートルを超える巨大な建造物が自重で壊れないようにして強度を保ちつつ、柔軟性と建造費を安く抑えようとする開発者の意図すらわかってしまうのです。
設定の作りこみは、この作品を、映像的にみて素晴らしい作品にしている大きな特徴です。
ギレルモ・デル・トロ
ギレルモ・デル・トロ監督は、日本のオタク的カルチャーに思いっきり影響を受けた人物です。
中でも、代表作の「パンズ・ラビリンス」は、スタジオジブリ・宮崎駿監督の影響を受け、スペインの内戦のもと迫害を受けている少女が、ファンタジーな世界へと足を踏み入れてしまう姿は、「千と千尋の神隠し」や「となりのトトロ」を混ぜて、非常にダークにしたテイストになっており、ジブリファンであれば、はっとさせられる場面がちりばめられています。
そんなギレルモ監督が、日本のアニメ・漫画・特撮といった日本文化を思いっきり詰め込んだという点も「パシフィック・リム」の魅力です。
印象に残る場面としては、イェーガーが暴走するシーンです。
ヒロインである森マコ(菊池凜子)が、主人公と脳を同期させるドリフトの最中に、過去のトラウマを思い出してしまいます。
記憶の中では、かつて日本を襲った「オニババ」という怪獣が彼女を襲います。
過去の記憶の怪獣にもかかわらず、それを倒そうとして、マコが本物のイェーガーを動かして、訓練室のようなところでプラズマ砲を撃とうとして、危機一髪というシーンがあります。
このパイロットの訓練室のような場所が「新世紀エヴァンゲリオン」にでてくる、エヴァが格納された第7番ケイジに酷似しているのです。
エヴァンゲリオンでも、暴走しかけたエヴァがガラスを割ろうとするシーンなんかもあって、影響を受けているとしか考えない場面でもあります。
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また、パイロットが着るスーツは、黄色い液体が満たされています。
これは、エヴァンゲリオンのエントリープラグに入る際に注入されるLCLと呼ばれる液体呼吸を可能にし、エヴァとつながるための液体とほぼ同じ存在です。
さらにいえば、シンクロ率と呼ばれるもので、エヴァとの同期をはかるのですが、パシフィックリムでは、パイロット同士の脳のシンクロ率が重要とされています。
エヴァンゲリオンばかりだと偏るので、他も取り上げますが、怪獣に勝つことを諦めた政治家たちは、命の壁と呼ばれる壁を建設します。
ただ、怪獣はその壁を軽々と破壊してしまって、人々は絶望してしまう、というシーンがあるのですが、これは、もう「進撃の巨人」を思い出させます。
とはいえ、進撃の巨人の影響を受けているかは怪しいですが、細々としたところで日本のアニメやを取り入れているところが面白いです。
本田猪四郎監督に捧ぐ
作品のエンドクレジットには、
『この映画をモンスターマスター、レイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に捧ぐ』
と献辞が表示されます。
レイ・ハリーハウゼンは、アメリカの特撮映画の歴史に燦燦と名前を残す偉人です。特にジョージ・ルーカスはその影響の大きさを語っているところです。
また、本田猪四郎監督といえば、初代「ゴジラ」の監督であり、「ガス人間」や「マタンゴ」といった素晴らしい作品をつくりだした、日本が誇る映画監督です。
パシフィック・リム全体を貫く思想は、まさに本田猪四郎監督そのものといえます。
初代「ゴジラ」については、本ブログの園子温監督映画「ラブ&ピース」でも少し取り上げておりますが、ゴジラは原爆によって生まれた怪獣とされています。
そのため、放射能の光線を吐くときには、背びれが青白く光るというのが大きな特徴です。
普通の生物では、青白く発光するなんてことはありませんが、それができるのは、映画だからこそ、といった点においても、ゴジラは大きな意味を持ちます。
ゴジラは、海底から現れます。
だから、パシフィックリムでも、あえて「やつらが現れるなら宇宙からだと思っていた。でも、実際は太平洋から来た」とナレーションが入って、海底から怪獣があわれるのです。このあたりの設定は、ゴジラが影響しているためと思います。
出現する怪獣たちもまた、青い溶解液を吐いたり、体が青白く光ったりしますが、ゴジラの意匠を意識しているからにほかなりません。
人間ドラマはそこそこに
さて、外枠の話などをして、物語そのものの内容はほとんど書いておりませんが、そんなものは「パシフィック・リム」には必要ありません。
主人公は、兄を失った悲しみを抱えて、一度は世捨て人のようになりますが、彼は再びイェーガーのパイロットとして立ちなおれるのか。
ヒロイン演じる菊池凜子は、子供の頃のトラウマを乗り越えて、イェーガーのパイロットになれるのか。
親子の対立などを乗り越えながら、どのように怪獣に立ち向かうのか、というところはあるのですが、人間ドラマはほとんどありません。
巨大なロボットがでてくる。怪獣がでてくる。
倒す。
これです。
ですが、一方で、この物語は、怪獣に取り付かれてしまったオタクたちのドラマも描いています。
怪獣オタクが世界を救う
ニュートン・カイズラーという生物学者と、同じく数理学者のハーマンという男たちの物語としても「パシフィック・リム」は面白くみることができます。
ニュートンことニュートは、全身に怪獣のタトゥーをいれるぐらいの怪獣好き。
怪獣の大きさや特徴を全て覚えており、怪獣が好きでたまらないといった人間です。
ニュートは、かつて誰しも少年だった頃の、怪獣図鑑に胸を躍らせ、ウルトラマンよりも倒される怪獣にこそ感情移入してしまう人たちの象徴ともいえる人物です。
実際に、怪獣が多くの死者をだしている以上、怪獣好きを公言するというのは、それだけで変人だと思われます。
でも、それでも、怪獣が好きであるという人物は存在してしまうのです。
あまりに、怪獣が好きであるために、怪獣と脳を同期させてしまうという怪獣愛は、この作品でなければ到底たどり着けない領域です。
そして、いがみ合っていた数理学者の男もまた、自分の真理のため、結果として二人は協力しあい、人類を救うための情報を、怪獣の頭から入手。
怪獣オタクや、数学オタクが世界を救うという物語にもなっているのです。
パシフィック・リムをより好きになるために
とにもかくにも、パシフィック・リムは、日本のオタクカルチャーを非常にリスペクトした作品になっており、類似する部分などはおのずと見えてくるところかと思います。
冒頭でも書きましたが、理屈はともかく、デカイ怪獣と、デカイロボットが闘う。この単純な図式が好きな人であれば、一見の価値があると思います。
ちなみに、パシフィックリムの前日談にあたるイヤーゼロもコミックで発売されています。
パシフィックリムは、冷静にみてみると、それぞれのキャラクターの闘う動機や、トラウマの乗り越えがあっさりしています。
こんな簡単にわだかまりがなくなってしまうのか、という部分もありますが、この作品は、映像的な面白さを追求しているため、そのあたりは、ばっさり切っているのではないかと思います。
ですが、やっぱり、主人公たちに明確に感情移入したい、という方は、コミック版は、人間ドラマ部分が大半の作品となっておりますので、パシフィックリムをより楽しむためにも、気になる方は、映画とあわせて見てみるのもいいのではないでしょうか。

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以上、「怪獣は海からやってくる。/パシフィック・リム」でした!
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