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シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

人間どこで頑張るのか/内田けんじ「鍵泥棒のメソッド」

鍵泥棒のメソッド

 

邦画のオススメを紹介するブログなどの中でも、高確率で選ばれる作品の一つとしてあげられるのが、内田けんじ監督「鍵泥棒のメソッド」です。

鍵、泥棒、メソッド。

という、まとまりそうでなんだかよくわからなそうなタイトルに惹かれる人もいれば、なんとなく敬遠してしまう人もいると思いますが、練られた脚本と、コメディタッチで明るく語られる物語は、非常に後味もすっきりした作品となっています。

そんな「鍵泥棒のメソッド」について、どのような魅力があるのか解説してみたいと思います。

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内田けんじ監督。


内田けんじ監督といえば、PFF(ぴあフィルムフェスティバルスカラシップ作品にもなった「運命じゃない人」や、大泉洋や佐々木倉之助、堺雅人が出演した「アフタースクール」をつくっています。


PFFスカラシップといっても、人に寄っては聞きなれないかもしれませんが、園子温監督などもまたスカラシップ作品として「自転車吐息」を撮影しており、お金がないけれど情熱のある若者にとって、奨学金をもらいながら映画をとれる、という素晴らしい企画なのです。

 

さて、そんな内田けんじ監督の作品で比較的共通しているのは、その脚本ではないでしょうか。


運命じゃない人」は、クェンティン・タランティーノを思い出させるような時間軸をずらした話として(ただし、インタビューで監督はタランティーノは意識していないということでした)、何気ない男の失恋と恋に前向きになろうとする姿勢の裏側で起こる、事件が描かれています。


「アフタースクール」でも、一見すると、妊娠した妻を置いたまま愛人に会いにいって行方不明になった男を捜す物語とみせつつ、映画的手法をつかって視聴者をだますなど、脚本を重視した作品作りが特徴です。


さて、「鍵泥棒のメソッド」では、記憶喪失の殺し屋、仕事のように婚カツする女性編集長、自殺しようとした役者の三人がおりなす作品となっています。

 

まるでマンガのようなキャラクター


鍵泥棒のメソッド」で面白いのは、メインとなる3人のうち2人が、その人物だけをメインにした作品として抜き出したとしても、それなりには成り立つ話しだということです。


物語冒頭では3人が簡潔に紹介されます。

突然「私結婚することにしました」と言った34歳の女性編集長を務める広末涼子演じる水嶋香苗。

彼女は予定通りに仕事を終わらせ、机まわりも常に綺麗で、きっちりとしています。

手帳にはびっしりと予定が書き込まれ、それを確実にこなしていくことが彼女にとっての喜びの一つだということがわかります。

その彼女が、結婚に対しても、相手もいない状態の中で、予定を組んですすめていこうとするところに面白さがあります。


部下が好みを聞きます。

「どのような人がいいですか」

「そうですね…。健康で、努力家の方であれば」


婚カツをテーマとした恋愛映画としても十分面白いキャラクターです。

広末涼子演じる水嶋は、次々と恋愛で失敗していく姉を反面教師として奥手になっていったのですが、仕事のようには恋愛はうまくいかないことや、その中で、自分にとって恋愛をするということはどういうことかということに向き合う話となっています。

 

そして、もう一人は香川照之が演じる便利屋の男であり、記憶喪失になってしまう男、山崎です。


山崎もまた非常に丁寧な仕事をしているのですが、物語冒頭では、会社役員の男を包丁でめったざしにし、手馴れた手つきで車のトランクに押し込んでしまいます。


きっちり仕事をこなす広末涼子演じる水嶋と、人の命を左右するような出来事であっても、きっちりと仕事をこなす香川照之演じる山崎との、物事に対するきっちりさによる皮肉が面白いところです。


そんな山崎は、銭湯で不運にも頭をうち、記憶喪失となってしまうことで、記憶はないものの「健康で、努力家な方」である面を発揮。

タイミングよく出合った水嶋は、彼に心惹かれていくのです。

 

この二人は、それぞれ、ある程度主人公を務めることができそうなキャラクターですが、その二人を出会わせ、「鍵泥棒のメソッド」を一つの大きな物語にしたてあげてしまうキャラクターこそが、堺雅人演じる桜井武史なのです。

 

自殺しようとした役者


堺雅人演じる桜井は、ファーストショットからいい味を出しています。

天上から、床に倒れている桜井を撮っています。
珍しいシーンだなと思っていると、ボロアパートのシーリングが落ちていることがわかります。

そのことから、彼はそこで自殺をしようとし、あっさり失敗したことがわかってしまうのです。


このようにファースト・シーンだけで説明なしに物語の前提がわかるようにとられているシーンは、「運命じゃない人」でもみられます。

女性が大きな荷物を抱えながら、持っていた鍵をドアにある郵便受けにいれるシーンが冒頭で、台詞なしで描かれます。

映画の手法として比較的当たり前かもしれませんが、内田けんじ監督は意識して多く多様しているように思われます。

 

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 部屋はぐしゃぐしゃでお金もない。

そんな彼が見たのは、銭湯の無料券。


その男の突飛な行動が、婚カツ女性編集長と便利屋をやっている男を結びつけるプロットのはじまりとなるのです。

 

 

鍵を泥棒する男のメソッド(方法論)

 

風呂場で頭をうち記憶を失った男と、ロッカーの鍵を入れ替えるところから物語は始まります。


物語の冒頭だけみていると、堺雅人演じる桜井は、あまりいい奴ではないように見えてしまいます。

ですが、彼は、本来は非常にお人よしな男です。


なぜ自殺しようとしたのか、ということは映画をみていただくとして、彼は人のお金とはいえ、それを次々と友人に返していきます。

お金がないせいで友人にすら会いにいけなかった男ですが、友人たちに対して格好をつけられません。ですが、そんな男が命をかけて格好をつけていくのです。

 

見どころ

この作品の見所としては、やはり、記憶を失った香川照之が、桜井武史として生きて、記憶が戻るまでがドキドキするところです。


香川照之演じる山崎は、お金もちです。

便利屋家業をやっているおかげで、お金はあるし、それをやり遂げるきっちりとした仕事っぷりも世間では評価されている。


その彼が、突然記憶を失って、30歳を過ぎても独身で、ボロアパートに住んでいて、しかも、お金も無ければ家族も無い。しかも、役者を目指していながら芽がでていない男だったと思ってしまったわけですから、その絶望は大きいです。


「これじゃあ、死にたくもなりますよ」


記憶を失った山崎は、自分を桜井だと思い込んで自分の人生を嘆いていますが、それを聞いている本当の桜井武史(堺雅人)の傷つく様などは、非常によく出来たコメディとなっています。

 

また、小道具の使い方がうまいのも特徴の一つです。

「恋っていうのはね、ムネがキューンとするものなの」

と言うシーンなど、しつこいぐらいにあることが発生したりするのも、あとで、くすりと笑ってしまえるところです。

 

環境なのか、努力なのか。


香川照之演じる山崎は、記憶を失っていてもきっちりとした性格はかわりません。

なけなしのお金でノートを購入し、自分の知っていることや、財産目録などを事細かに書いているのです。

そのノートをみた、広末演じる水嶋でも「すごいですね」と驚くほどです。

「役者の勉強もしなくちゃと思いまして」


と、彼は役者の勉強もはじめます。

役者として全然目がでなかった桜井と違い、記憶を失った山崎は努力の成果もあって、めきめきと成果をあげていくところが面白いところです。

まったくゼロのところから始めた山崎ではあるものの、持ち前の努力家としての気質のおかげで、本物の桜井とどんどん差がついていき、逆に、山崎のふりをしている桜井は、どんどん堕落していって、結局、もとのボロアパートとさほどかわらない生活になっていくあたり、いかにその人間自身の姿勢が大事であるかがわかる、皮肉な物語にもなっています。

 

現実VS虚構


ここにでてきた3人のキャラクターは、非常にマンガ的な人物であるといえます。

しかし、これはキャラクター批判ではなく、この作品の中での皮肉としてつかわれているように思われるのです。


3人のキャラクター以外の人物は、現実的な人間が多いです(桜井の住むマンションの住人も変わっていますが、それはこの際おいておきます)。


冒頭で山崎が刺した会社の役員の愛人に対して、山崎は言います。

「岩城社長と会えるんだぞ、嬉しくないのか」

「あんなじじぃ」

「じ、じじぃってお前」


実は、香川照之演じる山崎も、広末涼子演じる水嶋も、堺雅人演じる桜井も、実は恋愛や仕事に対して、憧れをもっているところがあるのです。

理想といってもいいかもしれませんが、水嶋はコンカツをする中で、部下に男の写真を次々と見せられます「ありです」「ありです」「ぎりぎり、ありです」「ありです」

と。

ほとんどの男性にOKをだす水嶋ですが、仕事のように結婚相手はスケジュール通り見つかりません。

理想と現実の中で、自分の中にある恋愛観に気づいていくのです。


また、香川照之は、自分のでていった奥さん(婚約者?)に対してもおそらく、純粋なものを求めていたのではないでしょうか。

そうでなければ、社長の愛人を逃がそうとしたときに、人間の愛情みたいなものを信じたりしなかったはずだからです。

クールに見えて、心の底では、人間を信じたいというところが面白いところです。

きっと、山崎は、社長の愛人が「社長とあえるなんて嬉しいわ」と言ってくれると思っていたはずなのです。

でも、現実は違っており、お金を貢げなくなった社長に対して愛情なんて感じている様子もなかったのです。


堺雅人演じる桜井にとってもそれは同じで、自分は役者としてなかなか目がでなかったものの、ずっと好きだった彼女と結婚するものだと思っていた。

しかし、現実は異なり、元彼女は自分のことなどなんとも思っていなくて、さっさと次の相手を見つけていた、という男の悲しい性が描かれます。

ちなみに、彼女が別れて半年で結婚を決めていて、しかも、自分の荷物が部屋にまだあって捨てられる、もっているという状況は、「運命じゃない人」の主人公の逆パターンとなっています。


内田監督作品では、セルフパロディが多いのも特徴となっています。


ピンチに陥った山崎が、荒川良々演じる工藤という男に対して「コンドウには愛想が尽きたんです。実は、片岡組で、男が二人やられた件、あれにもコンドウがかかわっているんです」

と、前作「アフタースクール」ででてきた片岡組、そして、その中で、佐々木倉之助演じる男の、部下が同じようにして密告されてしまうというシーンそのままとなっています。


そのため、内田けんじ監督作品は見ればみるほど、そのセルフパロディで、にやりとできる部分もありますので、そのあたりも、是非注目してみてもらいたいと思います。

 

虚構だって勝つ

ネタバレは避けますが、物語の終盤で、堺雅人演じる桜井が一世一代の演技を行います。

演技の経験のなかったはずの便利屋の男に、殺され方の演技を指導されるあたりも面白い部分ですが、その命をかけた演技こそが見所の一つです。


そこで、演技とか、何より自分自身と向き合ってこなかった桜井が、成長する場面なのですが、それは、荒川良々演じる工藤の台詞によって一刀両断されてしまいます。


「なめてんじゃねえぞ」


虚構のキャラクターのような彼らは、現実的なやつらにばっさりとやられてしまいます。

 

ですが、最後のどんでんがえしもまた、虚構のような彼らが、非常にあっさりと、現実的な方法で、決着をつけてしまうところが皮肉が利いていてよいところです。

 

鍵泥棒のメソッド」は、記憶喪失になって入れ替わってしまった人たちと、その周りの人物たちにふりまわされる人々を取り扱った作品でありますが、コメディタッチで軽いノリの中に、人生に対してどういう風に生きていくべきか、ということがわかる作品となっています。


人生はいくつになっても、ちゃんとやり直しができたりする、ということも教えてくれる良作となっておりますので、オススメ邦画として選ばれる本作品ということもありますが、食べず嫌いをせず、見てみることをオススメします。


以上、「人間どこで頑張るのか/内田けんじ「鍵泥棒のメソッド」でした!

 

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