純愛・爆走。ライアン・ゴズリング主演「ドライブ」
「最もセクシーな男性」2位にも輝いた男でもあるライアン・ゴズリングですが、そのライアン・ゴズリングが主演を務め、寡黙なドライバーを演じた「ドライブ」について、非常に映画的である作品の見所について考えてみたいと思います。
ドライブというタイトルの本作品ですが、思ったよりもカーアクションが多くありません(わずかに2回)。
ドライブというぐらいですから、時速何キロ以下になると爆発するとか、タクシーで爆走するとか、とにかく、あらゆる車を吹き飛ばしながら、次々と車が爆破されるものだと思っていたら、肩透かしを食らうことになります。
「ドライブ」は、愛と暴力の物語なのです。
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主人公はカースタントマン
「仕事は?」
「運転すること」
ライアン・ゴズリング演じる主人公は、映画などのカースタントマンや、車の整備工場で働き、夜は、泥棒の逃がし屋をやっています。
泥棒はお金を盗みに施設に侵入するわけですが、逃げきらなければ意味がないのです。
そこで、卓越したドライビングテクニックをもつライアン・ゴズリングが、ビジネスとして泥棒を逃がすのです。
警察から逃げるカーアクションも非常にスマートです。
よくあるものであれば、パトカーがどんどん壊れるところだったり、信号を無視して、大事故を起こしながら突破していくところですが、「ドライブ」は違います。
警察の無線を傍受し、時にはライトを消し、時には橋の下にもぐりこんでヘリをやり過ごす。
そうかとおもえば、300馬力の車が一気にパトカーを引き離す。
そんな超人的な精神力をもつ男が、人妻に出会うことから物語は動きます。
寡黙に、演技で。
この映画では、ライアン・ゴズリングはほとんどしゃべりません。
会話はしますが、必要最低限のことしか言わないのです。
そんな彼が、17歳の肖像などでおなじみの女優キャリー・マリガン演じる女性アイリーンと出会ってしまうのです。
ライアン・ゴズリング演じる主人公は、どこでドライブテクニックを手に入れたのか、なぜ泥棒を逃がすことをビジネスとして行っているのか、まったく説明されません。
ですが、言葉数の少ないライアン・ゴズリング演じる主人公を見ていると、何かわけありだったことが判るのです。
この作品では、台詞が少ないかわりに、表情や目線の動きで感情がわかるようになっているのがポイントです。
ライアン・ゴズリングはたまたま入ったスーパーで、キャリー・マリガン演じるアイリーンを見つけてしまいます。
その行動から、彼が彼女に惹かれているけれど、かかわってはいけないという理性を働かせて、スーパーからでていきます。
ですが、困っている彼女をみて、結局かかわり合いをもつことになってしまうのです。
もちろん、人妻だからかかわってはいけないわけですが、結局、彼はアイリーンと仲良くなっていってしまうのです。
純愛
車の中のシーンが印象的です。
キャリー・マリガンは、運転をするライアン・ゴズリングを何度も横目でチラチラ見ます。
その表情は嬉しそうで、たんに、自分や、子供に親切にしてくれる男性というだけで見ているわけではないのがわかります。
彼らは一線を越えることはありません。
お互いに目を見つめあいながら、ニコニコしたりするだけです。
車内の映像も面白く、常にバックミラーでライアン・ゴズリングとキャリー・マリガンが一つの映像に収まっています。
仲がいい二人ですが、彼女には刑務所に入っている旦那がいることが発覚してしまうのです。
「旦那が、刑務所にいて、一週間後にでてくるの」
ライアン・ゴズリングは、その旦那のために、自ら身を引こうと決意します。
さそりとかえる
ライアン・ゴズリング演じる主人公は、さそりの刺繍がはいったスカジャンを着ています。
なんでさそりなのか。
劇中では、さそりのかえるの話しが少しだけでてきます。
これは、ベトナムの童話ということだそうです。
サソリが川をわたるために、カエルに対して背中の上に乗せて向こう岸に運んでもらえないかと頼みます
刺されるからと、断るカエルですが、「背中に乗っているときに刺してしまったら、お互いに死んでしまうから刺さない」といわれて、川を渡ります。
しかし、向こう岸に着く前に、サソリはカエルを刺し、二匹とも沈んでいってしまうのです。
そのとき、「刺さないって言ったじゃないか」というカエルに、サソリは「これが、俺の本性だから」といいます。
解釈の余地はあるでしょうが、結局のところ、いくら理性や理屈をこねてみようが、もともともっている性質は変えることができない、ということで大きく間違いではないでしょう。
さそりのスカジャンをライアン・ゴズリングが着ている、ということは、すなわち、彼こそがさそりだ、ということを簡単に示唆していると考えられます。
ライアン・ゴズリングは、アイリーンと出会う前から、泥棒逃がしをしながらも一般的な世界で生きようとしていることがわかります。
彼は、いつの間にか町に流れ着き、堅気として暮らしていた。おそらく、暴力にまみれた世界にいた彼は、そこから抜け出したのでしょう。
いわば、これが、カエルを刺さない、というライアン・ゴズリングの考えではないでしょうか。
しかし、アイリーンの旦那を助けるために、彼は、暴力という針を使うことになるのです。
究極のキス
この映画の中でも、特に印象的であり、意味深いシーンがあります。
マフィアに命を狙われ、アイリーンと一緒にエレベーターに乗るシーンです。
一緒に乗ってきたスーツの男の懐に銃が見え、ライアン・ゴズリングは、アイリーンに対して、最初で最後のキスをするのです。
それまで、ただニコニコするだけだった男が、自分の中のさそり(本能)をどうすることもできないと覚悟する重大なシーンです。
アイリーンに対して、ただ一度だけのキス。
また、その行動によって、敵に一瞬のスキをつくる。
エレベーターという狭い空間の、わずか一瞬の出来事が、非常に美しく描かれているシーンとなっています。
その後、敵を撃退するのですが、エレベーターの外にでた奥さんは、ライアン・ゴズリングの凶暴性(さそり)を見て驚愕します。
そのあとに、エレベーターの扉が閉まります。
その映像だけで、一時的にしても、アイリーンが、ライアン・ゴズリングを拒絶した、あるいは、距離が遠くなった、ということが映像的にわかるところが素晴らしいです。
美しき恋愛
この映画は、暴力性をもったライアン・ゴズリング演じる主人公が、それを堪えていたものの、結局は、暴力性を発揮してしまう、という悲哀が描かれ、バイオレンス満載であり、一方で、肉体関係を必要としない純愛を描いた作品です。
純愛と書きましたが、あくまでキャリー・マリガン演じるアイリーンは人妻です。
ですが、作中で、キャリー・マリガンが、旦那もいて、子供もいるのに、自ら誘いにいっているように見える場面があります。
職場の場所をきき、車が壊れたとはいえ、わざわざライアン・ゴズリングが務める職場に車を預けにいく時点で、おかしいのです。
ですが、作中で描かれますが、彼女は17歳のときに旦那に声をかけられて、翌年には子供を出産し、結婚します。
子供のまま彼女は結婚してしまった、ということがわかります。
そんな中で、彼女はライアン・ゴズリングと出会い、はじめて、恋をした、ということなのだろうと思うのです。
肉体関係もなく、にこにこと彼の表情をみる姿は、恋する乙女のそれです。
ライアン・ゴズリングもまた同じです。
お互いに踏み込めない傷が事情がありながら、それでも惹かれあい、そして、それは、とんでもない暴力の上に成り立っているという事実が、映画に深みを与えています。
この映画は、敵キャラもまた魅力的です。
その暴力性の中で、どのようにして生きるのか。
ムダのない台詞。
ブライアン・デ・パルマを思い起こさせる画面の動きや、カット割りなど、見るべきところが沢山ある映画となっていますので、気になった方は、是非ご覧いただきたいと思います。
以上、純愛・爆走。ライアン・ゴズリング主演「ドライブ」でした!