物語の意味は。/クラウドアトラス ウォシャウスキー姉弟
映画「マトリックス」シリーズで大ヒットを記録し、一躍有名監督になったウォシャウスキー兄弟ですが、そのウォシャウスキー兄弟が映像化不可能といわれていた作品を映画化した「クラウドアトラス」について、考えてみたいと思います。
「マトリックス」をつくったときはウォシャウスキー兄弟でしたが、クラウドアトラスのときは、兄が性転換して姉になり、そして、2016年現在では、弟まで性転換して妹になり、ウォシャウスキー姉妹になった、という変わった経歴の監督です。
映画との関連性は考える必要ありませんが、「クラウドアトラス」は3時間を越す時間であり、6つの物語が同時進行していく映画ともなっています。
監督の手腕により、6つの物語は混乱せずみることができますが、そもそもこの物語は何なのでしょうか。
6つの物語。
それぞれ物語のあらすじについては、wikipedia等を参考にしていただきたいと思いますが、この映画をみていて思うのは「一体誰が主人公なの?」といったところではないでしょうか。
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トム・ハンクス演じる男が、子供たちに昔話を聞かせるという冒頭で始まりますが、この物語は、ある考えをもった中で考えるとスッキリわかることになります。
キーワードは「生まれ変わり」です。
それぞれの時代で、同じ役者さんがメイクなどで姿をかえており、予算の関係等もあるでしょうが、何よりも、魂が同じ人を同じ俳優を演じる、というところが基本だと思います。
誤解されるところですが、この物語は、生まれ変わりによって魂が磨かれて、より完璧に近づく、とかそういう話ではありません。
物語の中で「その人物の良し悪しは、その行いによって決まる」といわれています。
魂ではない、ということです。
トム・ハンクスは、すべての時代において出演しますが、その中の半分は悪人です。
悪徳の医者として、病人になった男の金品を盗もうとしたり、人を殺してみたりしますが、必ずしも生まれ変わりを経験するとよい人になる、というわけではないのは、行動によって決まる、という台詞が言い表しているのです。
現実社会で考えるのであれば、人は出自(魂)でかわるのではない、といったところではないでしょうか。
さて、生まれ変わりというキーワードと共に、仏教的な考えが重要になってきます。
この物語は魂こそは生まれ変わりますが、その行い、というのがどのように影響するか。
その影響によって世界がかわっていく、という物語なのです。
世界は因果でできている。
因果律という言葉は、どこまで一般的か判断がつきませんが、一応、簡単に説明させてもらいますと、物事には原因があって結果があり、その逆はない、といったことだと思ってください。
ご飯を食べる(原因)から、お腹がいっぱいになる(結果)。
こんなあたりまえのことですが、これが、セカイそのものに広げたのがクラウドアトラスではないでしょうか。
それぞれの年代の物語は、影響を与えています。
わかりやすいところでは、ペ・ドゥナ演じるソンミ451が活躍する未来世界です。この世界では、クローンたちを搾取する人類と、クローンを開放しようとする団体との間で争いが発生します。
ソンミ451は、量産型のクローンであり、同じ顔のクローンがいてウェイトレスをやっているのです。
その中で、ソンミが言った言葉や、おそらく本人がたどたどしい文字で書いた文字が、文明崩壊後の超未来世界で、聖書のようにして扱われ、人々に信仰や勇気を与えています。
でも、超未来世界の人々の大半は、ソンミ様とあがめて、どんな人物だったかすら知ることもありません。
ただし、影響だけは与えているのです。
また、そのソンミ451が、革命の象徴になれたのは、とある映画をみたためです。
過去の時代に、老人ホームに入れられたジム・ブローベント演じる、だめな編集者が脱出するというエピソードがあり、それがきっかけで小説が執筆され、その映画化をソンミ451がみたのです。
そのことで、未来世界では何も知らされず、殺され利用されるクローンたちの状況と重なり、そもそも、自由というものを知らなかったソンミが、自由ということを知ったことで、未来世界がかわっていくきっかけになるのです。
原因をあり、それを誰かが受け取るという流れ。
また、魂が同じ人物たちは、記憶も何もかもを失っても、どこかで感じあうころがある、というロマンスもこの映画では示唆しています。
輪廻転生の物語(ネタバレ)
さて、生まれ変わりの物語と書きましたが、この物語は、生まれ変わりというよりも、仏教的な思想の中でも、輪廻というところが重要です。
本来の輪廻転生というのは、人は行いによって六道(地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天上)を廻るという考えです。
六道から抜けることを解脱といったりするわけですが、解釈等もありますので詳しくは言及しません。
心のありようについて六道と考えるところが本来かとは思いますが、クラウドアトラスでは、完全にではないにしても6つの物語と六道を意識している部分があると思われます。
それぞれの人物たちが、それぞれのセカイで、六道をめぐっているのがわかります。
判りやすいトムハンクス演じるキャラクターでいいますと、1800年代のころは、畜生道、あるいは餓鬼道であったと思われます。
畜生道とは、本能ばかりで生きている救いのない状態をあらわしますし、餓鬼道は、常に飢えている状態です。
ホテルの経営者として、逃亡中の音楽家をかくまったときの、トム・ハンクスは、餓鬼道とも考えられます。
若き音楽家に「警察が来たが、そんなお客はいないといっておいたよ。それより、いいベストを着ているね」といって、ベストを奪うトム・ハンクス。
実際、ここでは暗に示されているにとどめられていますが、トム・ハンクスは音楽家の青年に決定的なことをしています。
また、超未来世界のトム・ハンクスは、人間道であったと思います。
人間道とは、苦しみや悲しみがありながらも、よいこともある。そんな人間の世界です。彼は、自分を気遣ってくれる姪たちがいますが、自分の息子が死ぬところを見殺しにてしまった悲しみに囚われたり、それでも、今ある幸せに気づいていたりと悩み、苦しんでいるのです。
やがて、彼は、ハル・ベリーと共に、本当に地球を脱出して、天道へと行くのです。
ただ、天道にいったからといって全て解決ではない、というところがまた、面白いところです。
物語の冒頭と、物語の最後にトム・ハンクスがでてきます。
そこは、地球と離れた場所で、子供たちに囲まれて暮らしますが、少なくとも冒頭のトム・ハンクスは楽しそうでもなんでもありません。
苦々しく過去を語っている時点で、彼もまた囚われている。
仏教の天道では、寿命も長く、苦しみもほとんどない、とされていますが、煩悩からは解き放たれていない、とされています。
だから、この物語は、輪廻転生する物語なのです。
未来が終わりとは限らない。
この物語の本当のネタバレです。気づいている人もいる沢山いると思いますが、この映画は、円環構造になっています。
当たり前の感覚でいえば、過去から未来に時代は流れるわけですが、こと魂にいたっては、未来から過去にいくこともある、ということなのです。
そのわかりやすい例として、先ほど、魂によるロマンスもあると書きましたが、未来世界で、ソンミ451が、ジム・スタージェス演じる革命団体の男と恋に落ち、革命を広げていくシーンです。
彼らの愛は成就されませんでした。
幸せに過ごすこともできず、彼らは革命の中で命を散らせるわけですが、そのあとに、1800年代奴隷時代が映し出されます。
その中で、奴隷によって命を助けられたジム・スタージェスが、無事、ソンミをやっていたペ・ドゥナ演じる妻と再会し、「奴隷解放に協力します」といって、二人だけで家をでるのです。
今までの物語の流れを考えれば、彼らの魂は、過去にも、革命を起こそうとしていた。だから、彼らは未来でもクローン(奴隷)開放を行おうとしたのだ、と考えることもできます。
ですが、とってつけたような過去の奴隷解放と、ペ・ドゥナの再会を考えると、未来で革命をしたから、過去の魂が決断できたのではないか、ということなのです。
因果が逆転するじゃないか、と考えてしまうかもしれませんが、未来の原因が、過去の結果へつながる、という考えこそがポイントだと思います。
そのほかの輪廻転生の物語
ここからは余談ですが、クラウドアトラスのような話しが好きであれば、以下の映画もオススメです。
ジャコ・ヴァン・ドルマルが誇る最高傑作のひとつ「ミスター・ノーバディ」は、一人の少年のあらゆる可能性を追求した物語です。
小説でいいますと、北山猛邦の「瑠璃城殺人事件」は、まさに輪廻転生をつかった究極のトリックを体験することができる、ミステリー小説です。
さて、余談をはさみましたが、「クラウドアトラス」は、一見とっつきずらそうな映画ですが、人間というものを壮大なスケールで描いた作品です。
テンポもよく、編集がうまいため、飽きるタイミングがありませんし、何度みても発見がある映画だと思いますので、当記事を読んだあとに、登場人物たちの心の動きや、何に影響されたのか、どんなものが未来と過去に影響を与えているのかを考えながらみると、また新たな因果が生まれるかも、しれません。
以上、物語の意味は。/クラウドアトラス ウォシャウスキー姉弟 でした!