誘拐映画。娘のためなら父は/リーアム・ニーソン主演「96時間」
シリーズ3作目まで作られ、リュック・ベッソンが脚本し、リーアム・ニーソンが主演を務め、娘のために悪いやつらをガンガン処分していく男の物語、「96時間」について考えてみたいと思います。
本記事では、シリーズ2、3作品目では薄らいでしまった、1作目の面白さに迫ってみたいと思います。
情けない父親
主人公は、リーアム・ニーソン演じる元CIA工作員ブライアン・ミルズです。
リーアム・ニーソンといえば、数々の名作に出演し、その渋さと演技力によって圧倒的な実力を示す俳優です。
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スティーブン・スピルバーグ監督「シンドラーのリスト」では主役のシンドラーを演じ、スパイダーマンシリーズでお馴染みサム・ライミ監督が、スパイダーマンをつくることができないあまりにつくった傑作「ダークマン」の主役も演じています。
数々の役をこなしてきたリーアム・ニーソンが、娘が誘拐された父親を演じます。
「96時間」のリーアム・ニーソンは、仕事を優先するあまりに家庭を壊してしまった男です。
元CIA工作員という肩書きであり、警備の仕事を友人から請け負っても、襲撃してくる人物をなぎ倒す等、まったく衰えることを知りません。
ですが、17歳になる娘キムとは満足に会うこともできません。
元妻は、ものすごい金持ちと再婚してしまっていて、娘のためにしてあげられることはほとんどないのです。
劇中ではっきりとは語られませんが、家族を優先しようとして任務から離脱してしまったことで仕事もやめることになり、、結局、家族も仕事も手に入れることができなかった男なのです。
昼間のパパはちょっと違う
そんな中、娘が友達とパリに旅行にいく、というところから、物語は面白くなっていきます。
パリに旅行にいった娘は、あっという間に拉致されてしまいます。
拉致されるときに、リーアム・ニーソンは娘と電話をしているのですが、
「お前は捕まる。でも、その5秒から10秒の間に、犯人の特徴をなんでもいいから伝えるんだ」
とアドバイスされます。
彼は、元CIAの実力や、友人、コネをつかって、娘を誘拐犯から救うために、修羅の道へと突き進むのです。
「身代金を要求されても金はない。でも、俺には能力がある。必ず、お前を殺す」
とんでもないことを犯人に告げるのですが、犯人は、
「グットラック」と言って、姿を消してしまうのです。
話しとしては、このあと、わずかな情報を頼りに犯人を見つけ出し、人身売買される組織につかまった場合、まともな状態で自分のところへもどってくることができる時間、題名にもなっている96時間以内に娘を助け出せるか、ということになっていきます。
ちなみに、英語のタイトルはtakenとなっており、何かを捕まえたりするときにつかうtakeの過去系になっています。父親が、犯人を追い詰めていくという主体的なタイトルになっているところも、面白いです。
スッキリする。
さて、物語の面白さを考えてみます。
物語としては単純なのです。
それもそのはず、誘拐された子供を助ける、という映画はいくつか存在しています。
たとえば、本ブログで紹介したものでいえば、「プリズナーズ」は、アメリカの田舎に住む男が、子供を誘拐されたことで、犯人と思われる人物を拷問にかけたりして、独自に解決していこうとする異常な世界を描いたものもあります。
この映画では父親の異常さというよりも、アメリカに住むリバタリアン的な思想をもつ人たちの、犯罪に巻き込まれたときの対処法がわかる内容となっています。
また、ダコタ・ファニングとデンゼル・ワシントンが共演した「マイ・ボディーガード」では、元米軍所属だった男が、アルコール中毒でつかいものにならなかったところを、少女のボディガードをすることで目覚めていき、少女が誘拐されたことで復讐の鬼となって、次々と犯人たちをぶちのめす、という物語です。
いずれも、それぞれの方法で、犯人を追い詰め、誘拐された子供を助けるという物語です。
そんな中「96時間」で特徴的なのは、父であるリーアム・ニーソンは、日常生活ではたんなる「異常者」だということです。
「パリの危険な場所を地図にかいておいた」
「ホテルに着いたら電話すること。寝る前にも必ず電話して、泊まる場所の電話番号も必ず教えるんだ」
とか。父親として愛情があるのはわかるのですが、元CIAのため危険予知をするのが得意すぎるのです。
それは、日常=家庭の中では、たんに面倒な人というだけであり、家族からは疎まれてしまうのです。
仕事では、ものすごく頼りにされる人でも、父親という立場になったときには、その仕事のときの感性によって、ついつい口やかましくなってしまう、という全国のお父さんたちがもつ悩みが描かれているのです。
仕事と父は切り離せない。
ですが、娘が誘拐されたことで、非日常に娘は突入します。
人身売買を行う組織につかまった娘。
96時間以内に助けなければ、麻薬漬けになって二度とまともな生活は送れないということが劇中で明らかになります。
時間がない中、元CIAのリーアム・ニーソン演じるブライアンは、家庭の父ではなく、仕事をしているときの父親を発揮するのです。
娘のためなら、なんでもやる父
映画をみていて爽快なのは、やりすぎなところです。
普通の映画であれば、拷問をしても、最後にはやさしさを見せたりするものです。
非人道的な行動をした場合、たとえ身内のためとはいえ、倫理という壁にさいなまれて悩んだりするものです。
ですが、「96時間」は違います。
娘のためなら、犯人に対してどんな酷い拷問でも行います。
犯人のことを知っている男を従わせるためなら、なんの関係もない奥さんにだって、平気で銃弾を打ち込みます。
娘のためなら、なんでも許されてしまう、という状態が爽快です。
もちろん、倫理的にはだめなのですが、今まで散々苦渋を舐めてきた主人公をみているだけに、娘のためになんでもしてあげたい、という思いもあって、どんだけ酷いことを主人公がしても、全然許せてしまう脚本のみせかたは、さすがリュック・ベッソンといったところです。
小道具や伏線の張り方が非常にうまいのも特徴です。
特徴的なできごとがあった場合、それはあとで必ずつかうものだということを意識しながらみるとより楽しむことができます。
「武器はもっているか」
「これが、おれの武器だ」
といってとある人物の名刺をさしだし、その一枚だけで、敵からお金までまきあげてしまう始末。
何より、主人公が「娘を助ける」という一点に力点がおかれたシナリオであり、家庭ではうだつのあがらないお父さんが、仕事をしているお父さんはすごいだ、というところを、誘拐された娘を助け出す父に反映させているところが面白い映画となっております。
単なる誘拐映画としてではなく、なんか不満なお父さん、お父さんに限らず、仕事ではうまくやれているのに、それ以外では、どうも、うまくいかない人が「96時間」をみると、スッキリとした気分になれる、かもしれません。
以上、誘拐映画。娘のためなら父は/リーアム・ニーソン主演「96時間」でした!
タイトルが時間になっている別記事は以下です。