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シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

実録やくざ映画・完結篇 松方弘樹・深作欣二『北陸代理戦争』(1977年)

邦画 ニャロ目 深作欣二 松方弘樹 任侠・やくざ映画

本日は東映の実録やくざ映画路線の極北ともいわれる、『北陸代理戦争』(1977年)をとりあげたいと思います。

 

主演は松方弘樹、監督は深作欣二です。

 

北陸、福井を中心とした地元ヤクザの対立、そしてそれに絡んでくる大阪の巨大ヤクザ組織との戦いがスリリングに描かれます。

 

よくある実録やくざ映画の一本なんでしょ、と思う方もいるかもしれませんが本作は何かと物騒な東映の実録路線の中でも一際いわくつきな作品であります。それに関して説明しながら本編の内容にも触れていきたいと思います。

 

仁義なき戦い 北陸篇

本作は元々、『新仁義なき戦い』シリーズの一本として製作が予定され、主演も菅原文太と決まっていました。しかし、結果的に『仁義なき戦い』の冠は外され、主演も松方弘樹となっています。それには様々な要因が絡んでいるのですが船出からして順風満帆ではなかったわけです。

 『仁義なき戦い』シリーズは1973年から公開されています。わずか4年後の『北陸代理戦争』でしたがそのときには実録やくざ路線をめぐる状況も大きく変化していました。

わずか5年足らずで東映実録やくざ路線は賞味期限を迎えつつあったのです。

 

本作を語るのに外せない本として『映画の奈落 北陸代理戦争事件』(著・伊藤彰彦)があります。文庫本で加筆修正された『映画の奈落 完結編 北陸代理戦争事件』が手にとりやすいと思います。

映画の奈落 完結編 北陸代理戦争事件 (講談社+α文庫)

映画の奈落 完結編 北陸代理戦争事件 (講談社+α文庫)

 

 この本を読めば、『北陸代理戦争』という特異な映画が辿った道筋が非常によくわかります。

著者は、脚本を担当した高田宏治が実録やくざ路線に「女」を持ち込んだことを評価しており、その部分も読みごたえがあります。

そして準備稿、決定稿、そして実際におきた出来事を詳細に比較・分析して、「奈落」の闇を覗き込み、真相に光をあてようとしています。

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 熱の入った読み応えのある本ですので少しでも興味のある方はぜひ見て下さい!

超おすすめです。

重なるアクシデント

さきほどの映画の元々の設定が変わったのもアクシデントの一つでありますが、まあそういうのは(特にこの時代の)プログラムピクチャー体制では当たり前といえば当たり前です。それ以外にも色々と本作は危機に見舞われています。

 

雪の中の過酷なスケジュールでの撮影やその途中での渡瀬恒彦の降板(撮影中に運転していたジープが横転し、足が下敷きになるという大怪我を負う)、さらには肝心の客入りが不振で興行成績は惨敗、一部に高い評価を得るものの結果的にやくざ路線が終息に向かう契機となります(事実、実録路線で最も重要な監督である深作欣二は本作以降、実録やくざ映画は撮っていません)。

実録の奈落へ・・・

そしてこの映画最大のスキャンダルは上映終了後に待っていました。主人公のモデルとなった川内弘組長が、映画公開の一ヵ月半後、映画の設定とほぼ同じ構図で射殺されたのです(三国事件)。

惨劇の舞台となったのは「ハワイ」という国道沿いの喫茶店。

映画内では「タイヨウ」という名前になっており、松方演じる川田が対立する万谷(ハナ肇)の手下に襲撃され、瀕死の重傷を負う、という内容です。

劇中では愛人と警察が駆けつけ、ぎりぎりと死なずにすんだ川田。しかし現実は銃撃を受けた川内は死んでしまいます。それは本当に一瞬の出来事でしたが、現実が映画を超越した、として未だに語られる事件です。

上記の『映画の奈落 北陸代理戦争事件』でも、川内弘と菅谷政雄(山口組幹部、映画『神戸国際ギャング』のモデルにもなった。通称ボンノ)の因縁を踏まえた詳細な事件の経緯が書かれています。

孤高の北陸やくざ・川田

『北陸代理戦争』おもな登場人物紹介

 

川田(松方弘樹)・・・川田組組長、モデルは川内弘。

安浦(西村晃)・・・富安組組長。川田の親分であるが、手を焼いている。

万谷(ハナ肇)・・・後に富安組2代目組長。川田との間に因縁が。

岡野(遠藤太津朗)・・・浅田組幹部(浅田組のモデルは山口組)。モデルは菅谷政雄

金井(千葉真一)・・・浅田組系の金井組組長。浅田組の中でも異質な存在として描写される。

 久保(成田三樹夫)・・・浅田組幹部。

仲井きく(野川由美子)・・・もう一人の主人公。川田、万谷、岡野と次々男を乗り越えてヤクザに寄り添う。

竹井(伊吹吾郎)・・・谷中組幹部。親分を殺された恨みを晴らすため川田と共闘。

仲井信子(高橋洋子)・・・きくの妹。川田の妻となり、陰で支える。

仲井隆志(地井武男)・・・きくの弟。谷中組組長を殺し、成り上がりをはかる。 

 

『北陸代理戦争』大まかなあらすじ

 安原は若頭の川田と折り合いが悪く、約束を守らない安原に対し堪忍袋の尾が切れた川田はついに牙を剥く。安原を脅し、競艇場の利権を奪った川田だったがその前に大阪の金井が現れる。安原から相談を受けた金井が福井に乗り込んできたのだった。

安原の舎弟であり、川田のおじでもある万谷も川田を説得しようとするが、反対に金井・安原の居場所に乗り込んで、地元のことは地元でケリをつけると豪語する。

万谷は喫茶「タイヨウ」に川田を呼びつけだまし討ちをするが、すんでのところで殺しそこなってしまう。

川田を身を挺して助けた愛人のきくは、川田が死亡したと見せかけて故郷に匿う。

川田がいない間に福井の安原組のトップは万谷に代わり、さらに浅田組金井の舎弟となる。

万谷はきくに迫り、彼女も川田が生き延びていることを見逃してもらうために万谷の女となる。

川田は療養中にきくの妹である信子と一線を越え、以後二人は友に歩むこととなる。

ケガが癒えると同時に、川田は万谷に報復し、左腕を斬りおとすも命まではとらない。

川田が刑務所に入っている間に、万谷はきくの弟である隆士に接触、言葉巧みに彼を操り、金沢の谷中組組長を殺させる。隆士もまた金井の部下として看板を掲げる。

きくは浅田組の岡野に面会し、再び川田を救うために抱かれることとなる。

 

浅田組内部では強硬派の金井の立場が日に日に悪くなり、そのことを敏感に察知した川田は出所後、岡安と接触し彼を対立する金井と対決することを告げる。

刑務所内で知り合い、谷中組長をとられた悔いの残る谷中組組員竹井らとともに金沢の金井組事務所を襲ったり、幹部を乗った車を闇討ちしたり、はては名古屋の竜ヶ崎一家が北陸に兵隊を送り込むと見せかけるなどして、金井組の揺さぶりを狙った。

金井組が北陸進攻に備えて慌てて準備する真っ最中に、岡野が警察にタレこみ、金井は逮捕されることとなる。

かくして北陸と大阪の対決は川田側の勝利となったがそう簡単に事が運ばないのがやくざの世界。こんどは岡野が北陸を支配することとなり、その圧倒的な力の前に川田も盃をかわさざるをえなかった。

 

一方、万谷は復活した川田とその背後にいる岡野を恐れ、再び隆士を使い、川田抹殺をはかる。

隆士は妹である信子を誘拐・監禁し、川田をおびき出すが、マシンガンで武装した川田一派に逆に押し込まれてしまう。信子は実の兄を裏切られたこと、川田の足手まといになってしまったことなどから自ら隆士を刺殺する。

 

刑務所に送られた信子を思いながらも川田は岡野との対決へと進んでいく。

お得意の権謀術数を駆使し、万谷・安原の地元旧勢力と岡野を対立させることに成功、最後は雪の中に埋めた金井組の元組員たちの首を次々とジープで潰し、岡野を脅す。その迫力に岡野も踵をかえし、川田は北陸を己のものとする。

 

三代目山口組若頭補佐菅谷政雄 ボンノ北陸大戦争 1巻 (実録極道抗争シリーズ)

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『北陸代理戦争』感想・評価まとめ

 さて、簡単にストーリーをまとめましたが、幾つか見どころをあげていきたいと思います。

まず、冒頭から畳み掛けるようなセリフまわし。非常にテンポのいい言葉の応酬で見ていてテンションがあがります。しかもはじめっから自分の親分を雪原に顔だけだして埋めその周りをジープでまわっていつでも潰せる、と脅すシーンが盛り込まれているのでつかみはバッチグーなわけです。松方をはじめとする役者の演技が素晴らしいです。

そして、お次は「女性」。

これまで実録やくざ映画では女の情念を丹念に描くことがほぼありませんでした。なぜならだいたい90分の映画の中に、やくざの筋のほかに女性の筋も入れるととうてい収拾がつかなくなるからです。

しかし脚本を担当した高田は、きくと信子という実の姉妹を、川田(と対立するやくざ)を中心軸として間接的に対立させるという手法をとり、「女」の話を盛り込むことに成功しています。川田を守るために敵対するやくざに身を委ねながらも自分をかえりみない彼から心が離れていくきくの様子が描写されています。

最後に、さきほども書きましたが、映画が現実を作り出した、という点です。実録やくざ映画はその名の通り、実際にあった抗争事件を基にして作品にしています。今回の映画も細部や時間の前後は異なりますが現実にあった事件をモチーフにして脚本が作られています。ところが映画公開後に起こった三国事件。

これはまさに、事実から作られてきた映画が、実際の事件に影響を与えてしまったという意味で、「映画が現実を生み出してしまった」といえるのではないでしょうか。

しかし、フィクションが現実世界に影響を与えてしまった意味は大きく、この作品が最後の輝きといっていいほど、実録路線は下降線を辿ることになってしまいます。

 

作りものの「美しい」任侠映画がその役割を終え、実録やくざ路線がその荷を背負いましたが、それが結局は実際に起きた事件のセンセーショナルさに敗北する、というのはなんだか皮肉なものです。

とはいえ、作品は作品、現実は現実ということで、私は残された作品を楽しむことを一番に考えたいと思います。 

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