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シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

渡瀬恒彦、弾ける。 中島貞夫『鉄砲玉の美学』(1972年)

ニャロ目 邦画 中島貞夫 任侠・やくざ映画 渡瀬恒彦

ふざけるんじゃねえよ、ウサギじゃねえんだぜ。

 『鉄砲玉の美学』は非常にレアな映画で、DVD化されていません。

一番簡単な視聴方法が、GYAO!ストアなどの動画配信サービスで購入(レンタル)する、というもの。

私もこの方法で視聴しました。家にいながらしてこんなカルトな映画を好きな時間に楽しめる、とはなんとも贅沢な時代になりましたね。

 

本作の特徴は、「鉄砲玉」として宮崎市に送り込まれた渡瀬恒彦が好き放題やった挙句、無残に散っていくという展開にあります。

 

普通のヤクザ映画なら対立する組織とドンパチをやらかして撃ち殺されたり、撃ち殺したりして物語が収束していくはずなのですが、この作品ではそんな華々しい場面は用意されない、まさに使い捨てられた渡瀬の姿を堪能することができます。

 

というわけで、観ていて決してスカっとするような展開ではないし、ヤクザ映画好きな人の中でも好き嫌いはわかれると思われます。

鉄砲玉の美学~中島貞夫の世界

鉄砲玉の美学~中島貞夫の世界

 

 銃と金ー小池清が一番ほしかったものー

 うだつのあがらないチンピラ小池清(渡瀬恒彦)はウサギの路上販売をしながら毎日をブラブラと過ごしています。そんな彼に転機が訪れます。

九州進出を目論む天佑会が送り込む鉄砲玉として彼に白羽の矢が立ったのです。

見返りとして与えられる、自由に使える100万円拳銃

ろくでもない日々に飽き飽きしていた彼はその話に飛びつきます。

早速、女を襲っているチンピラどもを見つける小池。

彼らに殴る蹴るの暴行を受けるも銃を見せ付けると彼らは逃げ出します。

「力」を手に入れたことを実感する小池は意気揚々と宮崎市へと向かいます。

 

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小池の役割は宮崎のヤクザの縄張りで傍若無人な振る舞いをし、抗争のきっかけとなること。つまり、天佑会の九州進攻の口実を作ることにありました。

パッと弾けて綺麗に散る。

そんな理想の鉄砲玉になろうと夜の店でスーツ姿で遊びまくる小池。

しかし、意外に小心者というかヤクザになりきれない彼に、地元ヤクザ・南九会はなかなか手を出してきません。

川谷拓三演じるチンピラと格闘になった際も苦悩する小池はついに拳銃を放つことは出来なかったのでした。

ただただ、南九会の杉町(小池朝雄)の女、潤子(杉本美樹)などと情交にふけり続ける小池。 

霧島へ

 宮崎市から離れ、都城のホテルで潤子と怠惰な生活を続ける小池は24回目の誕生日を迎えます。

神が降り立つ山といわれる霧島の話を聞いた小池は女とともにドライブしようとしますが潤子の姿はホテルから消え、これまで手をつけた女と連絡を取ろうとするも誰も来ません。

そんな彼の前に姿をあらわしたのは大阪で同居していた風俗嬢。

小池の身を案じ、鹿児島の知り合いのところに身を隠すようアドバイスしてくれます。

なんと関西連合会のバックアップを受けた南九会に対し、天佑会は九州進攻を取りやめることを決めます。

小池はハシゴを外されてしまい、なす術がありません。

霧島へは私が一緒にいってあげる、という情婦の言葉に対し、俺は昔の俺ではない、お前なんかよりもっといい女を知っている、と言い放ち、かつて暴行現場から(偶然にも)救い出した新婦の住むアパートを訪れる小池。

拒む新婦を無理やりドライブに誘おうとしますが彼女は警察を家に呼んでいて小池は逮捕されそうになります。

とっさに取り出した拳銃。

彼はヤクザ相手に撃てなかった銃を警察官にむけて撃ちます。

しかし思わぬ反撃を受けて、廃車置き場へと逃げ込む小池。

腹からは血が流れ続けて瀕死の重傷。

ふと視線を遠くへ向けるとそこには霧島の山が。

 

観光客を乗せたバスの片隅に彼の姿がありました。具合の悪そうな様子を見たバスガイドが声をかけますが返事はありません。

彼はすでに事切れていたのです。

さすらい人別帳 (MEG-CD)

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中島貞夫の演出と関連作品

本作は徹底的に主人公を演じる渡瀬恒彦を追います。相変わらず威勢のいいチンピラ役をやらせたらピカイチの恒彦氏ですが、いざ拳銃を放とうとすると冷徹になりきれない一面も併せ持っており、これが彼にピッタリの役回りなんですね。

 

必死に鉄砲玉を演じきろうとするも弾けきれない切なさ・無念さというのは他のヤクザ映画ではメインで取り扱われることはあまりないと思います。この一風変わった部分もカルト的な評判を呼ぶ要因でしょうね。

 

群像劇である『仁義なき戦い』シリーズとは真逆で一個人を中心に据え、しかもほとんど抗争シーンがないという特異なスタイルで、作中には小池のアニキ分も九州のヤクザもほとんど出てこず、電話や会話のセリフでしかそれらの存在は見えません。

それが哀れな男、飼われたウサギのような男たる小池の悲劇性を強調していて見事です。

 

で、そんな非情なヤクザになりきれない「中途半端さ」というのは、われわれ視聴者も様々な場面で持ち合わせているわけで、小池はうだつのあがらない毎日を送り続けるより大金と力(つまりひと時の快楽)を得て散りたいと考えるような無鉄砲な男でありながら、実際には抗争に火をつけるような華々しい散り際を見せられなかったというのは本当にグッときますね。

 

そんな小池清を演じる渡瀬恒彦に対抗する役回り小池朝雄演じる杉町(ちょっと名前がややこしいです)。

この二人の役回りは同じ中島貞夫監督の名作『現代やくざ 血桜三兄弟』を彷彿とさせます。

こちらの作品では小池が鉄砲玉、渡瀬が地元ヤクザの構成員を演じています。つまり、役回りが反転しているわけですね。しかしながら『鉄砲玉の美学』ではあくまで杉町が冷静に対処し、鉄砲玉の暴発を防ぎつつ手打ちを狙うという高等技術を駆使し、小池に勝利するという結果を得ており、『血桜三兄弟』においても渡瀬が一方的にやり込められます(小池朝雄は伏兵に殺されますが)。

 

やはり渡瀬恒彦には無念にもやられる役が似合うのでしょうね。それは彼の苦渋に満ちた顔が魅力的だからなのかもしれません。

 

さて、一人の主人公を生き様と死に様を主眼にした作品といえば恒彦の兄、渡哲也『仁義の墓場』や『やくざの墓場 くちなしの花』を思いだします。こちらは両作ともぶちきれた主人公の暴れっぷりがハンパないので、観たあとのスッキリ具合では『鉄砲玉の美学』より上だと思われます。

 

自分の好きなシーンは、潤子との情事の際に、かつてのうだつのあがらない日々を思い出すところですね。

 

一流の料理人を目指していた小池ですが、金も女もなく、トイレの壁に卑猥な絵を描いてはそれで自分を慰めるというあまりにも残念な過去を思い出しながら、美人の女を抱くという素敵演出。

 

成り上がってやったぜ! という彼の薄っぺらな思考がもう最高としか言いようがありません。

 

霧島へ向かう彼の最期の場面も、神(の視点)を見ようとして結局その膝元で命果てるという、ただただ上層部の思惑に操られただけのあわれなエンディングでバッチグーでございました。

渡瀬恒彦主演、中島貞夫監督『鉄砲玉の美学』感想 まとめ

そんなわけで一体全国で何人の方がこの映画を知っていて、何人の方が視聴したことがあるのか大変気になるほどのマイナーな本作。

 

前述した通り、検索すれば幾つかの動画配信サイトでわずかな料金で観られますので気になった方はぜひ観て下さい!

 

いつ視聴不可になるかわからないので、観られるうちに観ましょうね!

 

本作を担当した中島貞夫監督作品の感想はこちら 

cinematoblog.hatenablog.com

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