三政さん(おそ松さん的な感じで) 中島貞夫監督『バカ政ホラ政トッパ政』(1976年)
『バカ政ホラ政トッパ政』(1976年)は中島貞夫監督作品で、主演を菅原文太がつとめています。いわゆる東映ヤクザ実録路線の一本に数えられる作品です。
銀座で暴れる野郎ども~登場人物とモデルの紹介~
・バカ政(菅原文太)
関東城政会の傘下団体、銀座興業の構成員。銀座興業トップの野口(中丸忠雄)には頭が上がらない。三年前に銀座を荒らしていた関西から来たヤクザ者を切りつけ刑務所に。出所してみると、情婦の恵子と娘は銀座から姿を消していた。
その後、「太陽カンパニー」という興業の会社を設立する。
このキャラクターのモデルは住吉会の顧問をつとめた浜本政吉といわれています。なんと本人が東映に企画を持ち込んできたとのことです。ホラ政とトッパ政に関しては架空のキャラクターとのことです。
・ホラ政(中山仁)
学生。嘘ばっかりついているからホラ政。バカ政と一対一の勝負を行い腹を刺されるも死なず。なんだかんだで仲良くなる。
・トッパ政(ケーシー高峰)
名古屋出身。元興行師。取っ払いの仕事の斡旋をしている。ニセモノの薬を流したことから銀座興業にリンチされるも、逃げずに筋を通そうとする姿に男気を感じたバカ政によって助けられる。
・関東城政会
銀座興業を傘下に置くヤクザ組織。田所(成田三樹夫)が幹部として銀座興業に度々顔を出す。それというのも銀座の縄張りを狙っているからであり、バカ政らとの間で抗争となる。
ちょっと?凶悪なズッコケ三人組
ストーリーを簡単にまとめてみたいと思います。
出所した後のバカ政は情婦の恵子を探すものの、娘と浅草へ引っ越したことが判明します。
ニセ薬物問題を(本人は知らなかったとはいえ)引き起こしたトッパ政、その薬をトッパ政に売りつけたバンドマンが出演しているイベントを取り仕切っていたホラ政となんだかんだと仲良くなり、義兄弟の仲となります。
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この三人に共通しているのは一本筋が通っているということです。
もちろんやっていることは違法や違法スレスレのこともありますし、やたら暴力的ですが自分の信念を貫くということを大事にしています。それがこの三人を結びつかせ、最後まで運命共同体として継続していった要因だと思います。
さてその三人は隣接するシマをしきっているヤクザと抗争になります。リンチされボロボロに傷つけられましたが、仕返しに相手組長の指を数え歌を歌いながら切断していくというかなりファンキーな所業をお見舞いし、勝利します。
「太陽カンパニー」という興業会社を作った三人ですが、今度はバンドの出演を巡って銀座興業と対立。バカ政は野口に逆らうことはしませんが他の二人の政たちはそんな義理はありませんので銀座興業組員との出入りとなってしまいます。嫌々抗争に参加するバカ政でしたがすんでのところで関東城政会の幹部である田所がとめに入り、事なきを得ます。じつはこの仲裁は田所の策略でした。
丸菱商事の大倉社長に対する副社長一派のクーデターを阻止しろというのが田所の要求でした。副社長らは会社の幹事総会屋である吉村と連携しているため、バカ政は吉村を拉致。脅迫しますが、逆に、銀座のファッションビルの権利を譲り渡すという条件で大倉と田所がつながっていることを教えられます。つまり田所は銀座の縄張りを狙っていたのです。
田所(成田三樹夫)をやっつけろ!
バカ政たちが警察に取り調べを受けている間にクーデターに成功しつつあった副社長一派はビルの権利書を田所に渡してしまいます。
憤るバカ政でしたがそんな彼に銀座興業から10年間のところ払いを言い渡されます。銀座からでていけということです。
そんな仕打ちに、花屋を営み、バカ政を慕う青年・ジョージも怒り心頭。
城政会組員はバカ政たちの居場所を探るためジョージの店を襲撃。彼も負傷します。
「俺たちの銀座」の象徴であり、作中の重要アイテムとなった「ビルの権利書」を奪うためにバカ政たちは田所のいるサウナを襲撃。見事、権利書をゲットします。田所を殺さずに逃走するバカ政たち。そんな田所をジョージが強襲し、葬り去ります。
田所の葬儀が営まれる中、バカ政たち三人は危険を覚悟で乗り込みます。
この短い焼香の時間を無事乗り切ることができれば、それは城政会が手出しできなかったということであるので、俺たちは銀座でこれからも生きていくことを認められる。
そんな論理のもと、武装しつつも車で乗り付ける三人。
まわりには城政会関係者がうじゃうじゃしていて一触即発。異様な緊張感が支配する中、あと少しで切り抜けられるというところで銀座興業の野口らが登場し、静かな会場は一転、抗争の舞台となります。
あわれにも三政たちは蜂の巣となり、映画は終幕を迎えます。
バカ政と恵子(倍賞美津子)
さて今作にはメロドラマ的要素も組み込まれています。しかし、男の仁義を優先する「バカ」な男、バカ政でありますのでなかなか素直になれません。
ガクシャと呼ばれるホームレスから(悪態をつかれつつ)度々恵子の情報を聞き出すなどしているバカ政。命をかける抗争の前には恵子に一目あってから行くという何とも「不器用」かつ切ないシーンが三回繰り返されます。
相手を殺すか自分が傷つくかという戦いしかできないバカ政に愛想がつきた恵子でしたがそれでも自分を訪ねてきて、結婚指輪を渡す彼に心は揺れ動きます。
女を愛しながらも戦いの場に立たなければならない、そんな業の深い男の生き様をガクシャも半ば呆れながらも最後は認め、バカ政の行方を探す恵子をそっと慰めるのでした。
『バカ政ホラ政トッパ政』感想・評価 まとめ
ヤクザ者の三人組を主人公にした作品といえば『現代やくざ 血桜三兄弟』や『人斬り与太 狂犬三兄弟』を思い浮かべます。偶然かどうかわかりませんがこれら二つの作品も菅原文太が主演をつとめています。しかも、この作品を含め微妙に役柄が異なっているのも見どころの一つです。
深作欣二監督作品『狼と豚と人間』(1964年)も三兄弟間の争いを描いた作品です。
三者、三種類というのはドラマを設定しやすいのかもしれません。
さらに銀座を舞台とした作品として『実録 私設銀座警察』が挙げられます。本作の冒頭でも作中設定時の銀座は東京の中心地・文化の発信地として紹介されていますので、当然ヤクザもののエピソードも多かったと思われます。
本作ではわずかですが総会屋の話が出てきました。『広島仁義 人質奪回作戦』や『暴力金脈』はその総会屋にスポットをあてた作品で、一味かわった実録ヤクザ映画をみたいという方におすすめです。
さて関連作品を紹介しえたところで本作の評価です。
本作のヤクザのシノギが興業ということで、ダウンタウンブギウギバンドや美輪明宏が登場したりと、音楽面が強調されているところが特徴的です。
さらにはバカ政は実録ものの主人公としては若干、任侠ものの香りを漂わせております。一応、銀座という縄張りへの意識、野口という兄貴分への忠義、討ち入り前には女に金やプレゼントを置いていく、など行動も一本筋の通った男という感じです。
ジョージというカタギながらもバカ政に忠実な青年が田所を殺す部分は、同じ中島貞夫監督作品『現代やくざ 血桜三兄弟』のもぐらを彷彿とさせますね。
本作は非常にタイトなスケジュールの中で撮影されたようで、なるほど何だか荒いなと感じる部分もありますし、説明不足なところも存在します。それでも実録ヤクザ路線にちょっと任侠もののスパイスが効いた感じは自分としては嫌いではありません。
中島監督自身もそんなにお気に入りの作品ではありませんが、東映実録ヤクザ映画を語るときにはぜひ観ていただきたい一作です。
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