狂気の暗黒ドキュメンタリー 『やくざ残酷秘録 片腕切断』(1976年)
安藤昇の関わった映画
数々の映画に出演し、自分自身をモデルとした役だけでなく脇役としても存在感を発揮した安藤昇。彼がナレーションを担当した映画が1976年に公開されました。
監督は椎塚彰と安藤昇(安藤は「企画・構成」としてクレジットされたそうです)。
製作を担当したのが安藤企画という安藤昇の名を冠した会社で、この作品を東映に売ったおかげで結構な利益がでたそうです。
出演者(松葉会や義人党などのカタギじゃない人々)も安藤昇に声をかけられたために映画にでたそうなので、彼がいなければ成立しなかった作品です。
肝心の映画の中身ですが、これがまた強烈。
ヤコペッティなどのモンド映画の向こうを張った、暗黒ドキュメンタリーなのです!
虚と実が入り乱れる!
ドキュメンタリーとはいってますが、明らかなやらせ(的なつくり)も含まれています。なんせ、映画のタイトルである片腕切断のパートがやくざ映画の一コマみたいな映像なので作り物だとすぐわかります。
が、その他のシーンはだいたいがリアル。
カメラは日本の闇の部分を覗き見するかのようにレンズにとらえていくのです。安藤昇の静かなナレーションとともに・・・。
この見世物小屋的セミ・ドキュメンタリー映画でとりあげられるのは、刺青師の仕事ぶり、夜の女とヒモの関係(絡みが始まる手前までを窓の外から望遠で撮影)、やくざの生態、シンナーを吸う若者、賭場、テキ屋、「ヤクザをどう思うか?」という街頭インタビュー、麻薬を打つ様子、断指などなど…。
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まさに社会の暗部のミックスジュースといったテイストでございます。
ここがすごいよ! 『やくざ残酷秘録 片腕切断』
私見ですが、心に残ったシーンを二つ取り上げます。
刺青師の仕事ぶりを丹念に写しつつ(人の肌にチクチクと刺青の針が入る音がなんともいえないいい音です)梵天太郎改め聖太郎氏にインタビューを敢行。
「国会議事堂で議員さんは上半身裸でやればいいんですよ。半分以上刺青入ってるでしょ。地方出の代議士とか」
と身も蓋もないことをおっしゃる太郎氏。
刺青を入れる人口が増えていること、色が増えてカラフルになっていることなどのトリビアが明らかになります。
さらに女性の体に刺青を入れながら、
「女性は先天的にマゾなんですよ。(刺青を入れても)痛くないんですよ。気持ちいいんですよ。体の構造がそうなってるし。受身でしょう」と素晴らしい(?)コメントも聞かせてくれます。
そして女性の背中一面の刺青が画面に登場、風呂場で背中を流します。とっても綺麗でございます。
さらに驚きのシーンが断指、いわゆる指をつめるシーン。
ヤクザ者がノミで小指を切断し、鮮やかな血とともに指がピョーンと飛んでいきます(カラー映像です)。本人は意外と平気な顔をしています。
非日常的すぎるシーンですが、なんとこれはリアル、つまり実際に指を切断しているのです。
安藤昇へのインタビューによると、知り合いに映画で指をつめるシーンがあるから誰かやりたい奴いない?と声をかけたら30万円で請け負う人が現れた、と。
で、実際に指をつめるところを撮らせてもらった、と。
なんと凄まじいエピソードでしょう。
映画タイトルの片腕切断が明確な作り物だったのに、指つめがリアルだったとは!
意外と指がピョーンと飛ぶというところも驚きですが、そういえば『仁義なき戦い』の第一部では菅原文太演じる広能が指をつめるシーンがあって、切った指が鶏小屋まで飛んでクチバシでつつかれるなんてエピソードがでてきます。アレは嘘のようで本当にある話だったんですねー。
DVDで売ってください!
わずか60分と少しの短い映画で一度観たら二度は観ないかもしれませんが、必ず心に焼きつくことは保障します。
残念なことにこの作品はDVD化されておらず、動画配信サイトでも観ることができません。VHSを買うか、名画座でかけられるのを待つしかない状態です。
内容からして、さすがにこれから先のソフト化は厳しいかもしれませんが、実録安藤組シリーズがDVD化される今の世の中ですから、なんらかの方法で再び我々の前に姿をあらわしてくれるのを待ちましょう。
R-18とはいえ、このような映画が劇場公開されてたというのが今となっては一番の驚きですね…。