ヤクザ、新たなる混乱を求めて 深作欣二『博徒外人部隊』(1971年)
今回は深作欣二監督の1971年の作品『博徒外人部隊』を取り上げます。
鶴田浩二主演で、「任侠映画からヤクザ映画」への移行期にあたる時期に撮られた作品です。
七人のやくざ、集合す
ストーリーは非常に分かりやすいです。
横浜には、郡司(鶴田浩二)の所属していた浜村組と工藤(安藤昇)が属している港北会の二つの組があった。東京から横浜に進出してきた大東会会長の大場(内田朝雄)の画策により二つの組は対立、抗争を起こしそれぞれ会長を失い、郡司は刑務所に送られることになってしまいます
10年後、ショバに戻ってきた郡司はかつての組事務所に足を向けます。そこでかつての舎弟である尾崎(小池朝雄)、鮫島(室田日出男)が見る中、抗争で亡くなった親分の写真に火をつけるのです。
そして郡司はこの後、他の組員を集めるように指示すると単身その足でなんと大東会の事務所に向かいます。
この大胆な訪問に大場会長も面と向かって断ることができず、二人は会談します。
郡司は「出所してきたので親分・子分含めた我々犠牲者に500万払え」と突きつけます。大場はこの命知らずな男の要求を笑って飲み込みのです。
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かつての事務所に戻ろうとする郡司の前に重傷を負った工藤(安藤昇)が現れます。誰かに追われているようです。とにもかくにも郡司はかつての抗争相手だった瀕死の工藤を匿い、医者を呼んで治療させます。
そんな郡司のもとにイッパツ(曽根晴美)、関(渡瀬恒彦)、おっさん(由利徹)というかつての組員が集合します。彼らは今では別の生活をしていましたが、郡司と久しぶりの再会に心躍らせているようです。
そこで郡司は「沖縄進出」の話を切り出します。
すでに横浜でのナワバリを失ってしまった郡司にとって、沖縄(当時は返還前)は戦後のドサクサのような状態で新天地のように思えたのです。尾崎、鮫島ら組員もみな乗り気です。
その時、大東会の幹部である貝津(中丸忠雄)らが現れました。事務所に討ち入りにきた工藤(安藤昇)を追っていたのです。
郡司の機転により貝津はその場を引き上げ、抗争にまでは発展せず。
工藤も含めた七人のやくざ者は沖縄を目指すこととなります。
七人のやくざ、沖縄へ
那覇へ降り立った七人。
まずは新天地・沖縄のやくざ情報を集めます。
港湾荷役をシノギに持つ波照間一派(組員100名)、バー・キャバレーなどの盛り場を押さえている具志堅一派(組員60名)。
さらに愚連隊として、コザの盛り場を根城にする与那原の弟の狂犬次郎(ジールー)らがひしめいていることが判明。
つまり、彼らをどうにかしないことにはいくら巨大な敵がいないからといって自分たちの天下にはならないのです。
郡司は具志堅らのグループに脱税ウイスキーを米軍基地から流す手伝いをしている、南海物産という会社のブローカー日下部と接触。その中の黒人たちとのイザコザでイッパツを亡くすが、店の経営権を奪うなど次第に勢力を拡大していきます。
そんな中、具志堅に呼び出された郡司。
工藤も途中で合流し、波照間も含めた会談が行われます。
沖縄からでていけ、とすごむ具志堅らに対し、容易には引き下がらない郡司らはその具志堅を刺し殺し、組員も射殺。
ここに本格的に沖縄やくざ対移住やくざの戦いが始まるのです。
一人、また一人。仲間が散っていく。
具志堅一派の生き残りに度々襲撃されるも全て返り討ちにする郡司たち。
この頃の彼らはかつて横浜で成り上がっていった時のように実にいきいきとしていました。
一方、波照間は次郎に具志堅の持っていた縄張りを郡司たちから奪い取れとそそのかされます。
関をリンチし、郡司のアジトに連れて行く次郎とその兄与那原。
すわ抗争かと一触即発の気配でしたが、与那原はあっさりと引き下がります。
実は隣の部屋から工藤が与那原たちを拳銃で狙っており、彼はそれを察知していたのです。
この落とし前はお前がつけろ、と次郎にコザから援軍を送ることを約束する与那原。
そして数日後、武装した次郎とその手下たちが郡司らの事務所を襲撃します。
その混乱の中でオッサンが瀕死の重傷、関は次郎と戦い、戦死してしまいます。
かわりに次郎もケガを負い、郡司たちの手に落ちます。
再び郡司らの前に与那原が現れます。
次郎を人質にしている郡司たちのまわりを大勢のやくざ者が囲みます。このまま戦闘に突入すると郡司たちに勝ち目はありません。
そんななかぎりぎり命を保っていたオッサンが息を引き取ります。
悲しみにくれる鮫島たち。
一触即発の中、郡司は次郎を与那原に解放します。
意外なことに双方驚きましたが、与那原は郡司の男気に感謝しその場を引き上げるのです。
女、そして最終決戦
郡司は自分が刑務所に入った当時に付き合っていた女と瓜二つの売春婦と偶然知り合います。何度か言葉を交わす二人。
その頃郡司たちは盛り場で稼いだ金で大きなプール付きの拠点を手に入れました。しかし心は晴れません。
一方、大東会幹部貝津が日下部の案内で那覇に到着。波照間も大東会をもてなします。その会合の中で貝津は那覇の荷役事業の全てを大東会と波照間で独占すれば波照間にとっては今の二倍以上の稼ぎになる、そのためには郡司たちが邪魔だからやつらをどうにかしてくれと要求します。
話し合いの最中、武装した次郎と与那原が乱入してきます。本土やくざにおもねる波照間と、沖縄進出を目論む大東会に宣戦布告するのです。
その後、与那原らは郡司たちと接触。ヤマトンチュ(本土の日本人)のやくざにつくか、沖縄やくざにつくか問いただします。郡司は俺たちはどちらにもつかない、自分たちでやっていくと与那原に伝えます。
その帰りに大東会・波照間のやくざたちに襲撃され、次郎、与那原は殺されてしまいます。
数日後郡司たちのアジトに貝津の姿がありました。
沖縄からでていけというのです。
鮫島たちは横浜を奪った上、沖縄さえも自分たちから奪おうというのかと怒りますが郡司は500万の現金のかわりにその要求を飲みます。
再びあっさりと金を手にいれる郡司。
その金を全員で分けて郡司の下から三人が去っていきます。
郡司はあの娼婦と再び会い、彼女を抱いたあと金を渡します。
そして一人、大東会・波照間一派に討ち入ろうとするのです。
その彼の動きを察知していた工藤も道中に加わります。
しばらく二人で歩くとその先には尾崎、鮫島の姿も。
結局4人で最終決戦、那覇の港に向かうのでした。
港湾荷役事業の視察(と沖縄進出)のため大場組長が本州からやってきます。それをもてなす波照間たち。
多数の黒服が列をなす異様な港の風景を一台の車が引き裂きます。
郡司たちは片っ端から組員を襲撃し、血祭りにあげていきます。
これまでの怒りが爆発するかのような激しい戦いです。
尾崎、鮫島が敵の銃弾に倒れます。
郡司と工藤、彼らはそれぞれ波照間、貝津、日下部、そして大場の命を狙います。
果たしてこの最後の戦い、郡司たちは勝つことができるのでしょうか。
まさにジャンプ漫画のような娯楽作品
出所した郡司の元にかつての組員たちが集まり、輝かしいあの頃よ再び! という感じで新天地・沖縄を目指す。そこで地元のやくざを次々撃破するも、最後には自分たちを崩壊の一歩手前まで追い込んだ張本人たちが登場。最終決戦を挑む。
というように少年マンガでもありそうなストーリー展開。
そもそもわずか七人で沖縄やくざを制圧しようと考えることが少年的ですよね。
さらに、与那原なんて、つながる眉に顔の大きな傷、そして片腕、そして拳法使いとまさにマンガ的キャラクター。
かつての敵同士が同じ目的のために組むというのも王道的展開。
そして敵と戦いながら男気溢れる友情を培うのもよくあります。
郡司側や敵側の登場人物に「キャラ萌え」できます。
もうこれは『ワンピース』とか『銀魂』のようではないですか。
事実、この両作品はどう考えても東映任侠・やくざ映画の影響を受けているのは明らかですので、東映のサービス/エンタメ精神というのはその後の日本マンガ文化に受け継がれたといえるのかもしれません。
新たなる混乱を求めて、『仁義なき戦い』へ
『日本暴力団 組長』(1969年)あたりから深作監督は意識して人名のテロップやストップモーションを取りいれ、スタイリッシュでスピード感のある画面作りを行ってきました。本作でもそれらの手法は取り入れられ、さらにめまぐるしいカメラの動きなども相まっては迫力ある独自の深作バイオレンスワールドが形成されていきます。
従来の任侠映画では到底なしえなかった、この迫力ある画作りが『現代やくざ 人斬り与太』(1972年)、『人斬り与太 狂犬三兄弟』(1972年)、『仁義なき戦い』(1973年)へと一直線につながっていきます。
それには当然、菅原文太という役者の登場が必要なのですがこちらのレビューで触れていますのできになる方はご確認下さい。
とにかく本作ではそれまで任侠映画で着流しをきていた鶴田浩二が常にサングラスをかけて物静かなボスを演じている、ということ自体が「任侠から実録へ」という流れを端的にあらわしています。それに深作の持つスタイリッシュでモダンな雰囲気も新しい時代の到来を感じさせますね。
『博徒外人部隊』感想・評価まとめ
そんなわけで『博徒外人部隊』を振り返ってみました。わりとレンタルショップでもみかけるので手にとりやすいかと思います。
さきほども触れたようにストーリーは単純で、わかりやすいので任侠・やくざ映画初心者にとっても安心です。
深作は『日本暴力団 組長』のほうが映画の出来としてはしっかりしていると自作を評価しています(『映画監督 深作欣二』より)。自分としては無国籍風で新時代の到来を予感させる「ポスト任侠物」的な本作はけっこう気に入ってます。
ともあれ『仁義なき戦い』の深作しかしらないという方でもしびれるシーンの連続で、十分に楽しめる内容となっていますので、ぜひご覧下さい!