ご近所トラブルコメディ/セス・ローゲン製作主演「ネイバーズ」
ご近所トラブルというのは、どんな場所でも悩みの種です。
「ネイバーズ」は、アメリカでも発生しているご近所トラブルが描かれた、傑作コメディ映画です。
子供が生まれたばかりの若夫婦が、遊びたいのを堪えながら子育て、仕事と頑張っている中、お隣さんが引越ししてきます。
そのお隣さんが、お祭り騒ぎが大好きな男子大学生たちであったなら、それは子育てする側にとっては最悪の隣人となってしまうのです。
ご近所トラブルが加熱していく中、家庭の平和はどうやって守られるのか。
2014年に公開された本作品は、日本ではわずかな期間に限定的に公開されただけでしたが、アメリカでは大ヒットを記録し、2016年の夏には、「ネイバーズ2」が、クロエ・グレース・モレッツを登場させての公開となる予定だそうです。
単なるお隣さんとの、ゴタゴタを面白おかしくコメディとしている作品に思われるかもしれませんが、この作品は、夫婦や、大人になろうとしている人間たちの姿を描いた作品でもありますので、そのあたりも考えつつ見てみると、また違った味わいがあるかもしれません。
大人だって遊びたい
製作・主演を務めているセス・ローゲンは、北朝鮮のネタを扱った映画で色々と話題になってしまった「ジ・インタビュー」や、勢いで一晩をともにした女性が妊娠したことで真人間になろうとする「ノックドアップ/無計画の命中男」の主演を勤めたことで有名な俳優です。
その大柄な体躯と、愛嬌ある風貌が実に素晴らしいです。
そのセス・ローゲン演じる男、マックは実はものすごく遊びたい男です。
ローズ・バーン演じる奥さんもまた、遊びたい人です。
でも、そんな二人には、生まれて半年の赤ちゃんがいて、子育てをしながら大変な思いをしています。
友達からライブに来てよ、と誘われるのですが、赤ちゃんがいるため困りながら準備をします。
赤ちゃんは大人の都合なんて考えてくれませんので、オムツは必要だし、ベビーカーも必要で準備だけで、二人はくたびれてしまいます。
そんな二人の日常に、やんちゃ盛りの大学生たちがやってくるところから、物語は始まりを告げるのです。
翻訳ではやってきた学生たちをみて奥さんが「サークルか何か?」と書かれますが、英語ではサークルではなく、フラタニティと発音しています。
フラタニティとは
フラタニティとは、友愛会とも訳される、大学生たちが自主的に運営する組織です。
フラタニティの実態を紹介した映画といえば、本ブログでも紹介したことのある「アニマル・ハウス」がもっとも有名で、朝から晩まで遊びまくるような、エリート大学におけるとんでもない学生たちの実態が描かれています。
酒は飲むは、ドラックは吸うわで、生まれて間もない赤ちゃんにとって環境がいいとは間違ってもいえません。
そんなフラタニティが、隣の空家に引っ越してくるのです。
セス・ローゲン演じるマックは、奥さんと共に静かにするように注意しに行きます。
この映画は、ところどころ、MTV風のしゃれた感じの映像をつかうときがあります。
ミュージックビデオとかであれば、実に決まっているはずなのですが、30を過ぎた夫婦が、若者に迎合するような格好で、練り歩く姿は滑稽です。
はじめは、仲良くしようとする二人ですが、その考えは、フラタニティの会長であるテディも同じです。
仲良くしようと表面上はしていますが、フラタニティに所属する大学生たちが、そんな忠告を守るはずもありません。
ご近所トラブルの原因は些細なこと
案の定、フラタニティでは、爆音で音楽が響き渡ります。
電話で抗議するマックですが、全然改善されなために、「警察への通報はしないでくれ」と言われていたにもかかわらず、警察に通報してしまうのです。
警察がきたことでことなきを得るかと思いきや、フラタニティ会長のテディは、「パーティに呼んでごちそうしてやったのに、裏切ったな」と、翌日から嫌がらせが始まってしまうのです。
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お互いにうまくやろうといいながらも、ちょっとした行き違いから、少しずつことが大きくなっていくというのは、日本だろうがアメリカだろうが変わらないのかもしれません。
映画の前半部分は、お隣同士の苛烈をきわめていく嫌がらせ合戦が見ものです。
どういう風にして相手に嫌がらせをしていこうか、という風に考えていく様は単純に面白くみることができます。
大人になれない子供
さて、そんなフラタニティ側ですが、会長であるテディは、とある問題をかかえています。
実は、彼はもう大学を卒業しなければならないのですが、就職活動もしておらず、バカと言われてしまいます。
それと同時に彼は、フラタニティの会長として歴史に名前を残したいと考えている男なのです。
ことあるごとに、どうやったら名前を残せるのかということを考えてパーティを開きますが、うまくいきません。
「アニマル・ハウス」でも出てきますが、フラタニティには伝説的な事柄というものが存在します。
アニマルハウスでは、もういよいよフラタニティが存続できないとなったときに、「トーガ・パーティ」を開こうとなります。
ローマ人のような白いカーテンを体に巻きつけたような格好をして、ビールを飲みまくるというしょうもないパーティです。
「ネイバーズ」のテディは、今までフラタニティで行われた伝説的なパーティについても説明してくれます。
本当にあるのかわかりませんが、飲みすぎて靴に嘔吐し、さらに飲み続けた男の伝説や、もちろん、トーガ・パーティの説明も行い、フラタニティのアホな伝統に、彼がいかに心酔しているかが、よくわかるのです。
ですが、副会長を務める男は普通に就職活動をしていて、隔たりを感じてしまいます。
テディは、会長でありながら、伝説に名を残すために、やがて精神的に孤立し、家全体がドラックの煙でいぶされる、とんでもないパーティーを始めるのです。
ドラマや映画のネタが満載
この映画は、海外ドラマや映画を知っていると、それだけ小ネタがわかって、さらに面白くみることができます。
わかりやすいところで言うと、名俳優であるロバート・デ・ニーロの、今まで出演した映画の格好をする「ロバート・デ・ニーロ・パーティ」をするシーンなどです。
ご近所トラブルがいいだけ酷くなったあたりで、セス・ローゲン演じるマックが困りはてて、「もうやめてくれないか」と言っても、ロバート・デ・ニーロに扮したフラタニティの面々は、
「俺に言っているのか?」
「俺に言っているのか?」
と、マーティン・スコセッシ監督「タクシードライバー」のトラヴィスの真似をして、取り合ってくれません。
予告編でもありますが、「スマーイル、ハイゼンベルグ」といって、赤ちゃんが青いゲータレイドの氷を食べるのを撮影しているシーンがあります。
これは、癌になった化学教師が、化学の知識をつかって麻薬王になっていく姿を描いた、海外ドラマ「ブレイキング・バッド」のパロディです。ハイゼンベルグは、主人公であるウォルター・ホワイトが偽名として、不確定性原理を唱えたドイツの物理学者をつかったことからきています。
もちろん、知らなくてもまったく支障はありませんが、彼らのふざけっぷりがより伝わってきて、にやりとしてしまうこと間違いなしです。
大人と子供の違い
見ているとわかるのですが、若夫婦である二人も、フラタニティのメンバーたちも、実は、精神的にはそれほど大きな違いはありません。
ただ、セス・ローゲンたちが違うのは、彼らのほうが大人であり経験が豊富で、何より子供がいるという事実です。
フラタニティからの嫌がらせで疲れてしまった奥さんは、セス・ローゲンと口ケンカをはじめてしまいます。
そして、矛先は、自分の子供に向かいます。
「この子が生まれて、半年は失われた」とか、「これからも制限を受けるわ」と子供が生まれたことに対してネガティブな発言をします。
物語の冒頭から、二人で夫婦の営みをはじめようとしているのに、赤ちゃんが見つめてくるせいで、どうにもうまくいかないという姿が描かれている点からも、子供が生まれるまでは二人の世界だったにも関わらず、子供が生まれたことで、生活スタイルを変えざる得ない二人の実情が描かれています。
ただし、口ではそのように言いますが、すぐにその言葉を撤回します。
彼らは、夫婦って何なのか、とか、子供を育てることに対して一見疑問をもちそうになっていますが、誰よりも子供を大事にしています。
彼らは遊びたくてしょうがないのです。
子供がいなければ、きっと、フラタニティが引越ししてきたことを喜んでしまっていたことでしょう。
ですが、彼らが大人になろうとしている子供であるがゆえに、二人とフラタニティは道を分かつことになっているのです。
テディが後から、異常に敵対視するのも、フラタニティにとって、セス・ローゲン達は、未来の自分だからです。
大人になりたくないフラタニティ会長のテディと、子供の心も持ちながら大人になっているセス・ローゲンとの対立が、物語全体を見事に調和させているのです。
だからこそ、セス・ローゲンは、テディとすぐに仲良くなってしまうのです。
大人だって悪いものじゃない。
物語のラストは是非ご覧いただきたいところですが、セスローゲンとテディは、二人して上半身裸になります。
大人っていうものがどういうものかを知った人間たちの姿は、物語の当初とは全然違う趣にみえるに違いありません。
大人には大人の、子供には子供の楽しみががあることを、ご近所トラブルを通じて描き出している傑作映画ですので、「ネイバーズ2」の公開を前に、予習をしてみるのも面白いのではないでしょうか。
以上、『ご近所トラブルコメディ/セス・ローゲン製作主演「ネイバーズ」』でした!
ネイバーズ2で出演するクロエ・グレース・モレッツを取り扱った記事は以下になります。
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