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シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

現代風にアレンジされた「正統な」ヤクザ映画  北野武『龍三と七人の子分たち』

2015年現在、北野武最新作である『龍三と七人の子分たち』をDVDで観賞しました。『アウトレイジ』前後からエンターテインメントを志して映画製作を続けてきた北野監督。本作品の見どころを紹介します。

 

 

現在の社会情勢を勘案して製作された作品である

作品の特徴としては、ヤクザではない犯罪者集団が登場していること(オレオレ詐欺など)、引退したヤクザの老後(同居や独居の状況)を描いている、時勢が変わったことが影響しヤクザ渡世もしめつけが厳しくなった、などが挙げられます。

 

北野監督が、2015年現在の社会問題、社会情勢を作品に盛り込んだためですが、観客にも分かりやすいテーマを使ったエンターテインメント作品を作ろうとしたためでもあります。また、北野監督自身も直面しつつある「老い」が老人を主役にした映画作りにつながったとも考えられます。

 

ヤクザ映画、任侠映画の影響

北野監督の得意ジャンルといえば「ヤクザ」。凝った画面構成、削ぎ落とされたセリフなど北野演出とあいまって唯一無二の北野流フィルム・ノワールの世界を作ってきました。今作も主役がヤクザですが、これまでの作風とは少し違います。

 

作中、龍三たちが居酒屋で話しあう場面で、『仁義の墓場』という映画のタイトルがでてきます。

 

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これは東映の実録ヤクザ路線の名作で、実在したヤクザの壮絶な生き様を描いた作品なのですが、北野映画で他作品の映画のタイトルがでてくるのは結構珍しいことなんですよね(北野監督は自分がどの作品に影響を受けたかを煙幕をはって隠している節があるので…)。

 

今作にはバスを乗っ取って暴走するシーンがあるのですが、これは東映の『狂った野獣』(1976年)にも出てきます。もちろん、今作のほうがずっと大人しいバスジャックですけどね。

 

作品全体のイメージを観てみると、筋を通さない(義理人情のない)犯罪者集団に、社会的弱者(ヤクザといえども老人です)が殴りこむという感じですが、いうなればこの構図は、かつて任侠映画が得意としていたパターンでもあります。

 

仁侠映画というのは、上層部や他組織の横暴に、耐えに耐えた下っ端ヤクザや旅のヤクザもしくはカタギ(彼らは筋を通すこと、義理や人情を大事にしています。多くの作品で彼らの仲間が相手により殺されます)が最後に爆発してバッサバッサと悪役を斬って、最後には自分も命を落としたり、逮捕され連行される、というような話なのです。

 

実は本作品の構造とほぼ一致しているんですよね。

 

また、龍三たち一龍会が根城にしている小さなアパートの一室(若頭のマサの家です)と、西率いる京浜連合という半グレ集団の持っているビルは、それぞれの勢力・資金力の違いを象徴しています。物語の終盤にアパートを空にして、相手の本拠地に乗り込む、いうなれば「怒り・暴力の位置移動」というダイナミズムが本作品にも含まれているのです。

 

つまり、『龍三と七人の子分たち』の出てくる老いたヤクザは、かつて東映などの任侠・ヤクザ映画に出てくるような抗争をしていたものの、その中で生き残ってしまい(逆にいえば死にきれなかった)、再び義理人情のない組織がでてきたため「再戦」をした、ともいえるのです。

 

エンディングも含め、実は正統な「東映ヤクザ任侠路線」のフォロワー的作品でもあり、現代風にアレンジした意欲的な作品なのです。

 

cinematoblog.hatenablog.com

 

北野演出の時代背景による変化

 

今作に関するインタビューの中で、北野監督がこういっています。

「映画館でなくDVDやブルーレイディスク、ましてやスマートフォンで映画を観るような時代にカメラワークや映像美に凝っている場合ではないのではないか」

 

つまり「ソナチネ」などで観られていたあの世界観はこの時代では通用しないので(そもそもソナチネは観客が入らないことで監督は失望したそうです)、エンターテインメントに大きくふれた作品作りを心がけているそうです。よりわかりやすく、より届きやすい作品を作っていくことで評価をあげていきたい、と。そのかいあってか興行成績は北野作品の中でもかなり良かったそうです、『龍三と七人の子分たち』。

 

個人的には『ソナチネ』や『3-4x10月』などのアートとヤクザ映画が混じりあった作風が好きなので、少し複雑な気分なのですが、実際に映画作品を観る方法が増えたことで映画館自体に足を運ぶことが少なくなったのは事実です。

 

それに、映画を作り続けていくためには観客動員数も必要なので、アート風作品よりはエンタメ的な作品を志向するというのもまあ納得できますよね。その中でも監督の作家性は発揮できるので、北野監督には映画を撮り続けていってほしいと思います。

 

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