相米慎二の演出術 『台風クラブ』
こんばんは、ニャロ目でございやす。
今日は雨が降り続いていましたので、ちょうどいい機会だと思い、相米慎二監督『台風クラブ』(1985年、115分)を観返しました。
いやー、やっぱ何度観てもいい映画です。
独特の画面作りに定評のある相米監督。
今作も少年少女の揺れる心のありようを、その作家性を発揮して見事に描いています。
では『台風クラブ』における相米監督の作家性、演出力とはどういったものなのか。
映画での具体例を挙げながらその魅力に迫ってみたいと思います。
もしも明日が、雨ならば…
田舎町の中学校に通う少年少女の木曜日の夜から月曜の朝までを描いた作品。
台風の接近にしたがって彼・彼女らの心はしだいに波立っていく。
将来や成長への不安、性の衝動を瑞々しく描く、邦画の傑作です。
・台風クラブメンバー
三上恭一(三上祐一)
悩める優等生。台風が近づき、少しずつおかしくなる周囲に対し、映画のラストで独自の答えを出す。
清水健(紅林茂)
恭一と同じ元野球部員。美智子に好意を抱いており、背中にやけどを負わせる。「ただいま…おかえり…おかえりなさい」と呟くのが癖。
高見理恵(工藤夕貴)
台風の到来を待ちわびる、恭一の恋人。台風到来の日に、一人で東京に出かける。
大町美智子(大西結花)
勉強も出来て美人。恭一に憧れている。まじめな彼女も台風の接近に伴い、普段とは違う行動を取るようになる。
宮田泰子(会沢朋子)
由利、みどりとつるんでいる。リーダー格。
毛利由利(天童龍子)
泰子と同性愛の関係にある。
森崎みどり(渕崎ゆり子)
眼鏡をかけている(余談であるが、渕崎ゆり子はのちにアニメ『少女革命ウテナ』でも眼鏡キャラのアンシーの声優を演じている)。
スポンサードリンク
?
相米慎二の演出術~長回し~
長回しとは簡単にいうと、ひとつのシーンでカメラを切り替えることなく回し続けるという撮影方法です。
相米慎二監督以外にも作家性が強いといわれる監督はよくこの方法を使います(溝口健二、タルコフスキーなど世界中にたくさんいます)。
いわば、映画監督の力量を測る上での非常にわかり易い指標の一つといえます。
(長回しであっても切り替えの多用であっても、映画監督にセンスがなければただ単に退屈な画面になってしまいます)。
相米監督の代表作ともいわれる『セーラー服と機関銃』でも長回しは随所に使われています。
本作品では具体的には、クライマックスシーンである、校庭で半裸の主人公たちが歌い踊る場面や、主人公が「自分の回答」を表現するために机や椅子を積み上げる場面に使われています。
どちらもひと時も目を離せないほど緊張感に満ちたシーンになっています。
相米監督が撮影中、役者に対し非常に厳しいことは有名ですが、それは計算された構図を作りあげるために必要なことなのです。
長回しも、役者もカメラも集中しなければいい絵にはなりません(編集ではごまかせないので)。
一方、長回しとは反対に、カメラの切り替えを多用する作風に関してですが、例えば以前このブログで取り上げた深作監督は『バトル・ロワイアル』において、ガンガンにカメラを切り替えて扇情的なシーンを作り上げています。
誰かが叫ぶシーンや殺されるシーンは顔や体をアップにしたほうが直接的に視聴者を煽ることができますからね。
ただ、この方法は何度も続くとさすがに飽きますし、監督の力量や役者の演技力にも依存することになります。
このような切り替えの多用はテレビドラマなどでよく使われます。
ドラマは心情をセリフや行動でわかりやすく説明する必要があるので、顔や上半身のアップがないと誰が喋っているのかわかりませんし、何が起こっているかわからないためです。
相米慎二の演出術~奥行き、縦の関係~
この映画では役者の顔のアップがあまりありません。
基本的に映像というものは、単にセリフを喋っている人をアップで写しているだけでは非常に退屈です。
見ているほうも集中力を欠いてボケーっと見てしまいます。
これではなかなか印象に残りにくいのです。
印象に残りにくいということは心に刻まれにくいということで、作品としては不利ですよね。
この映画では役者が画面の手前と奥に配置されるというシーンが多いです。奥行きとか縦の関係に非常に気をつけているということですね。
これは会話を長回しのまま写すこともできる、緊張感がでる構図です。緊張感がでるということはつまり印象にも残りやすいのです。
具体的シーンといえば、理恵がナンパ男の家についていったものの恭一のことを思い出して部屋から帰る場面(男が手前、理恵が奥)、校内で美智子が健に追いかけられる場面(健が手前、美智子が奥)など。
二人が対峙した場合、手前の人物は視聴者側に背中を向けています。奥の人物は視線をこちらに投げかけています。
この「縦の関係」はあまり、普通の映画にはでてきません。うまく立体感を表現できなければ、ただ人物が重なっただけのゴチャゴチャした構図になってしまいますので、演出力が必須です。
この映画にでてくる「縦の関係」のシーンはどちらも非常に緻密な構成になっておりますので、未見の方はぜひチェックしてください!
相米監督が、時代劇・任侠映画で有名な加藤泰監督を尊敬していたのは周知の事実ですが、その加藤監督も作家性の強い作風で人気があります(ローアングル、長回しなど)。
古今東西、あらゆる映画から自分の作風を組み上げる能力が、映画監督には必要なのです。
台風が過ぎて…
というわけで今回はあえてストーリーにはほぼ触れていませんが、自分にとって相米監督は信用に値する映画監督(簡単にいえば、自分好みの映画監督)です。
未見の作品が幾つかあるのですが、何とか全部観たいと思います!
読んでいただきありがとうございます!