感想&解説。真似したくなる。映画ベストキッド(1984)
空手の修行シーンがとにかく有名な「ベスト・キッド」。
冊にペンキをぬる動作や、車にワックスをかける何気ない動作こそ、実は、空手の訓練になっていたのだ、という驚きの事実は、当時見ていた多くの人たちに衝撃を与えたものでした。
さて、実はベスト・キッド4まで作られ、ジャッキー・チュン主演でリメイク版までつくられてしまった「ベスト・キッド」ですが、その第一作目について、今改めてみても面白い点について、解説&感想たっぷりで紹介していきたいと思います。
配信されている「コブラ会」にいたっては、ベスト・キッドの正当な続編となっているということもあり、まずは本作品を見直してもらうのも有意義かと思います。
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冒頭は青春もの
「ダニエルさん」
日系アメリカ人であるノリユキ・パット・モリタが演じる謎の日本人ミスター・ミヤギ。
彼が、アメリカ人であるダニエルに空手を教え、見事に彼が強くなっていく姿を描いているのが「ベスト・キッド」だと思う方も多いと思います。
1984年に公開された本作品は、何度もテレビのロードショーで放映され、一定の年代以上の人たちで、知らぬ人はほぼいないのではないかという作品です。
空手のシーンの印象ばかりがよく残りますが、実は、物語の冒頭は実に青春ものらしいフォーマットで作られています。
ニュージャージー州の町から、カリフォルニアへと引っ越ししたダニエル。
ニュージャージーといえば、アメリカ大陸の東に位置し、反対側にあるカリフォルニアは、ダニエル少年にとって色々な意味で別世界といえるところでしょう。
IT関連企業に勤める母親についていくためとはいえ、友達がなかなかできないダニエルさんからすれば、かなりツライ経験だったはずです。
映画では、途中経過が描かれていますが、隣町に引っ越しというレベルでは全然ありません。
ふてくされた主人公のダニエルでしたが、引っ越し先での空手キックをきっかけに友達ができます。
一瞬で友達ができたダニエルは、あっという間に機嫌をよくして、ビーチ・パーティに参加するのですが、そこで決定的な物事を経験してしまいます。
学校デビューの失敗
映画で有名な、空手を教えてくれる謎の日本人ミヤギが、空手をダニエルさんに教えるのは、思ったよりも物語の後のほうになります。
通信空手を2か月やっているぐらいのダニエルさんが、実践経験豊富なジョニーというヒロインの元彼氏にボコボコにされてしまいます。
そのことがきっかけで、まわりの仲間たちは離れていってしまい、学校でもジョニー達一味に対してびくびくしながら生活しなければならなくなります。
「立ち向かうのよ!」
と、無責任にいうヒロインのアリ。
人間関係の構築が苦手なダニエルは、ますます孤立感を高めていってしまいますし、好きになったアリにアピールするためにも、ジョニー達への反逆をも重ねてしまいます。
物語の大枠は、引っ越し先でいじめられることになった主人公が、謎の日本人に空手を教えてもらって、成長する、という物語になっています。
本作品の最大の特徴は、まさに、日本人に空手を教えてもらって、精神的も肉体的にも成長する、という点に面白さがあります。
そして、大活躍したのが、本作品でアカデミー賞助演男優賞にまでノミネートされたノリユキ・パット・モリタこと、ミヤギです。
日本ブームの陰に
本作品が公開されたのは1984年です。
おりしも時代は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の著作もあるように、日本経済の黄金期にあたる時代です。
「バックトゥザフューチャー」においては、マーティ・マクフライが、いいものは日本製だ、と言ってみたりするまさに日本カルチャーのど真ん中といえるところです。
アメリカン・ニューシネマの終わりを告げる作品として登場した「ロッキー」ですが、無理やり当てはめてしまえば、ボクシングではなく空手だったというだけで、物語の構造そのものはほとんど同じです。
ダニエル少年は、たいしてルールもしらないで、空手大会に出場し、相手選手の卑怯な攻撃などを受けながらも、最後は、師匠であるミヤギから習った、鶴の技によって、優勝して終わります。
ロッキー・バルボアは負けながらも、立ち続けることで結果として勝利するという結末でしたが、「ベスト・キッド」は、まさに勝利して終わるという点で、多少の変更はあるものの、日本テイストを取り込みながらアレンジされた作品ともいえるのではないでしょうか。
さて、ダニエルを導くメンターとして登場したミヤギですが、その人となりは非常に興味深いです。
ミヤジの修行
「カラテ、ヒアー。カラテ、ネバー、ヒアー」
本作品は、非常に簡単な映画のセリフでやり取りが進みます。
「ワックス・オフ。ワックス・オン」
と、本記事冒頭でも書いていた、修行シーンのセリフなどは、ついつい、マネしてしまった人も多いのではないでしょうか。
空手を習っているジョニーにひどい目にあわされそうになったところを助けられたダニエル。
ミヤギの空手をみて、通信空手で恰好をつけていたダニエルさんは、断られながらも、空手を教わることができます。
「道を歩くとき、右端は安全だ。左端も安全だ。真ん中を歩けば、必ずひかれてグシャだ。空手も同じ。空手をするのはいい。しないのもいい。半端にすると、グシャだ」
ミヤギは、ダニエル少年に空手による暴力ではなく、精神的なバランスこそが大事であると教えてくれます。
それが、ジョニー達が通っている空手教室との対比になっているところも、わかりやすくてよい感じです。
「勝ち負けは関係ない。拳から何を学ぶのか。人生の姿だ。立派に戦えば尊敬され、誰にも迷惑はかけない」
修行シーン
「わしの言葉に従う。質問はなし。約束だ」
ミヤギは、一見雑用を押し付ける人に見えます。
この辺りは、みなさんご存じだと思います。
雑用をしつつ、でも、それが修行になっている、という点も含めて、本作品におけるミヤギは、禅的な思想も含めて入れていると思われます。
「目を閉じて、盆栽の姿を頭に思い浮かべる。目を開ける。思った姿のとおりにしていけばいい」
心のバランスであるとか、この禅問答的なやり取りも含めて、空手を含めた総合的な、日本的な感性のようなものが取り込まれているのも本作品の面白いところです。
ツッコミどころもありまして、主人公の住んでいるボロアパートにいる修理屋であるはずのミヤギが、広い土地をもっており、日本家屋風の家に住み、何台も車をもっているという状態。
どうして、そんなにお金があるのか、というツッコミどころはあるものの、当時の日本ブームの中で作られた、僕の考えた最強の日本人みたいな雰囲気も含めて面白いです。
初登場シーンが、飛んでいるハエを箸で捕まえようとするという宮本武蔵のようなエピソードが入っていたりするところも、色々と取入れようとしている雰囲気が感じられます。
青春映画としてのベスト・キッド
さて、空手シーンもいいですが、本作品のヒロインである、アリはお金もちのお嬢さんです。
ダニエル少年は、母親と二人暮らしであり、エンジンすらまともにかからないおんぼろ車で、彼女の家にやってきます。
ダニエルは、はっきりということはありませんが、やはり、色々な事柄に対する劣等感もある中で、彼女との関係も、亀裂が入ります。
ですが、ミヤギとの修行と、立派な車をプレゼントされた彼は、恋人との関係も改善させてしまいます。
ちょっと、とってつけたようなヒロインではあるものの、いかにもなセリフで、人間性の大切さを説いてくれます。
「車や家で好きになるんじゃない。あなたは、違って見えたから」
「君は山の手(金持ち)で、僕は下町だ。君にはやっていけないんだろ」
「それは、あなたのほうでしょ」
やり取りはあるものの、ダニエルはミヤギという謎の日本人に空手を通じて成長し、すべてを手に入れるのです。
青春ものとしても、空手の修行シーンのコメディ的な面白さと、思わず実践してみたくなる魅力も含めて、「ベスト・キッド」はヒットするべくしてヒットした作品といえるのではないでしょうか。
ちなみに、本作品の34年後を描いた「コブラ会」もネットフリックスで独占配信されています。まだまだ、ベスト・キッドの面白さは広がっていきますので、たびたび見直してみるのも、面白いかもしれません。
以上、感想&解説真似したくなる。映画ベスト・キッド(1984)でした!