シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

破天荒な若手総会屋を描く傑作! 松方弘樹主演『暴力金脈』(1975年)

個人的な話で恐縮ですが、何者でもない若者が金(や力や女)を求めて成り上がる、という分かりやすい話が大好きで、不良性感度ビンビンの東映はそんな私の性分にピッタリなのであります。

そんなわけで今回ご紹介する映画は中島貞夫監督『暴力金脈』。

 

これは若い総会屋が様々な人物と出会い、スキルを身につけ成り上がって、やがて大きな相手と勝負する、という話です。主人公を松方弘樹が熱演しております。

 

ちなみに総会屋というは簡単にいうと株式会社の株を保有し、その権利を盾に会社から金品をいただく存在です。株主総会の議事進行を妨げたり、会社にとって不利益となる情報を持っていたりもするので会社としてはわずかなお金で解決するのであればそれにこしたことはない、ということで金一封を渡したりして円満に帰ってもらおうとします。作中では「もらい屋」などとも呼ばれていて、一社のみにたかるだけでは当然食べていけませんが何十、何百もの会社を相手にすると莫大な収入となります。

会社側に認められ、幹事総会屋として株主総会の進行を取り仕切るまでになると、これまた多額の報酬を見込めます。

総会屋は正確にはヤクザではありませんがヤクザとつながっていたり、本人が実際はヤクザだったりすることも多いようです。

色々な問題を引き起こしたので、現在では法律で規制されている存在です。

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その名は中江宏(演:松方弘樹

 女を抱くテクニックのみが取りえの中江はヒモ兼若手総会屋。

ウィンドウペーンのジャケット、ピンクのシャツ、モダンなデザインのネクタイといった出で立ちで先輩たちに混じって会社に乗り込み、金をもらいにいくがなかなかうまくいかない日が続く。

 そんな中、乃木万太郎(小沢栄太郎)というベテランに師事し、ノウハウを学ぶことになります。

 

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ある日、中江が猫を捕まえて猫取り屋に引き取ってもらっているとそれが寺岡組の親分の情婦の愛猫ということが判明、若衆の奥田らに落とし前をつけろとすごまれ、連行されてしまう。その車中で、中江と奥田がかつて九州から集団就職で大阪に向かった汽車で一緒になったことがあるとがわかると二人は一気に打ち解ける。どちらも最初に就職した職場はやめてしまい、総会屋とヤクザという普通の道から外れた境遇をお互い労っているようにもみえます。

 

定食屋で奥田はハンバーグを注文し、うまそうに頬張るが中江は複雑な顔。お前もくえや!  といわれるがこの店には猫屋が三味線用に皮を剥いだあとの肉を卸しているんじゃ、いわばニャンバーグじゃ、と衝撃の事実を暴露。

奥田は中江と戯れに殴りあったりしながらしばし旧交を温めます。

大阪篇ーライバル、神野(演:田中邦衛

 師匠・乃木には因縁の相手がいます。それが大阪では名の通った総会屋・神野(演:田中邦衛)です。かつて乃木がばりばり売り出し中のころに神野が汚い手を使ってその芽を潰したのです。それ以来乃木はパッとせず日の目を見ることはありませんでした。

平和産業の株主総会にその神野も一団を従えて参加することを知った中江らは手駒を揃えて全面対決に挑みます。会場とともに入り乱れる両軍。混沌とした競り合いの中で、中江は神野ともつれて階段を転がりおちて怪我をしてしまいます。しかし神野は気力で総会に参加。残念ながら中江・乃木はこの勝負に敗れたのです。

 

病院にて中江は乃木も小競り合いの最中に負傷したことを知ります。神経を傷つけられてしまい視力を失った乃木。

「今日で引退だ…」

無念ながらもそう呟く乃木は中江に自分の持っている証券を渡します。

乃木の思いを受け継いだ中江は雨の中、質疑の発声練習をしたり、会社関連の本を読み込むなど自己研鑽に励み、次なる機会を待ちます。

 

ナニワ総銀に右翼の格好で乗り込む中江。名義分割という銀行にとっては非常に面倒な仕事を命じます。その銀行の世話を長年してきた神野は中江を襲撃します。中江はなんとか寺岡組のバッジを利用し、身分を偽りつつ最悪の事態を逃れます。

その後、奥田とともに神野の乗った車を取り囲み、脅しつつも味方に引き入れることに成功。

その後、ナニワ総銀から現金を強請り、仲良く三人で分けます。中江が自分の分を持って帰ろうとした時、奥田が中江の分配金を奪い取ります。

「寺岡組を騙った詫びを組長にいれるための金だ」

ただ働きとなってしまった中江。

この中江と奥田の立場の違いからくる思惑の違いが後半での対立につながっていきます。

実録 総会屋―超大物総会屋がすべてを実名で明かす「これが総会屋の真実だ」

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東京篇ーさらなる大物総会屋、西島(演:丹波哲郎

 大阪でのライバル、神野を倒すわけではなく仲間に取り入れるという方法で乃木の仇をとった中江。

次なる舞台は東京です。この東京には大物総会屋である西島がいます。西島のバックにはヤクザの錦志会がついています。

その西島はワンマン社長・曽宮が牛耳る東亜製作所の幹事総会屋をやっており、この西島ー曽宮ラインが本作のラスボスとなります。

 

東亜製作所の三浦常務から相談を持ちかけられた中江。曽宮の交際費の不正利用をネタに社長の座から引きずり降ろすことを計画します。

 

 一方、奥田は寺岡組の東京進出を担当することとなり、中江と再び手を組もうとします。中江ー寺岡組と西島ー錦志会の争いとなるものと思われますが、中江は総会屋の争いにヤクザ者がでてくることを望みませんでした。

ついに中江と奥田は決裂。中江の部下が奥田の部下に射殺されるという事件が発生しました。

全ては茶番ー曽宮(演:若山富三郎

 中江は曽宮との戦いに備え、愛人であるというクラブのママ・上原アヤと接触。アヤと曽宮が親と子という設定で(これが伏線となります)まぐわっている音声を録音し、彼女を脅します。

「お金ってほんとうにいいものよね」とうそぶくアヤでしたが、何度か接触を重ねるうちに、彼女と曽宮との意外な過去を知らされることになります。

その衝撃的な事実は、アヤ自身も最近になって知り、曽宮はまったく感づいていないとのこと。

これで曽宮を社長の座から引きずりおろすことができるー中江は翌日の株主総会でこのスキャンダルを暴露することを決意します。

そんな中江に、アヤが一人で車に乗って事故死したことを知ります。それは彼女が中江以外の誰にも話すことができなかった真実に対してだした自殺という答えでした。

翌朝、早くに中江は曽宮の自宅に向かい、「アヤさんが死んだ」と告げますが彼は素知らぬ顔。

 

株主総会が始まり、中江はこれまでの怒りをぶつけますがあえなく連行されてしまいます。曽宮は社長の座に留まり、総会はつつがなく終了してしまうのです。

「全ては茶番だ!」

中江のだしたその結論は、しかし誰の耳にも届くことがなかったのです。

『暴力金脈』感想・評価 まとめ

総会屋という当時あまり知られていなかった存在を取りあげたのが大きな特徴です。この役柄がはまったと思われたのか、題材としてよかったのかはわかりませんが、松方弘樹は『広島仁義 人質奪回作戦』(1976年)でも室田日出男に誘われて東京で総会屋になる役を演じています。迫力のある図体、よく通る大きな声がよくマッチしています。

 

脚本はこのブログでも何回か取り上げている笠原和夫、そして野上龍雄が担当しています。そのため、前半は笠原、後半は野上という役割分担になっており、映画を観るとわかりますがこの前半と後半で雰囲気が異なります。

一般的な評価として、若手総会屋が挫折をしながら次々とのし上がっていく前半部分のテンポの良さは好評で、後半の曽宮や西島、アヤが出てくる東京パートは意外とスケールが小さくまとまったしまったと言われています。

前半で総会屋のノウハウや苦労を見せて、後半では日本を支配するような巨悪にまで向かっていくというのが分かりやすい筋道でしたが様々な理由があり、構想は全て実現することができなかったそうです。

高田宏治は『東映実録路線 最後の真実』という本の中で、

「『民暴の帝王』という映画の脚本を書いた時も、右翼と会社からチェックが入った。会社は銀行を悪くかかないでくれといい取材したもののほとんどが使われなかった」と語り、題材として銀行、財界を扱うのは非常に難しい一面があると語っています。

そもそも映画会社も銀行から金を借りて作品を作っている以上、銀行を悪として描くのには限界があるとも語り、同じ脚本家としての苦労を慮っています。

 

スポンサー、金の出所については悪いことをいえないのは現在のテレビ業界なども同じ構図です。実録ヤクザ映画路線として、かなり過激な題材を取り上げ、ゲリラ撮影や映画化の許可などで危ない橋を渡ってきた東映としてもなかなか厳しい判断をせざるを得なかったのは想像に難くありません。

 

笠原と野上は苦労しながらも物語を収束させるに足るラストを用意していたとのことですが結局採用されず、あのようなエンディングになったとのことです。

 

東映実録路線 最後の真実 (メディアックスMOOK)

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その他、中島貞夫監督の作品はこちら

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 こちらは中島貞夫関連の必読書でございます!

 

 

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