隠れオタクは毎日が戦い。次回作も期待。ドラマ「特撮ガガガ」
特撮ガガガは、園子温監督の東京ガガガとはまったく関係ないそうです。
特撮ガガガは、中堅の会社に勤めるOL中村叶(なかむら かの)が、自分自身の特撮オタクを隠しながら、日常をかいくぐっていく物語となっています。
特撮ガガガを見て、「別に特撮は好きじゃないし」と、自分とは関係ないものと思う方もいるかもしれませんが、現代社会においては、だれしもが思う本質的なことが描かれた稀有な作品となっていますので、そのあたりを含めて解説してみたいと思います。
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オタクはつらいよ
世の中にはオープンオタと、隠れオタという分類があるそうで、簡単に言ってしまえば、周りの人間関係に対して、自分はこういうものが好きだ、とオープンに言える人と、それを隠す人間がいる、と解釈してもらえればいいと思います。
オープンな人からすれば
「自分が好きなものを隠すなんて、何かやましいと思っているからだろう」
と思われてしまうかもしれませんが、その微妙なオタク心を表現している作品として、特撮ガガガは面白いです。
主人公である中村さんは、表面的にはそれなりにできるOLです。
女の子らしいものが好きな母親に、特撮が好きな中村さんは弾圧されてしまいます。
多少誇張されたキャラクターではありますが、
「これって男の子のおもちゃだよ、こっちにしな」
と女の子のおもちゃを渡されてしまう子供たち。
男の子だから、女の子だから、というジェンダー的な考えのもと、その子供たちの個性はどんどんそがれていってしまうのです。
中村さんは、決して世界を変革するようなキャラクターではありません。
特撮好きの小学生ダミアンに「怪獣を倒すには怪獣をぶつける。大人を倒すには大人を」
という考えのもと、中村さんに援護を頼みますが、彼女は「むりむりむり」といって断ります。
情熱があれば世界が変わるわけではありませんが、情熱によって世界の見え方を変えてくれる、というのが、特撮ガガガの面白さです。
オタクはキリシタン
特撮ガガガの根底に流れているのは、生きづらいオタクのサバイバル術といってもいいかと思います。
オタクが許されている会社に所属している人たちであれば、流行の漫画やアニメの話は当たり前にするでしょうし、それができない職場になんかやめてしまったほうがいいと思うでしょうが、実際にはそうも行きません。
多くの人は、異端を嫌います。
理解できない趣味や考えをもつ人間がいたら、それは排除の対象になってしまうのです。
作中ででてくる、地下アイドル好きな北代さんは、その被害者です。
周りは「わかるわかる」と一方的な理解を示そうとするのですが、そのことが彼女にとってはつらいのです。
「おれそういうの気にしないからさ」
「でも、理想高いと結婚できないよ」
とか、それとこれとは別な話なのに、人生のライフステージとかの問題と比較されて非難されたりしながら心を痛めます。
それならいっそ、まわりに自分の好きなものを言わないほうがいい、と考えてしまうのも已む得ないことでしょう。
そんな厳しい環境を、主人公は、隠れキリシタンに例えています。
キリシタンだと知られてしまえば弾圧されるが、仲間は見つけたい。
中村さんは、ゆるキャラのストラップにまぎれこませて、特撮のキャラクターをまぜる、という技をつかって、仲間を探したり、涙ぐましい努力をするのです。
ちなみに、キリシタン弾圧のあまりにひどい状況を映画化した有名作品としては、遠藤周作「沈黙」ではないでしょうか。
日本にキリスト教を布教するためにやってきた神父は、隠れキリシタンに対するあまりにひどすぎる弾圧と、本当の意味での信仰を知らないままでありながら、神を信じて死んでいく人々に衝撃を受けます。
これほど残酷な世界が広がっているのに、なぜ神は沈黙する(助けない)のか。
マーティン・スコセッシ監督によって再び映画化された本作品は、圧倒的なスケールとともに神に近づける作品となっていますので、おすすめです。
ナカマヲミツケテモ
特撮ガガガでは、運よく仲間と出会うことができますが、同じ仲間といっても色々な違いが発生することも描いています。
24歳(漫画原作では26歳)の中村さんは、まだまだ焦ることは少ない年代です。
ですが、中村さんが初めて特撮について語れる友人として出会った吉田さんは、30歳をそれなりに過ぎており、年齢を言われると怖い顔になります。
本当の昔のオタクの人というのは、実はでてきていませんが、昔のオタクというのはそういう世間を諦めている、というといい方が悪いですが、割り切っているからこそオタクをやっていた、という人が多かったはずです。
世間が当たり前にやっているととは一歩引いているからこそ打ち込むことができた。
そういう人たちとも、中村さんたちは違うのです。
生きるためにはオタクは隠さなければならない。
そういう宿命の中で、それでももがき苦しむところに、特撮ガガガに魅力が光るのです。
同じオタクでも、世代によって悩みは異なります。
「友達が子供に買い与えているおもちゃを、自分のために買っている」
そんなちょっとした事実とか、時の流れにボロボロになっていくこともあり、特撮ガガガは、あるあるものとしても楽しむことができますが、それだけでは終わらないところにも良さがあります。
世界の見え方
中村さんは、カラオケに誘われてしまいます。
「特撮ソング以外、知らない」
という筋金入りの中村さんは、どうやって、カラオケを乗り切るのか。
ありのままに生きている人とか、他人に隠し事をしていない人からすれば、何を気にする必要があるのだ、と思うでしょう。
ですが、自尊心を守るためにオタクは日々葛藤しています。
世代間のギャップも描かれており、みやびさん(北代さんのアイドル仲間)は、大学生なのでまわりにオタクを隠していませんし、その意味があまりわかっていません。
「休みの日は何してる、って言われたらどうする」
そう、見れなかった特撮・アニメ・漫画を見続けるなんて言えないのです。
その結果、
「寝てる」
と答えると、今度は、不憫に思った同僚が休みに出かけようと誘ってくる。
善意による攻撃の恐ろしさは、特撮ガガガの見ている人たちからすれば、共感するしかないことでしょう。
そんな一般的な人には何気なくても、オタクにとってはつらいこと、これらをどういう風に乗り切っていくのか、ということを教えてくれる作品でもあるのが特撮ガガガのいいところです。
オタクだけの話ではない。
とはいえ、まるでオタクだけしか楽しめないみたいに書いてしまっていますが、この作品の根底に流れているテーマは、誰にとっても必要なものとなっています。
誰しもが裏表なく生きているわけではありません。
時には何かを隠さないといけなかったり、やりたくもないことをやっていたりするものです。
それを、ありのままに表現していては、なかなかうまく過ごしていくことはできませんし、同調圧力によって、好きなものを好きと言えないことだってあるでしょう。
隠れキリシタン=オタク
としていますが、素の自分を隠さなければいけない現代人にとってのサバイバル指南書としても、非常に面白い作品となっていますので、特撮は好きじゃないしなー、と思っている方も、気にせず読んで、見ていただきたいと思います。
ドラマ・原作
NHKドラマ10で、小芝風花が主演でドラマが行われましたが、原作のニュアンスをうまくまとめつつ、進めていった良作となっています。
物語の終わりも、まだまだ広げられるようになっていることから、次回作にはぜひ期待したいところです。
ドラマから入った人は、原作のより濃度が高い内容を見ていただきたいところですし、原作のみの方は、ドラマ版にある、会社の空気感というのが強くでていますので、そちらを楽しんでいただきたいと思います。
以上、隠れオタクは毎日が戦い。次回作も期待。ドラマ「特撮ガガガ」でした!