シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

令嬢騎士は髪を切る。感想&解説。劇場版「ゴブリンスレイヤー」

ゴブリンスレイヤー -GOBLIN'S CROWN- [Blu-ray]

 

異世界で活躍する作品が数多く登場している昨今ですが、ファンタジーな世界のリアルを描いている作品として有名なのは、「ゴブリンスレイヤー」ではないでしょうか。

勇者が存在する世界において、小さな村にでてくるゴブリンを退治するゴブリンスレイヤーなる人物と、仲間たちの活躍を描いており、物語序盤の衝撃を忘れられずについつい見てしまう人も多いところです。

さて、そんな劇場版「ゴブリンスレイヤー」について、簡単に解説や感想を述べてみたいと思います。

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キャラクター名は存在しない

本作品には登場人物の名前が存在しません。

その世界の中ではもちろんあるでしょうが、作品をみている我々からは、彼らの名前はわからないようになっています。


ゴブリンスレイヤー」「小鬼殺し」「オルグボルグ」

といった、ゴブリンを殺すものという名称で主人公のことを呼びます。

他の人物たちも、愛称のような感じで呼ばれており、決して名前では呼ばれないのが特徴です。

 

これは、本作品がTRPG(テーブルトーク・アールピージー)と呼ばれるものからの派生であるためです。

テレビゲームが全盛になってしまった世の中において、もはや、TRPGというものを説明するのも難しいですが、パソコンやゲーム機で行うゲームと異なり、人間がそれぞれの役割を演じつつ、サイコロを振ったりして物語を進めていく方式になります。

 

人間たちだけでやり取りが進んでいくため、一度として同じ物語は発生しませんし、ゲームマスターと呼ばれる人の腕によって、人々の想像力の中で進んでいくゲームといえばまぁ、それほど大きく外してはいないでしょう。

 

キャラクター名よりも、役職名のほうを大切にするゲームからきているからこそ、ゴブリンスレイヤーは固有名詞をつかわない、ということだけ覚えておいていただければと思います。

もちろん、そんなことを意識しなくても、まったく問題はありません。

 

 

ファンタジー世界のリアル

ゴブリンスレイヤー」は、もともとネットから派生したものではありますが、いわゆる、「なろう系」とは異なる系譜で生み出されている作品となっています。

初心者冒険者たちが、だいたいまず出会うザコモンスターといえば、ゴブリンというのが多いわけですが、本作品においては、そのゴブリンこそが一番のやっかいものとなっています。

 

知能は5歳児程度で、一匹ずつでは強くないのに、時に狡猾に動き冒険者たちを襲う。

劇場版「ゴブリンスレイヤー」においては、ゴブリンスレイヤーという人物を深堀りされることはありませんが、ゴブリンのトラウマから子供がえりしてしまう令嬢騎士を見たゴブリンスレイヤーが、冷たい態度をとらずに、ゴブリンは倒す、と言い放つあたりに、キャラクターの背負っているものをにおわせているところです。

 

余談ですが、突然ファンタジー世界にきて、チートな能力でバリバリモンスターを倒していく作品というのも、面白いのですが、もしも、ゴブリン一匹にでも苦戦するような泥臭い戦いを望んでいるとすれば、以下の作品がオススメです。

 

灰と幻想のグリムガル

いわゆる、異世界ものを、もともと実力のある作家が描いたらこうなりました、という作品になります。

モンスターを、生き物を殺すということに抵抗を覚えてみたり、仲間との連携も満足にとれなかったり、モンスターがいる世界においても、男女で悩んでいたりと、ゴブリンスレイヤーが気に入った人であれば、ぜひみてみていただきたい作品となっています。

 

 

劇場版の内容

さて、いつまでも外側ばかりをなぞっていても仕方がないので、劇場版「ゴブリンスレイヤー」の内容に入っていきたいと思います。

おおむねの流れとしては、さる令嬢が騎士となり、ゴブリン退治の依頼を仲間たちと受けてから消息不明になってしまったため、ゴブリンスレイヤーに救出するように依頼がきたところから始まります。


物語の冒頭では、その令嬢騎士が仲間たちと意気揚々と戦いに挑む姿が映されます。

ゴブリンスレイヤー」のタイトルがでたときに、剣が凍り付いていく姿が映し出されますが、これが、令嬢騎士のこれからを暗示しているというのは、わかりやすい演出となっています。

 

ちなみに、本作品においては、剣と氷の描写が令嬢騎士の内面の動きもあらわしていることになりますので、ご注意いただければと思います。

軽いネタバレになりますが、人間というのはモンスターに襲われて命が助かったとしても、それだけで、すべてが解決するわけではない、ということもよくみせてくれているところです。

 

イケイケの状態でゴブリン退治にでた令嬢騎士一向ですが、ゴブリンスレイヤーたちが街の人たちから聞いた話だと、怪しい気配が漂う様子。

ゴブリンスレイヤーの世界観ではよくある話ですが、なぜそうなったのか、というミステリー風にみることができるのも面白いところです。

仲間たちとのやり取り

1時間という短い作品となっていることから、仲間たちとの関係は深く描かれていません。

ただ、エルフの女性が、人間との寿命の差であるとか、友達を作りたいとった気持ちのやり取りがあるのは、珍しいところです。

クーデレであるエルフが、面倒なことをいいださないのは劇場版ならではでしょうか。

 

ゴブリン退治にはすでに慣れているメンバーですので、やはり、本作においては、令嬢騎士が、ゴブリン退治を通じて、人間不信に陥り、そして、また立ち上がるまでを描いているところをみていくのが正しいところです。

ゴブリンスレイヤーの戦い方

ゴブリンスレイヤー達は、チート能力をもっていません。

異世界ファンタジーとなっていますので、魔法はありますが、回数制限があります。こういったところも、TRPGちっくな雰囲気です。

雪山での戦いということで、環境を利用した戦い方をする点も面白いところ。

ゴブリンスレイヤーは、派手な戦い方はしません。

今回も劇場版だというのに、一度に倒すゴブリンは20体かそこら。もちろん、色々駆使して倒した数はもっと多いのですが、ちゃんと、数を数えて戦うあたりがゴブリンスレイヤーらしさといえるでしょう。

物語の補足

それほど多くの解説は必要ないと思いますが、本作は令嬢騎士の物語です。

魔法も剣も使うことができ、信頼で結ばれていると思っていた仲間たちと戦う日々。

魔法と剣という点でいえば、今回のボスである、ゴブリンパラディンとをだぶらせてある設定になります。

仲間たちも、ゴブリンスレイヤー達と似たような種族となっていますが、ゴブリン退治でうまくいかなくなったら、みんなの心が離れていきます。

「わたしくし、考えがありますの」

といって、ゴブリンたちを兵糧攻めにしようとしていましたが、作戦は見事に失敗。
ここで問題なのは、仲間たちが意見しなかったことです。

 

「従おう、あんたが決めることだ」

うまくいっているときは、それでも問題ないのでしょうが、なんでも令嬢騎士が決めたことに従って、責任は負わないでいるメンバー。

問題が起こると人間というのは本性が現れるものです。

「正直なところ、私ははじめからこの案には反対だった」

こうして彼女の心の象徴である剣は凍れてしまい、鞘が抜けなくなってしまうのです。


その後、ゴブリンスレイヤーたちに助けられて、一緒にゴブリン退治をしたいという令嬢騎士。

 

「俺はお前の親でもなければ友達でもない。頼みがあるのであれば、何をするべきかわかるはずだ」

といって、彼女は髪を切ります。

「報酬前払い」

文字通り、ゴブリンスレイヤー達は、令嬢騎士の安否がわかればいいのです。
生きて連れてこなければならないミッションではありませんし、そもそも、死んでいては連れてかえってこれません。

その場合、彼女の長い髪は何よりの証拠になるのです。

それと同時に、令嬢騎士の決意の表れのシーンともなっています。

説明するまでもないかもしれないところではありますが、こういった場面を丁寧に描いているところです。

 

仲間の対比

また、戦いがはじまる前に、令嬢騎士に剣をもつようにドワーフが進めるのですが

「ほかの剣はいらない」

令嬢騎士は拒絶します。

「剣は嫌か。いいぞ。それが付き合いのはじまりっちゅーもんだ。自分のいいたいことぐらい言えんでどうする」

このやり取りは、令嬢騎士にとって重要な場面です。

仲間たちと言い合うこともできず、結局仲間を死なせてしまった。この事実は簡単に取り戻せるものではありません。

命のやり取りが発生する場面においてはなおのことです。令嬢騎士の一行は、こういったとこをないがしろにして、責任を令嬢騎士に押し付けていましたし、令嬢騎士もそれがいいと思っていたからこそ、悲劇が起こったのです。

 

あとは、ゴブリンスレイヤーがたんなるゴブリン退治狂いではなく、被害者への気持ちも考えているというところをとりあわせつつ、戦闘が行われていきます。

ゴブリンスレイヤー」は、グロテスク描写が話題になったこともある作品ですが、劇場版では驚くほどその描写がありません。ゼロではないのですが、ないに等しい表現になっています。


一応、本記事においては劇場版「ゴブリンスレイヤー」と書いていますが、正式には「ゴブリンスレイヤー Goblin's Crown」となっておりまして、作中において、ゴブリンパラディンへの戴冠式のタイミングで主人公たちが訪れたから、ということにかこつけているのではないかというタイトルになっています。

ゴブリンスレイヤーのグロテスクさを期待すると拍子抜けするかもしれませんが、本作品はゴブリンスレイヤーの世界観を楽しむのはいい作品となっています。


以上、令嬢騎士は髪を切る。感想&解説。劇場版「ゴブリンスレイヤー」でした!!

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