サントリー胡麻麦茶でもCM。三船敏郎と加山雄三出演/赤ひげ
黒澤明監督が誇る有名な作品の一つに「赤ひげ」があります。
黒澤明監督の白黒映画最後の作品であり、医療を通じて、その当時の人間模様を描き、同時に、現代の我々にとっても色あせることのない金言が含まれた作品です。
サントリーの胡麻麦茶でも、三船敏郎ではない人が演じていますが、赤ひげのパロディをやって、胡麻麦茶の効用についてうたっています。
そんな「赤ひげ」について、紹介してみたいと思います。
三船敏郎の魅力
この映画の一番の魅力といえば、三船敏郎演じる赤ひげの人柄をおいて他にありません。
作中では、彼は一見破天荒な人物として描かれます。
ですが、現代の医学を知っている我々からすればいたって当たり前のことであり、赤ひげが江戸時代の中では、先見の明がある人物であることがわかるのです。
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赤ひげがいる小石川療養所では、病人に対しては同じ白い服を着せているのですが、それに対して、患者が文句を言うシーンがあります。
「俺は男だからいいさ。でもな、先生。女はかわいそうだ」
また、患者をみる立場の先生たちは、みんな同じ作務衣を着ています。
どうやら、この時代では、入院服とかの概念はないようです。
ですが、すぐに山崎努演じる佐八がフォローします。
「白い服は汚れが目立つ。だから洗いやすい。いつも清潔な服をきることができる。先生たちの服が同じであれば、遠くにいたって先生だってわかる。そうすれば、おらたちは安心して声をかけることができる」
今でこそ、入院した患者は同じ服をきていますし、医者は白衣をきて、すくなくとも病院にいれば、それが医者であることは一目瞭然です。
劇中の世界の人たちはやや気に入らない部分もありながら、でもそれをしっかり従っている、ということを見せることで、赤ひげの指導力がいきわたっていることが、登場する前の段階ですでにわかってしまう、というのはうまい演出です。
基本的には、加山雄三が演じている保本(やすもと)が主人公であり、劇中の世界をめぐっていく、という役割を担っています。
彼は出世を考えて長崎で医術を学びましたが、様々な理由から赤ひげのもとに来ることとなり、はじめは彼に反発します。
ですが、人の死や人間の生き様をみることによって、人間として成長し、自分と向き合っていく、というのが前半部の話となっています。
山崎努の名演技。
そんな保本が成長するきっかけとなった大きな出来事の一つに、山崎努演じる佐八の過去を知ったということがあります。
「佐八は菩薩みてぇだ」
そう周りの人間にいわれるほど彼は、自分の身体を酷使しながら、小銭を稼ぎ、同じく入院している人たちや長屋の人たちのためにつかってしまいます。
人がよくて、赤ひげのやっていることを非常によく理解している彼ですが、彼もまた危険な状態になってしまいます。
その中で語られる過去の回想は、人間の深い業が描かれます。
他の黒澤明映画などでも、多く見られるつくりではありますが、主人公が色々な地獄のような場所を見てまわることで、成長していく、というのは物語の王道の一つです。
「野良犬」では、三船敏郎が演じる若い刑事は、戦後まもない荒廃しきった町をめぐっていくことで、色々な実情を知っていく、というものですし、名作中の名作「生きる」においても、真面目に生きてきた志村喬演じる渡辺が、夜の世界などに連れられていく中で、自分のやるべきことに気づくという物語になっており、自分の知らない世界をめぐっていく、というところがポイントとなっています。
「赤ひげ」では、かなり長い時間佐八の回想が流れますが、一人の人間の生死を語ることが、一種の地獄めぐりになっているところが面白いところです。
山崎努演じる佐八は、奥さんを見初めますが、なかなか奥さんは家族に会わせてくれません。
詳しい理由は作品をみていただきたいと思いますが、総じていえることは、この奥さんは、両親の期待や義理に縛られ、嫌なこととかは無かったことにしようとする、決して人がいいだけの女性というわけではありません。
とある事件が彼女を襲いますが、それは「幸せすぎる報いだ」と思って、逃げ出したり、結局、自分に甘い人のもとへ戻っていったり。
つくづく人間の業が描かれています。
ただ、作中で描かれる人間模様は、必ずしも悪いもの、としては描かれません。
赤ひげもまた、医術を行うものとして潔癖であるべきなのでしょうが「俺は、こういうこともする」といって、悪事を行います。
「人に暴力をフルってはならん」
といいながら、次々とチンピラの骨を折っていき、自分で治療する、という矛盾したことも行うのです。
また、蒔絵職人だったじいさんがでてきますが、その家族もまた酷すぎる人生を語ります。
でも、その物事に対して是非を問うのではなく、人間というそのものを描いているというのが、「赤ひげ」の大きなポイントだと思います。
良い行いも、悪い行いもする。それこそが人間なのです。
そして、その上で、赤ひげは、自分ができることを行うのです。
貧困と無知
「貧困と無知をどうにかしなければならない」
三船敏郎が演じる赤ひげが幾度も言います。
江戸時代の物語が語られていますが、この言葉は現代においてもまったく色あせるものではありません。
映画で言えば、映画評論家である町山智弘氏が紹介して有名になった「FED UP」では、野菜が高くて買えないために、安いファーストフードを食べ、肥満になって糖尿病になっている人などがでてきます。
まさに、貧困と無知によって人は病になるのです。
また、現代においても、野菜は高く、栄養バランスを考えて食べるというのも非常に難しい世の中です。正しい知識がなければ、病気になってしまう、というのは、今も昔も変わらない命題なのです。
そんなことが、すでに「赤ひげ」で描かれているというのも興味深いところです。
余談
完全に余談ですが、この作品はDVDでみると休憩が入ります。
3時間を越える大作映画となっていますので、実際に映画館にかかっていたときは、休憩をとっていたそうです。
昔のものの中には、「赤ひげ」と同じように、DVDの中に休憩時間をいれてしまう、という面白いものを見ることができます。
ブロマンスとしても。
この作品は、赤ひげという人間を知ることで、出世を捨てて、自分が本当に正しいと思うことをしようとしていく男(加山雄三)の成長と決断の物語です。
ですが、一方で、三船敏郎と加山雄三との、男同士の熱い絆の物語になっていく、という一面もありますので、人によっては、おっさん二人の友情がどのようにして芽生えていくのかに注目してみても面白いかもしれません。
人間は業の生き物
この映画は、人間の二面性をよくよく表現しています。
赤ひげも、患者に対して親切にするだけの人でもありません。
金持ちからは、ブラックジャックよろしく高い診察代金を請求しますし、愛人がいることを奥さんにバラすようにほのめかして圧力をかけたりします。
片一方で、貧乏人からはお金をとらず、やさしく接する。
「医者は、生死のことに預からず、ということだそうですが」
志村喬演じる男がそういいます。
治る病人は治るし、死ぬ病人は死ぬ。
これもまた人間の二面性といえるのではないでしょうか。
太って調子が悪くなったお殿様は、赤ひげに食事の注意をされます。
「鶏肉と卵は食べてはいけません。魚は適切な量を守ってください。白米は食べてはいけません。あれは毒です。麦を3割、玄米を7割。この食事を向こう100日間続けてください」
ですが、このお殿様は、おそらく病気が悪化するでしょう。
医者は生死のことには預かれないのです。
「生命力のあるものに対しては、助力することはできる」
といいますが、まさに本人次第なのです。
その本人次第というところは、結局何が要因なのか、となると、「無知と貧困」にたどり着くのです。
お殿様はお金はあるかもしれませんが、無知です。貧乏であればそもそも、まともな食事をとることもできません。
赤ひげと、保本は、本人が自分で考えて健康でいられるように、無知と貧困に対して何かをし続ける、そんな存在なのです。
3時間という長い作品でもあり、黒澤映画で期待してしまうチャンバラシーンなどはありません(一応、チンピラ相手の立ち回りはあります)が、非常に控えめな作品ともいえます。
ですが、人間の多面性や、人間がもつ業。
様々な面が一度にみることができる非常に深い映画となっていますので、時間がある方は、見てみてはいかがでしょうか。
以上、「無知と貧困。三船敏郎と加山雄三出演/赤ひげ」でした!
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