シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

クリエイターは必見。職人とアーティストの狭間で。三谷幸喜「ラヂオの時間」

ラヂオの時間

 

ラヂオの時間」は、三谷幸喜監督による第一作目の映画作品となっており、そのあとに続く三谷幸喜映画をみるうえでも大いに参考になる作品となっています。


そんな「ラヂオの時間」について、簡単に解説&感想を述べてみたいと思います。

 

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三谷幸喜

もともとは演劇方面で活躍し、テレビの脚本などでも実力を発揮する中で映画監督としても実績を持つ人物です。

舞台劇を中心にやっているということもあり、「12人の優しい日本人」や「笑の大学」といった舞台脚本を原作とした作品が映画化されたりする中で、脚本家として抜群のチカラをもっている人物でもあります。


近年では、大河ドラマによる「新撰組」などは有名なところですが、ビリーワイルダーに影響を受けているということもあって、喜劇によって作品を掘り下げていくことを特徴としています。

 

ラヂオの大変さ

ラヂオの時間」では、普通の主婦である主人公の鈴木みやこが、ラジオドラマに脚本を採用されたものの、一人の俳優のわがままからどんどん物語が変更されていってしまうというドタバタによって展開していきます。

しかも、ラジオドラマという形式でありながら、生放送で行うということによってさらに状況が複雑化していきます。


本作品の面白さは、ラジオドラマを放送するためにいる人々の妥協やメンツによって、二転三転してしていくという脚本の面白さにあります。


時間的な制約、機材による制約をうまくつかいながら、一つの物語によって、登場人物たちの立場や、考えがわかってくるというつくりになっています。


本来であれば、鈴木京香演じる主人公の脚本に沿って物語が進むはずですが、予定通りに物事が進んでいくとは限らない、生放送の恐ろしさも描いています。

君は、職人か、アーティストか。

三谷幸喜の次作にあたる「みんなのいえ」では、家を作る、ということを題材にして、職人気質な人や、アーティストとして自由につくりたいと願う男、それぞれの思惑の中で右往左往する人たちが描かれていました。

 

cinematoblog.hatenablog.com

 

ラヂオの時間」では、同様のテーマが用いられていますが、アーティストと職人が両立できない、という現実的な見方をみせながら、その中で自分の納得のいくものをつくるしかない、という苦渋と笑いがみえます。

しかし、「みんなのいえ」では、職人と、アーティストはもれなく両立できるという点を強調しており、テーマがかわっていることがわかります。


ラヂオの時間」を気にいったかたは、「みんなのいえ」も引き続きみることをオススメします。


ものづくりを行う人間の心構えがわかる、という点においても優れた作品となっています。

 

職人とは

ラヂオの時間」における職人性は、プロデューサーとして現場を取り仕切っている牛島が担っています。


本当であれば、十分な人間や機材、時間を確保できればいいのですが、ものづくりというのは常に万全な体制でできるわけではありません。

牛島は、千本のっこという女優の我がままで、熱海の漁師と、普通の主婦との恋愛を描いた脚本にもかかわらず、「メアリー・ジェーン」という名前にしてくれなければ降りる、といわれて、要求を呑んでしまいます。


プロデューサーとしての牛島は、生放送のラジオドラマということや、事務所の圧力など様々な要因から、本来のものづくりを断念しながら、放送を続けようとします。


みんなのいえ」では、唐沢敏明演じる男が、ふてくされてしまって作業をストップするときがあるのですが、どんな状況であっても納期に間に合わせる、という職人として絶対にゆずれないものを、「ラヂオの時間」の牛島は見せているのです。

もちろん、それを、だめな大人だな、と思うのは簡単です。ですが、誤解していただきたくないのは、「ラヂオの時間」という映画は、それぞれの人たちが、成功させようと思って一つの終着点にまとめていこうとするところにこそ、面白さがあるいのです。


ものづくりの辛さ


「お願いですから、本の通りにやってください」

鈴木みやこは言いますが、今まで事なかれ主義を貫いていたような牛島が、反論します。

「ぼくらは遊びでやっているわけじゃないんだ」

「だったら、最後に私の名前を呼ぶのやめてください」

「それで手をうちましょう」

 編成部長の人がいいますが、プロデューサーの牛島はそこだけは同意しません。なぜならば、絶対に譲れないことだからです。

「あんた、何もわかってない。いつも我々が自分の名前が呼ばれるのを満足してきいていると思っているんですか。名前は読み上げますよ。まぎれもない、この作品はあんたの作品だ」

不本意な作品であっても世の中にださなければならない。
それもまた、職人として、仕事としてものづくりを行っている人の運命であることを、見事に描いています。

 

大団円

ラヂオの時間」は、ラジオドラマに脚本を投稿して採用された、鈴木みやこという主人公が、業界のゴタゴタに巻き込まれることで酷い目にあう、という作品ではありません。


ある意味において、最大の主人公は、プロデューサーの牛島です。


一見すると人当たりがよく、鈴木みやこに寄り添ってへらへらしていますが、上司にはこびへつらい、業界の重要人物にはゴマをする。

ある意味において一番悪い人物が牛島ですが、誰よりも、番組をつくるために自分を犠牲にしている人物でもあります。


自分を犠牲にするのが必ずしも正しいとは限りませんが、組織という中でものづくりをする人間の、一つの覚悟をみられるという点において、「ラヂオの時間」は、ものづくりに携わる人間の矜持を感じ取れる作品となっており、ものづくりに興味がある人は、みてみて損のない作品となっています。

以上、クリエイターは必見。職人とアーティストの狭間で。三谷幸喜ラヂオの時間」でした!

 

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