園子温監督版ゴジラ『ラブ&ピース』
園子温監督最新作「ラブ&ピース」を見てきました。
絶賛公開中の映画なので、ネタバレ的なことは極力行わず、とはいえ、具体的な内容が全然でてこない「ラブ&ピース」の中身を、一歩踏み込んだ形で紹介&感想を述べていきたいと思います。
園子温監督
園子温監督といえば、エロとグロ。代表作の一つ『冷たい熱帯魚』では、埼玉愛犬家連続殺人事件という残酷きわまりない事件をもとに映画をつくり、『恋の罪』では東電OL殺人事件を題材に撮影。青春映画『ヒミズ』なども撮っていますが、エロとグロはかかせない監督といえるでしょう。
にもかかわらず、今回の園子温は、エログロが一切ありません。
今回は言わば、園子温版ファンタジー映画。
亀しか友達がいない冴えないサラリーマンである鈴木良一は、ロックミュージシャンを目指していたが会社ではバカにされる日々。その彼が夢みていたことが叶いはじめ、やがてロックスターになり、あげくの果ては、巨大怪獣がでてきて、町を破壊しまくり、スタジアムライブでは「LOVE!」と叫ばれる。
あらすじを書いただけで、もはや意味がわかりません。
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そのくせ、ポスターは
『愛は、激しくて、切なくて、デカイ』
ラブ&ピース チラシ・HP等より
間違ってはいないですが、大間違いです。
この映画を、ほっこりして感動的な気持ちになる話だと思ったら度肝をぬかれることになります。
そして、見てわかるのは、園子温の監督作品史上、もっともお金がかかっているのは間違いないということでしょう。
園子温映画の中でも豪華さがずば抜けている
たしかに怪獣がでてきます。
そして、町をぶっこわし、クライマックスでは、ベートーベンの第九が鳴り響く。
なぜか、西田敏行演じる謎の老人の周りには、犬山イヌ子*1が声をあてる猫のぬいぐるみがいたり、かわいい本物の猫や犬、ウサギが沢山でてきます。
グレート・ピレニーズと思われる大きな白い犬がふさふさで可愛く、動物好きの人で、園子温好きの人は、必見です。
小道具も細かいものがでていますし、エキストラも沢山でてきます。歌のアレンジも人間で声を生声でやっていたり、もう、湯水の如くつかってそうな感じがたまりません。
人間の出演者
冒頭1秒目から、田原総一朗がでてきて、朝まで生テレビ的な番組が繰り広げられます。
あの脳科学で有名な、茂木健一郎がコメンテーターとして出演。脳科学的にも茂木自身のキャラ認識的にもセルフボケをかましているので、冒頭からドキドキします。
ちなみに、残りの生テレビメンバーは、水道橋博士、津田大介、宮台真司と、園子温の身内みたいな人たちが勢ぞろいです。冒頭からこれだったので、後半どうなってしまうんだろうと期待で胸が膨らみます。
こういった劇中の番組やミュージックビデオなどのちょっとした映像が、すごくよく作りこまれています。
脇を固める人たちも豪華ですが、主人公の鈴木良一を演じるのは、前作「地獄でなぜ悪い」でも主演を努めた長谷川博己さんです。
この人は、顔芸がすさまじく、その顔だけで映画開始1時間くらいはにやにや笑うことになります。
また、ヒロインの麻生久美子は、監督の指示ということだが、いい感じにダサい。
衣装は、ライブTシャツみたいなのを着て、ヘッドフォンで外界から音を遮断する、冴えなさ過ぎるOL。主人公は、下痢止めの薬をもらうことで、すっかり麻生久美子演じる寺島裕子ちゃんに恋をしてしてしまいますが、この話はそんな簡単なものではありません。
詰め込んだ内容
ちなみに、冒頭、映画の予告でもありますが、主人公はひたすら笑われます。
満員電車で笑われ、会社の人に笑われ、テレビのコメンテーターたちに笑われる。そんなバカなと思って気づくのですが、そう、彼は自分の自意識に押しつぶされそうになっているんです。
被害妄想の塊で、精神疾患をかかえているとしか思えない描写。
それが、園子温の独特のテンポで行われるために、怖いんだけど面白い。
昼間は会社員。夜はロックミュージシャンを目指しているのですが、部屋の中にある本は「楽して稼ぐ方法」とか、いかにも自己啓発な雑誌「BIG」なるものが乱雑におかれており、彼がどういう人間がわかります。
「ビックになりたいんだ」
その駄目さ加減が実によくわかるのが、主人公が昼食をとるシーン。
主人公は、どこにもなくて、どこかにありそうな寂れたデパートの屋上のベンチで座ってご飯を食べているのですが、そのまわりの人たちの哀愁ただよう感じがすばらしいです。
昼間に、そんなところにいる人たちは、ろくな人たちじゃないっていうのが一発でわかる。でも、憎めない人たちなのもまたわかってしまうさじ加減。
いい感じにだめなおっちゃんたちの中に、ごく自然に主人公が溶け込んでいて、もうたまらない気分になります。都会の会社に勤めてたら、自分もこんな人の一員になってそう、っていう感覚がぞくぞくしますね。
そんなどん底の状態で、主人公は一匹のミドリガメと出会う。
ぴかどーん、亀をもって会社にいこう
主人公は亀に、自分の夢を語ります。
「バンドを結成して、ライブをやって、スタジアムでライブをするんだぁー」
その後、主人公はなぜか亀をもって会社にいきだします。
「ばばばばっ」とか、「どかーん」とか、口で言うんですよ。これって、男の子がやるごっこ遊びで、もう、これは、男の子だったら絶対やってたことですよ、うん。
でも、まわりは気づかない。
主人公の妄想なのか、これは。
と思ってみていると、ヒロインの裕子ちゃんに亀を気づかれて、会社の全員に見つかり、主人公はとんでもないことを亀ちゃんにしてしまうのです。
「 それがお前のピースか、ピースなのか」
みんなに笑われて。
だから、これはクリエイターを目指している人間を嘲笑する人たちを描く物語なのか、と思ったりもしたんですが、そうでもない。
いったい、これはどんな話なんだ、と思いながらみていくと、可愛い犬や猫、中川翔子ことしょこたんが声をあてる人形がでてくるわ、主人公はロックスターにのぼりつめていくわで、もう話がおかしな方向に転がっていきます。
これで冒頭から30分も経ってないので、もういかに残りの話がめちゃくちゃな話なるか想像がつくかと思います。
創作に関して
この作品の中では、創作的なものに対する幻想を壊すような話がでていて面白かったです。
この予告編でも流れる、ラブ&ピースという歌の歌詞が、どのようにできていくのか過程が描かれるのですが、町の看板とか、たまたま見たものが浮き上がってみえて、それを繋げると歌詞になっていく、というくだりなんかは、案外そういうものだよな、と思いましたね。
あと、主人公が、愛する亀のために歌った曲が、勘違いされて、やがてロックスターへの階段をあがることになる、というその人間の、いかに、自分の見たい聞きたいようにしか物事をみない、っていうことが皮肉に語られていて、全編通してそれは感じられました。
ちょっと、どうなのかな、と思ったのは、せっかくのいい曲が、色々とアレンジされて歌われるのですが、何回も歌うせいもあって、感動的な曲がどんどん薄らいでいきます。
使い所をもうちょっと減らせないのかい、とやきもきしていると、ちゃんと、本当の主題歌であるRCサクセションの名曲『スローバラード』が、ばっちりなタイミングでかかるので安心してください。
主人公が歌うときに着るのは、忌野清志郎が着ていそうなキラキラの衣装。化粧も忌野清志郎っぽくて、ファンの自分としては、それだけで感動的でした。
怪獣が大暴れするシーンは、爆発するわビルは壊れるわで大迫力です。怪獣を下から見上げるシーンなんかは、映画「ゴジラ」でも似たように見上げるシーンがあって、怪獣ファンにはたまらないでしょう。お金をかけているのが伝わっていて、映画館でみてよかったと思える作品です。
とあるシーンで、ソフトバンクのCMのパロディをやってましたね。お酒、飲んでません、いえ、飲みました! みたいなやり取りの小ネタ。って、アドリブだろうか。
また、亀が流されていくシーンは、ムツゴロウさんこと畑正憲監督「子猫物語」のチャトランが流されていくシーンを思いさせる、悲しげなシーンが涙を誘いそうで、涙はでませんでした。
ゴジラとの関連性
さて、いろいろと書いてきましたが、この映画は、ゴジラの象徴性を鍵にすると、なんとなく話がわかるような気がします。
ゴジラ。
東宝映画が誇るスターであり、世界が認める大監督 本田猪四郎監督がつくりあげた傑作怪獣映画です。
ゴジラという存在は、その一作目においては、ひたすら破壊する存在です。平成ゴジラに代表される、人間を助けたり、いじめられたりするゴジラでなく、人類を、しかもなぜか日本の東京に現れる、古来からの生物となっています。
劇中で「ゴジラかもしんね」と、謎の老人が、ゴジラが昔からいたことを語るシーンもあって、放射能によるものではなく、古来から何らかの形で存在していた可能性が示唆されています。
さて、このゴジラ、諸説によれば、原爆の象徴であり、戦争で失われた英霊達の魂でもあると言われています。
原爆については、劇中で水爆実験がゴジラをという話を、生物学者の山根博士を演じる志村喬が何度も言うことです。
そう、「ラブ&ピース」の、亀の名前は、「ピカドン」。
主人公は、かっこいいからという名前でピカドンと名付けますが、これはゴジラを鍵に考えれば、意図しているところがわかるところです。映画冒頭で、ピカドンの意味がわからない若者たちが描かれていることからも推測できそうなところです。
では、英霊達の魂は?
戦没者の魂とかは、別にでてきません。
ネタバレにならない程度に書くと、主人公が愛した亀は、謎の地下水道に流れ着きます。
これは、いわば愛されたものたちが最後にたどり着くであろう場所。
そこには、悲しみにあふれた、忘れ去られたものたちがいるのです。
戦争の英霊たちは、平和ボケした人間たちを見て何を思ったか。戦争を忘れ、原爆を忘れ、悲惨なものはなかったことになっていく日本。現代をも見通した先見性がゴジラには感じられます。
だからこそ、ゴジラは不気味であり、文明の象徴を破壊するものなのです。
忘れるな、戦争を。原爆を、と。
でも、この映画の怪獣は、そんな悲しみとか妬み、嫉みに一切とらわれることなく、ひたすら「愛」によって、つきすすみます。
だから、麻生久美子演じる寺島裕子ちゃんなんて、どうでもいいのです!
その皮肉こそが、園子温の真骨頂といえるでしょう。
園子温は、「希望の国」において、原発事故を、ひねりもなく描いています。ただ、あまりにストレートで、そのまま不安をぶつけるだけの映画なので、僕は、オススメはしません。
でも、本作品は希望の国のときとは異なり、今回は、きっちりとエンターテインメントとしてばかばかしくも、園子温しかできない映画になっています。
ちなみに、この映画、たくさんの動物たちがでてきますが、映画のスタッフロールのときに、隠れるようにして、「この映画では、動物の虐待は一切していません」と表示されているのに笑いました。
わざわざ書かなくても。
ストーリーはむちゃくちゃなので、ストーリー的なものを期待してはいけませんが、園子温のめちゃくちゃさを感じるにはこの上ない作品でしょう。
最後に劇中で何度もリフレインされる曲を皆さんにも聞いていただきたく、改めて記述します。
ラブ&ピース、お前を
忘れな~い。
以上、「園子温監督版ゴジラ『ラブ&ピース』」の紹介&感想でした。
皆無