本当の幸せとは何か。感想。「あなた、その川を渡らないで」
ドキュメンタリー映画というのは、時に厳しい現実を映し出すことができます。
虐殺したことを誇っている人を映し出した「アクトオブキリング」などは有名だったりしますが、今回紹介する映画は、愛や老いとは一体どういうものなのかというのを、恐ろしさと共に伝えた作品です。
やらせじゃないの、といわれることもある作品もあり、感動で涙がとまらなかった、という人もいる本作品について、シネマトブログ的にはこう見えた、という部分を誇張しながら感想を述べてみたいと思います。
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真実の愛の映画なのか。
「あなた、その川を渡らないで」は、ペアルックの韓国の民族衣装をきた、老夫婦の生活を追ったドキュメンタリー映画です。
かわいらしい老夫婦の日常を追うだけの作品だったはずが、後半にいくにしたがって、愛とはどういうものかを伝えてくる作品に仕上がっています。
物語は、夫婦の仲睦まじい様子が描かれます。
98歳(本当に98歳かはわかりませんが、いずれにしてもかなりの高齢)のおじいさんと、89歳になるおばあさん。
おじいさんは、ものすごくお茶目です。
庭に散らばっている落ち葉を二人で片付けているのですが、おじいさんは突然落ち葉をおばあさんにぶつけます。
「何をするのよ」
と怒るおばあさんですが、いつのまにか二人で落ち葉を投げあいながら、再び庭はぐしゃぐしゃになってしまいます。
やがて二人は仲直りするかのように、お互いを気遣いあいながら、お互いに花をつけあったりするのです。
さて、そんな二人の関係に暖かな気持ちになったり、幸せな時間が時間と共に失われていくことの寂しさを覚える人も多いのではないでしょうか。
愛は重たい。
二人は、夜中に外にでてきます。
古い家であるため、トイレが家の外にあるのですが、おばあさんはおじいさんも連れ立って外にでます。
「どこへも行かないでね。歌っててくれるかい」
トイレの外にいるということを伝え続けるために、おばあさんはおじいさんに歌い続けるように要求するのです。
それをニコニコしながら見続けるおばあさん。
「あなた、歌が上手だ。寒いからあなたのことが心配だったの」
この場面をみて、感動できるかどうかでこの映画の楽しみ方が変わると思われます。
仲よしでいいな、なのか、ちょっと行き過ぎているのではないか、というところです。
やらせなのか。
あまりに出来すぎている二人に対して、やらせではないか、という疑いをもってしまうのは当然と思います。
演出は当然されているでしょう。
まるで、嘘のような老夫婦のやりとり。
「月日が経つにつれて老いていくが、しかたがないさ。あと5年生きたら私は100歳になる」
そんなことを日常でいうのだろうか、という台詞がどんどんでてきます。
ですが、この映画は、やらせだけでは説明できない物事もでてくるのです。
ここからは、ネタバレになるので気をつけていただきたいと思います。
醜い日常
老夫婦は仲がよいのですが、子供達もまた同じように仲がいいわけではありません。
家族が集まったときも、彼らは恭しく挨拶をしますし、仲良くしていますが、それが表面的であることはみていてわかります。
おばあさんの誕生日で一族で集まって食事をしているのですが、子供達が言い争いを始めてしまいます。
「母さんたちが病気だったとき、お見舞いにきてあげた? 母さんたちを病院に連れて行ったことは? 食事をつくってあげたことは? 私は面倒みてるわよ」
夫婦二人はそれをみても何もできません。
「やめなさい。母さんの誕生日なのに」
二人のことなどまったく意に返さないままの子供達。
二人は、泣いてしまいます。
やらせに見える部分もあるでしょうが、やらせだとしても心に残るものも多くあります。
老いと死
この映画は、夫婦の愛情ばかりに焦点があたることが多いですが、死について強烈に意識させられる作品でもあります。
夫婦は2匹の犬を飼っており、非常に可愛がっています。
小さく白いコマという犬と、無料でもらったから無料という意味でつけられたゴンスンという黒い犬。
二匹ともすごくかわいらしい犬です。
そのうち、コマという犬が死んでしまいます。
「私の可愛いコマ。じいさんが死んだら、コマが捜し回ると心配していた。でも、あの子が先に逝ってしまったよ。その次はたぶん、じいさんだ」
この映画は、たんなるやさしい映画ではなく、厳しすぎる現実をいくつもつきつけてくるのです。
あれほどチカラもちだったおじいさんが、鏡の一つももちあげられず、癇癪を起こすシーンなども、そうです。
無知なのかわざとなのか。
「この年になると、薬はきかないんだってさ」
と、言って治療をしない家族。
まだ死んでもいないのに、大声で泣き出す子供達。
「病院では何もできないって。薬はくれるそうだが、父さんの年齢じゃ効き目がないそうだ。医者がそう言っていた」
あきらかに、おじいさんは、それからかなり生きています。
「父さん本当に感謝しているよ。家族を養ってくれた」
この作品をみていて思うのは、人というのは生きて死ぬ、という非常に強い、当たり前の事実を教えてくれるということです。
どんなに苦労して育てた子供達でも、争うし、老いた親を疎ましく思う。
ですが、一方で、犬は子供を産み育てもする。
生と死の物語なのです。
人間も植物も
「花と葉は、まるで人間のようだ。人間も若いときは葉のようにすくすくのびて、花をさかせる。だが永遠には咲けず、年とともにかれはてる。そしては、葉は落ちて、人生を終えるんだ」
はじまりこそ、やらせの匂いがぷんぷんする作品に思えるかもしれませんが、映画の中で起こっている事柄は間違いなく事実です。
結果として、人や生き物の生き死にをみて、人間というのはどのような心構えで生きていけばいいかを伝えてくれるドキュメンタリー作品となっています。
この手の作品については、結論を求めるものではありません。
ですが、入院中のおじいさんに添い寝しているおばあさんはこう言うのです。
「一緒に死ねたらいいね。手を繋ぎながら」
愛は重いです。
ですが、子供達は離れていく中、最後に残るのは隣にいる人なのだとも思わせてくれる作品なのが「あなた、その川を渡らないで」となっております。
以上、本当の幸せとは何か。感想。「あなた、その川を渡らないで」でした!