シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

お前のミルクシェイキを飲みつくす!感想&解説/ゼアウィルビーブラッド

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド (字幕版)

 

 ポール・トーマス・アンダーソン監督(以下PTA監督)といえば、映画界の中でも才能に溢れた人物として、有名な人物です。


アメリカのポルノ業界の隆盛と、その中で翻弄される主人公を描いた「ブギーナイツ」を監督したことで一躍有名になり、トム・クルーズ演じる性の伝道士やその他の人々の理不尽な世界を描く「マグノリア」といった作品によって、実績と才能を確固とした人物です。


そんな、PTA監督のアカデミー賞なども受賞した作品「ゼアウィルビーブラッド」について、その見所や主人公の思いに迫ってみたいと思います。

 

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孤独な男

ダニエル=デイ=ルイス演じる主人公のダニエルは、アメリカのゴールドラッシュに乗り遅れながら、石油の採掘によって次々と成功していく男です。


物語の大まかな話としては、ほとんど山師とかわらないような感じで仕事を手に入れていきで、次々と成功させていきながら、最後には孤独になる男の人生が描かれています。

 

ダニエルという人物は、何でも一人でこなせる実力をもっていますが、彼には無いものがありました。

それは、家族です。


彼は、孤児となった子供を連れ出して、自分の息子として育てます。


その息子をだしにつかって、石油採掘の仕事をとっていくのです。


作品をみていくとわかりますが、当時のアメリカには同じように石油を採掘しては、自分の利益のためにしか利用しないような、悪徳業者がはびこっていたようです。


子供連れであれば、悪い人間ではないだろうと思わせることができるための、道具として彼は子供をつかっているのです。


一応、主人公のダニエルは、そういう言い訳をしながら息子をつれています。しかし、深い愛情もまた持っている人物でもあるのですが、それをうまく信じることのできないはがゆさもあるのです。

そして、彼の孤独さというのは物語が進むにつれて明らかになります。

 

成功すると寄ってくる人たち

「俺は、あんたの弟だ。腹違いの」


石油の採掘で大成功を収めた彼の元に、弟を名乗る人物がやってきます。


考えるまでもありませんが、明らかに彼の成功によって群がってくる変な人物としか思えないのですが、ダニエルは、比較的あっさりその人物を信用します。


多少の理由はあるのですが、そのもっとも大きな理由は彼自身の孤独と関わってきます。


一つは、石油の採掘中に息子の耳が聞こえなくなってしまったことです。


悲劇ですし、何とかしてくれと神父に怒鳴りつけたりするのですが、どうしようもできません。


息子に対して大きな愛情をもっていた彼ですが、どうしても試されてしまうのです。

こういうのも厳しいところですが、当時の世界においてなんらかの障害をもってしまうということは、大きなハンデとなります。ダニエルが、期待を寄せている息子だっただけに、その失望感は一押しだったことでしょう。


そんなときに、血のつながったという弟が現れ、彼の心がグラついてしまったとしても不思議ではないのです。

 

家族が欲しい

物語の中でわかってくるのは、彼は家族を求めているということです。

そのために、血のつながらない息子を商売のためだと偽って連れていったり、弟と名乗る人物を信用したりします。


特に、息子を自分から遠ざけるシーンがありますが、そのあたりは、まさに血を優先してしまった彼の弱さが原因です。


息子は、その人物が本当の弟ではないと気づいて、火をかけるという極端な方法で糾弾しますが、ダニエルからすれば、もう手が終えないという諦めにしかなっていないのが残念なところです。


結果として、弟を名乗る人物が優遇されていきます。


ですが、あっさりとその弟の正体がばれてしまいます。


映画の中でわかりずらいかもしれませんが、主人公は突然、生まれ育った隣の家の牧場の名前をきいて、相手に疑念をぶつけます。

それまで、二人で海で泳いでみたりして仲が良さそうにしているだけに、どうしてだろうと思うところです。

彼は、家族が欲しいのですが、妻を娶ったりはしていません。

同性愛的な雰囲気を匂わせていることもポイントです。

そして、弟は娼婦をかうのに、お金をせびってきました。


ここには、二つの理由が考えられて、同性愛的な面のあるダニエルがその行為に失望するというところと、彼にとってお金をせびってくる相手というのは、疑うべき相手だからです。


だから、そのタイミングで、彼はもう一度本当の弟かどうかを確認したのです。

 

結果、彼はますます孤独を募らせていきます。

 

ミルクシェイキの意味の前に

 本作品で、有名なシーンとしてあげられるのは、ダニエルが神父に対して「お前がミルクシェイキをもっていたとする」といいながら話しをはじめる場面です。

 

「お前のミルクシェイキを飲み干してやる」

 

と狂気の溢れる演技で言い放ち、意味がわからないけれど恐ろしく、印象に残る場面です。


「ゼアウィルビーブラッド」という作品は、実在の石油王と、ドラキュラ伯爵がモデルといわれています。


主人公のダニエルという人物は血は吸わないですが、吸血鬼なのです。


ちなみに、個性的な神父としてでてくるイーライという人物の存在が、本作品では重要となってきます。


彼は聖職者であり、ダニエルを無理やり自分の信徒に加えた人物です。


彼は聖職者でありながら、お金に卑しく、たびたび主人公にたかってきます。

彼は、バンディという老人の土地の利用権をちらつかせて主人公にお金の寄付を要求してきますが、ダニエルはそれを弄びます。


「まわりの土地は俺のものだ」


温泉とかで考えてもいいと思いますが、土地はつながっていますので、まわりの土地をもっていれば、その間の土地にある埋蔵されたものも、吸い出すことはができるわけです。


そんなこともしらないイーライ神父は、それを取引材料にもってきたのです。

 

実を言うと、ダニエルは家族を欲しながら、家族を遠ざけてきました。


イーライという人物も結果として、彼にとっては家族に近い人物だったのです。彼は最後の家族を殺すことで、本当に孤独になってしまったというラストを迎えます。

 

ミルクシェイキを飲み干せ

ミルクシェイキについて補足しておきますと、主人公のダニエルはドラキュラ伯爵をモデルにしているとかきました。それがどういうことかといいますと、他人の血をすすって生きている人物という意味だと考えられます。


もちろん、石油採掘の技術は人脈をつかって財をなしますが、彼は他人の守ってきた土地から石油をすいあげているに過ぎないのです。

彼は色々なものを利用し、他人の利益を吸い上げながら、生きてきた。

イーライ神父に対して、お前がミルクシェイキをもっていたとしても、ストローを伸ばしてミルクシェイキを飲み干してやる、と言い放ったのは、自分がそういう人物であるという告白に違いないのです。


自分は吸血鬼のように、他人のミルクシェイキ(利益や大切なもの)を吸い上げている、と。


彼はそうやって生きて、孤独となりました。

 

「ゼアウィルビーブラッド」という作品は、そんな強靭な精神力で財をなしながら、孤独にしかなれなかった人物の末路を描く傑作映画となっています。

 

ちなみに、PTA監督は、物語にでてくる小道具などは本物をつかうことに執心している監督ですので、映像も含めて非常に重厚なものとなっています。


絵づくりのすごさも、含めてPTA監督のすごさがわかる作品となっていますので、気になった方は、何度か見直してみるのも面白いですよ。


以上「お前のミルクシェイキを飲みつくす!感想&解説/ゼアウィルビーブラッド」でした!

 

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