アン・ハサウェイの代表作/プラダを着た悪魔 感想&解説
ファッション系のおしゃれ映画なのかと思ってしまう題名「プラダを着た悪魔」ですが、この作品は、社会を知らない若者が、ものすごい理不尽に触れながら、仕事を通して成長していく仕事映画といっていい作品となっております。
アン・ハサウェイという類まれな女優と、超大女優であるメリル・ストリープとのやり取りも含めて、脚本も素晴らしいできとなっておりますので、感想と解説を含めながら
みてみたいと思います。
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アン・ハサウェイ
アン・ハサウェイといえば、大きすぎる目と口が特徴の女優であり、カウボーイのゲイボーイたちの悲しくも激しい恋愛を描く「ブロークバック・マウンテン」で主人公の相手の男の奥さん役を演じてみたり、麻薬中毒者の娘が非常に気まずい思いをしながら、姉の結婚式に出席する姿を描く「レイチェルの結婚」などに出演しています。
「プラダを着た悪魔」では、ジャーナリストを目指すお世辞にもおしゃれとはいえない女性を演じています。
ジャーナリストにおしゃれは必要ありません。
ですが、仕事がない彼女はランウェイという雑誌に面接にいき、ミランダという超敏腕編集者のアシスタントになります。
この作品の一面としては、ものすごい嫌味で偏屈な上司によって鍛えられる新人OLの奮闘気としてみることもできますが、カリスマや天才といったい人間の孤独や、人に夢を与える職業というのがいかに大変か、ということもわかる脚本となっています。
アン・ハサウェイ演じるアンドレアは、ファッションに対して興味がありません。それは映画を見る多くの人もそうではないでしょうか。
映画を見に来たのであって、ファッションに興味があるわけではそれほどないはずです。
アンドレアは、そんなところに一発かまされます。
ファッションは繋がっている
服の組み合わせを決めているシーンがあり、アンドレアはアシスタントとして同席しています。
二本のベルトのうちどちらがいいのかわからない、と女性の一人がいいますが、アンドレアはその違いが判らなくて笑ってしまいます。
「私にはその2本のベルトは同じに見えます。私は学んだことがないので、そういうものは」
「そういうものですって」
「貴方が着ているセーターは単なるブルーじゃないわね。ターコイズでもラピスでもない。セルリアンよ。オスカー・デ・ラ・レンタがその色のソワレを発表したの。セルリアンはブームとなり、安いカジュアルコーナーでも売られるようになって、貴方が購入した。そのブルーは巨大市場と無数の労働者の象徴よ。ファッションと無関係と思っていたそのセーターも、ここにいる私達が選んだものなのよ」
アンドレアは、ファッションは自分に関係のないと思っていました。
ファッションに興味がない彼女からすれば、服の組み合わせなんて、なんの関係もない事柄です。
ですが、彼女が彼らが真剣に選んでいることを笑ったことで、その場の当事者の一人になってしまいます。
しかも、自分が適当に選んで着ている服もまた、ファッション業界と密接なつながりがあることを示されることで、自分にとって関係ないと思っていたこの場にだって、自分と関係のある場所なんだ、と意識させられてしまうのです。
それと同時に、仕事に興味がないと見破られていることも面白いです。
天才によって振り回されるものたち
カリスマ編集者ミランダを演じるのは大女優であるメリル・ストリープです。
「マディソン群の橋」でクリント・イーストウッドと熱愛を演じる大人しい奥さん役を演じる一方で、ロバート・ゼメキス監督による「永遠に美しく・・・」では、美しさを求める女性を皮肉に描いたブラック・コメディにも主演する、実力派の女優です。
そのメリル・ストリープ演じるミランダは、本当にわがままな人物です。
アンドレアに対して、絶対に不可能な命令を下します。
「ハリーポッターの新作をもってきて」
「わかりました。近くの本屋で買ってきます」
「これからでる新作に決まってるでしょ。持ってきなさい。あと、15分以内にステーキをもってきなさい」
ただ、彼女はその要求に精一杯こたえるのです。
仕事映画として優れている点がまさにここです。社会は理不尽の連続であり、それがわざとらしすぎることなく強調されています。
そして、理不尽すぎる要求に耐えられなくなって、彼女は、同僚の男に愚痴をいいに行きます。
「私がちゃんとやっても彼女(ミランダ)は認めてくれないし、御礼も言わない。でも、失敗すると悪魔になるのよ。必死に努力しているのに認めてくれない」
同僚の男は言います。
「じゃあ、辞めろ。君の代わりは5分で見つかる。喜んで働く子がね。いいかいアンディ。君は、努力していない」
彼女は必死に努力しています。
台風で飛行機がでなくなり、ミランダはなんとしても飛行機を飛ばすようにと催促します。アンドレアは軍にまで頼りましたが、彼女を飛行機に乗せることはできませんでした。打つ手がなかったのです。それでも、ミランダはアンドレアを非難するのです。
「慰めて欲しいのか。いじめられて可愛そうにって。甘えるな!サイズ6」
サイズ6とは、彼女の着ている服のサイズです。
これは夢と憧れの物語
夢というものは、他人からすればまったく意味のないものに見えることがあります。
ファッション雑誌に所属している人たちは、みんな本気でファッションに向き合っています。アンドレアが幸運にもアシスタントにしてもらったランウェイという雑誌も多くの人たちの夢の場所でもあるのです。
「ただの雑誌だと思うか? ロードアイランドの少年は、サッカー部にいると偽って裁縫部に所属し、夜は毛布に包まって隠れてランウェイを読んだ。ここで働けるなら多くのものは命も捧げる。でも、君は偉そうに文句を言う」
そう言われて彼女は気づくのです。
自分が興味を向けてこなかったもの。理解しようとしなかったものを、何よりも大切だと思う人がいることを。
はからずも、自分はそういう人たちの夢を踏みにじっていたこと。
そして、上司のことを理解しないで、愚痴ばかり言っている自分の愚かさに。
そのときの、アン・ハサウェイの表情は絶妙です。
「君は、ほめてくれないと嘆く。甘ったれるなよ」
彼女は相手のことを理解する努力をしていなかったのです。まぁ、作品として強調されているところではありますが、現実社会の中でも似たようなことは多いでしょう。
「どうしたらいいの」
そう同僚に教えを請い、そして、彼女はジミー・チュウの靴をはくのです。
ジミー・チュウはマレーシア出身の靴職人とファッション雑誌である「ヴォーグ」の編集長タマラ・メロンの共同創始によるイギリスのファッションブランド(現在はドイツの会社が所有)です。
星がちりばめられたデザインのサイフとかも有名です。
ちなみに、「プラダを着た悪魔」のランウェイという雑誌のモデルになったのが「ヴォーグ」だったりします。
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アンドレアが初めて履く靴を、ジミー・チュウにするというのが憎い演出です。
仕事か、恋か
そうして彼女は、夢や憧れを理解するために、高級ブランドに身を包み、努力します。
セーターなんて着ないで、マーク・ジェイコブスや、シャネル、ドルチェ&ガッパーナといったハイブランドを着こなすのです。
彼女は学生時代からの友人と恋人がいます。
特に恋人はファッショナブルとはいえない格好です。
どんどんおしゃれになっていくアン・ハサウェイと彼氏との間で距離がうまれてくるあたりも、ありきたりでありながら実にうまいもっていき方をしています。
友人達と会っている最中に、電話が鳴ります。
ミランダは、いついかなるときでも電話をかけてくるのです。
はじめのほうは仕事なんだから、しょうがない、と思うのですが、その異常なまでの要求に、まわりの人間と距離がうまれてきてしまうのです。
家族サービスをしようとしていたけれど仕事が入ってしまった。恋人とデートの約束をしていたけれど取引先とのトラブルで休日出勤しなければならなくなった。
こういうことが積み重なったとき、やはり、関係というのはかわっていってしまうのです。
「私生活が危機よ」
「仕事が上達するとみんなそうなる。全私生活が崩壊するよ。昇進の時期だ」
仕事と私生活の両立の難しさもこの作品ではわかってしまうのです。
決断すること
そろそろネタバレもしていきます。
ものすごい勢いで実力をつけていくアンドレア。
それと同時に彼女は恋人と距離が生まれ、やがて、別れることになってしまいます。
実は、彼女はミランダからの電話や用事があるたびに、仕方がないといって友人との用事とかを後回しにしてきました。
また、同僚が体調を崩してしまったことと、自分がミランダに認められたことで同僚の女性がずっと心待ちにしていた仕事を横取りすることになってしまいます。
躊躇しますが、それもまた仕方が無いことだと思って受け入れます。
ミランダは、「貴方は私に似ているわね。人が何を求め、必要としているかを越え、自分のために決断できる。
「私は違います」と言って、アンドレアは否定します。
「あなたは先に進もうとした。この世界では不可欠な決断よ。誰もが私のような世界を望んでいるわ。誰もがあこがれているのよ」
さて。
今まで何度もアンドレアは、ミランダの要求にこたえてきました。
ですが、彼女は携帯を噴水の中に棄ててしまいます。
彼女のために尽くし、私生活を犠牲にし、それでも、得るものがあるからこそアンドレアは彼女についてきた。
しかし、物語のラストで、彼女はミランダからきた電話の着信をみた上で、噴水にすててしまいます。
これは、ミランダが嫌になったからではありません。
ミランダという人もまた、悲しい人であり、私生活を犠牲にしながら、誰かの憧れになろうとしたのです。
そのために夫を失い、子供達に辛い思いをさせている。成功するために誰かを蹴落としたりもしている。
彼女は、その誰もがあこがれるというミランダは、ものすごく多くの犠牲の上に成り立っていることを悟り、自分もまたそれに加担していることに気づくのです。
「もし、貴方のような生活を望んでいなかったら」
「望んでいるに決まっているわ」
彼女は、誰かを蹴落とすような世界から決別することを決断します。
でも、それはミランダを嫌いになった、ということではなく、自分の夢を追いかけようと考えたり、自分と向き合おうと決断したからにほかなりません。
この作品は原作もいいのですが、とにかく脚本が素晴らしいです。
主人公の成長。価値観の変化。社会の理不尽さ。自分の決断によって失われていくもの。
成功と失敗。栄光と衰退。
その多くが詰まった傑作です。
ラスト10分が特に素晴らしいですが、それは実際に見ていただきたいとおもいます。
彼女は、最後に自分が奪ってしまった夢をエミリーに返し、自分自身の夢のために進んでいく点が素晴らしいです。
また、何より、彼女の成長がファッションによってわかるという点が素晴らしいです。
アン・ハサウェイ演じるアンドレアは、ださいセーターとスカートを吐いて、ぼさぼさの髪でした。
それが、同僚の助けを借りてブランド服に身を包み、身体もシェイプアップして、チャーミングな女性へと変貌します。
物語の最後には、彼女に似合ったスタイリッシュな服装へとかわっていっているのです。
背伸びでも借り物でもない、彼女自身の格好になって、物語が終わる素晴らしい演出です。
ちなみに、この作品をみて思い出したのは、当ブログでも紹介したことのある「マイレージ・マイライフ」です。
この作品では、主人公はジョージ・クルーニーですが、新人の女の子が社会の理不尽とか厳しさによって会社を辞めてしまうのですが、その先では、「プラダを着た悪魔」と同様の出来事がおきる、というところがあります。
仕事という巨大な理不尽を通して描く傑作映画のひとつですので「プラダを着た悪魔」は、ファッション系のおしゃれな映画だろう、と思って敬遠せず、是非、アン・ハサウェイの美貌とともにその素晴らしい物語を堪能してみてもらいたいと思います。
以上、アン・ハサウェイの代表作/プラダを着た悪魔 感想&解説でした!!