家族はお互いが異星人/映画 美しい星/感想
吉田大八監督による三島由紀夫原作「美しい星」。
主演を務めるのは、「おでんくん」や「東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン」で有名であり、俳優としても実力を発揮するリリー・フランキーです。
現代に蘇った三島由紀夫の作品がどのように展開されていくのか。
どういったところを楽しむべきなのかを含めて、考えてみたいと思います。
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偽りの家族
リリー・フランキーが演じる主人公の大杉重一郎は天気予報士です。当たらない天気予報として半分バカにされながらも、古参のキャスターとして一定の地位にいる男です。
物語冒頭では、形だけ重視した主人公の誕生日会が行われ、長男がなかなかこないまま家族の雰囲気は最悪の状況であることが描かれます。
ここからわかるのは、これは、家族の崩壊と再生がテーマであることが見えてくるところです。
ただ、重一郎は愛人のほうを優先。この愛人もまた、重一郎のことなどさほど好きでもなさそうなのがポイントです。
お天気キャスターとして、重一郎の次の座を狙っているのですが、おそらく、かつては、少しの憧れをもっていたことも匂わせています。
そんな重一郎は、愛人と二人の帰り道で、突然まばゆい光りに包まれて、記憶を失ってしまうのです。
実は、コメディ
「美しい星」を見るにあたって、三島由紀夫が原作だからといって、ものすごく深い文学作品だと思ったら、楽しめなくなる可能性が高いので注意してください。
この作品は、あくまでコメディだと思ってみたほうが純粋に楽しむことができます。
パンフレットの冒頭で、吉田大八監督の最後の文章には
「あと、かなり笑えます。」
と書いており、この作品が笑っていい作品だということが示されています。
そのような前提を考えながら、作品をみていきたいと思います。
家族は宇宙人
家族だからといって、全ての家族が通じあっているわけではありません。血のつながりがあったところで仲の悪い家族もいれば、いい家族もいます。
大杉一家に関して言えば、決していい家族とはいえないでしょう。お互いのことにはさほど関心もなく、関心がないからこそ何を考えているかなんてわかりはしないのです。
そんな大杉一家は、次々と宇宙人として目覚めていきます。
リリー・フランキー演じる重一郎は、火星人にとして目覚めます。
火星人として目覚めたことで、地球を守らなければならないという使命にかられ、自分の出演しているお天気番組の最中に、地球温暖化の影響について視聴者に訴えかけるのです。
「地球のみなさん、頑張りましょう!」
痛々しくみえるのですが、彼は本気です。
また、亀梨和也くん演じる長男は、水星人として目覚めます。
プラネタリウム内で女の子に無理やり迫ったあげく、「高校生じゃねぇんだから、ホテル代ぐらいけちるなよ。顔がいいから一緒にいてやったけどさ、勘違いするなよ」
と怒られてしまいます。
失意の中、亀梨くん演じる一雄は、プラネタリウムで見た水星に心を奪われ、自分が覚醒していくのを感じるのです。
橋本愛演じる暁子もまた、友人らしい友人もいない中、たまた路上ライブを行っている男に惹かれてしまい、自分が金星人であることに目覚めます。
大杉一家は、地球にいるはずなのに、誰一人として一つの星の住人ではないのです。
そんな一家が、どのようにして生き、宇宙人たちとのかかわりの中でかわっていくかがポイントとなっています。
本当か、妄想か。
「美しい星」をみていて思うのは、彼らは本当に宇宙人なのか、ということではないでしょうか。
最後まで、単に彼らが信じたい妄想なのか、はたまた本当に宇宙人なのか、というのが半信半疑になってしまうところです。
大杉重一郎は、さきほども書いたとおり当たらない予報士です。
かつては、自分に自信があったのでしょうが、やる気のでない毎日にうんざりしているのです。
そんな愛人との終わりなき怠惰な日々をかえたのが、宇宙人としての使命です。
また、亀梨くん演じる一雄もまた、かつては野球に情熱を傾け、まわりの人間からはプロを目指している、と言われていた人物ということになっています。
そんな彼が、自転車便で荷物を届け、配達先には理不尽に怒られる。
彼女になりそうな人からは、フリーターのくせにと言われてふられてしまう。
精神的にどん底の状態で彼は水星人に目覚め、やがて、世界をかえようとする佐々木倉之助演じる黒木という男と出会うのです。
橋本愛演じる暁子は、暗い印象はあるものの美少女であるとされています。
しかし、大学の教授からは「授業を手伝ってもらえないかい」と、明らかに下心満載な感じで誘われますし、大学のミスコンにでてみないか、とチャライ男に誘われます。
おそらく、美しさのせいで男には誘われ、女性からは妬まれることですっかり心を閉じてしまっている人間であることがわかります。
そんな彼女は、金星人として目覚めることで、生き辛い現状から逃れることができるのです。
また、母である中島朋子が演じる伊余子は、唯一の地球人です。
ですが、夫にも娘にもかまってもらえず、一人で家にいる彼女は、主婦友達から水に関する商売を進められます。
典型的なマルチ商法なのですが、彼女は、美しい水を信じて、マルチ商法にはまっていってしまうのです。
単なる逃避?
そこからみえてくるのは、彼らが、火星人だとか水星人だとか金星人だとかいっているのは、たんに満たされない現状から逃げようとしているだけなのではないか、ということです。
ここからはネタバレになりますので、ご注意ください。
橋本愛演じる暁子は、妊娠していることがわかります。
母につわりのシーンを見られてしまい、あんたもしかして、といわれて
「私は、月の影響は受けない」
と金星人的に言い訳を言いますが、病院に連れていかれてしまいます。
「タケミヤさんとはキスもしていないし、手もふれていないの」
と言いますが、母はそんなことを信じません。
「こういうことは、地球人でも、金星人でもしっかりしなきゃ」
重一郎が後で調べたところによれば、タケミヤという男は、女性を騙して借金を重ね、薬をつかって女性を昏倒させたあげく、凶悪な行為に及ぶというとんでもないやつだったことがわかります。
暁子もまたその毒牙にかけられたとしか思えないのです。
金星人というのはこころの弱い女性を陥れる口実に過ぎないのではないか。
それぞれの家族が、自分が宇宙人ではないという証拠を見つけたり、みせつけられたりしながら、物語はラストへと向かっていくのです。
見所。
この作品は、同じ地球人でありながら、お互いが異星人であり、理解しあえない家族が描かれています。
一見するとこっけいな行動をしているように見えますが、彼らの中ではいたって真剣です。
重一郎は、火星人へのメッセージを伝えるボディランゲージを行ったりしますし、暁子もまた謎の動きをします。
正直、彼らは理解不能です。でも、それでいいのです。
最終的に彼らは、福島と思われる地域へと赴き、そこでUFOのような存在をみます。
余談ですが、なぜか唐突に牛がでてきます。
一種のギャグのような気がしますが、諺で「牛に引かれて善光寺参り」というのをやっただけのように思います。
これは、欲深い老婆が布をひっかけた牛を追いかけていって善光寺というお寺にいってしまい、信心に目覚める、というものです。
牛にかつがれていった先には、UFO。
いままでお互いが宇宙人であり理解できない存在だった家族が、UFOによって家族愛を取り戻す、という壮大なギャグになっているのです。
それは、彼らのみた集団幻想かもしれませんし、本当の宇宙人の存在だったのかもしれません。
でも、そんなことより重要なことを、映画をみたみなさんは既に知っているはずなのです。
以上、「家族はお互いが異星人/映画 美しい星/感想」でした!