シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

「君の名は。」感想&解説/新海誠

新海誠監督作品 君の名は。 公式ビジュアルガイド

 

 新海誠といえば、「ほしのこえ」で鮮烈なデビューを飾り、美しい映像・アニメーションを駆使して少年と少女のセカイを描く監督です。

爆発的なヒットをしている「君の名は。」をより理解することができるように、新海誠の特徴や、作品の解説・感想を語ってみたいと思います。

 

新海誠のすごさ。


新海誠は、アニメーション監督として「ほしのこえ」を発表するまでに、ゲーム業界の間で畏怖をもって知られていた人間でもあります。

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パソコンゲーム全盛であった2000年代、そのゲームメーカーminoriで発売された作品「Wind -a breath of heart-」のオープニングムービーを見たときの衝撃は、計り知れません。

当時の貧弱なパソコンでありながら、美しい映像と生き生きとした動き、それでありながら、データ容量が圧倒的に少ない、という魔法のような技術力に誰もが息を呑んだものです。

パソコンゲームのアニメーションといっても、アニメーションとしっかり呼べるものはほとんど存在せず、DVDもほとんど普及してなかったこともありデータ要領が制限されていました。

パソコンゲームでアニメーションなんて、満足なものはなかった時代です。その時代に、軽く、美しく、滑らかな映像をつくっていたのです。


そんな、新海誠監督が、ほとんどの作業を一人で行った作品。
それこそが、「ほしのこえ」でした。

この作品は、多くの人間をつかうことでしか成し遂げられなかったはずのアニメーションに一石を投じた作品でもあります。

男性の声を新海誠監督が行い、さすがに女性の声は頼んだという話ですが、アニメーションとパソコンの可能性を一気に広げた立役者でもあります。

 

新海誠の特徴。


作品の特徴にうつりましょう。

ほしのこえ」から一環しているのは、あらゆる意味での距離恋愛がテーマの一つといったところでしょうか。


ほしのこえ」は、宇宙にいくことになってしまった女の子と、地球にいる男の子が、超長距離でメールをする、という内容です。

地球から離れるに従って、メールが届くまでの時間が長くなり、二人の間に不安と距離感が広がります。

宇宙空間という場所もあいまって、その息苦しさが伝わってきます。

 

ほしのこえ

ほしのこえ

 

 

また、わかりやすいのは、「秒速5センチメートル」です。

この作品は3話構成の連作形式でわかれております。

その中で、東京から田舎に行ってしまった女の子に会いに行くために、大雪などで電車が止まりながら、女の子に会いに行きます。

「こんなおいしいオニギリ、食べたことないよ」と10代の頃の初々しさがすばらしいです。

 

また、詩的な独白というのは必ず入っており、作品のトーンを決める重要なものとなっております。


「いま、振り返れば、彼女もまた、振り返るだろうか」


町ですれ違ったかつて好きだった女性。

しかし、すっかり夢や希望を失い、社会の中ですれてしまった主人公は、振り返ることを決断できません。

 

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独白は、「君の名は。」でも流れてきますので、注意して聞いていただきたいと思います。

 

新海誠の楽しみ方。

 

さて、なかなか「君の名は。」の解説に入りませんでしたが、そろそろ解説してまいります。

 

新海誠を見るときに、すこしもやもやする部分があると思います。

それは、基本的に主人公たちが暗めな人が多いということです。ですが、それは一つの考え方でがらっと見方がかわります。


新海誠の物語の特徴は、それが少女漫画的なものとしてみることが重要だということです。

キャラクターの内面を大切にしており、誤解を恐れずに言えば、設定やつじつまが合っているとかではなく、キャラクターの内面そのものが表現されていればいいのです。

 

また、音楽を多様しながら、まるでミュージックビデオのように音楽と映像をリンクさせるのが特徴の一つにもなっています。


思春期真っ只中の少年と少女の、ともすれば壊れてしまいそうな心を、そのままに拾い上げているのが見所です。


また、新海誠の物語は、セカイ系の部類に入る物語となっております。

誤解をおそれずにざっくりと説明すると、主人公とそのヒロインとの関係が、物語の全てである作品といったところです。

 

村上春樹の作品にルーツを求める場合もあるでしょうが、わかりやすく漫画で代表的なところでいえば、高橋しん最終兵器彼女」です。

主人公は、最終兵器となってしまった彼女のちせと心が潰れそうなまでの純粋な恋愛をしますが、なぜ戦争にちせが巻き込まれるのか、という現状はほとんど描かれず、二人の関係にのみスポットがあたっています。

 

 

ほしのこえ」でも、一応設定はありますが、宇宙に彼女がいく理由は、それほど重要な問題ではないのです。

あくまで、二人の関係こそが全てなのです。

さて、そんなその特徴を念頭におきながら、「君の名は。」をみてみましょう。

 

セカイ系の極地。


予告映像でもありますが、「君の名は。」は、男女が入れ替わることを中心とした物語です。

 

入れ替わりをするものといえば、大林宣行監督「転校生」が思い起こされるところですが、内容的にも似通った部分あります。


ヒロインである三葉(みつは)と、東京で高校生をやっている瀧(たき)。


この二人は、ある日入れ替わります。


入れ替わりに二人が気づくまでの間の演出は非常に上手いです。

三葉が気づいたときには、すでに入れ替わりが発生したあとであり、まわりの友達が「昨日、大丈夫やった?」とか「自分の席もおぼえちょらんかった」などと言われます。


イキナリ、その状況になって混乱するのは、見ている我々も一緒で、主人公たちと同じような気持ちになりながら、「君の名は。」のセカイに入っていけるのが楽しいです。


三葉は、田舎で伝統的な家柄の娘です。

厳しくもやさしい祖母に育てられますが、都会にでたいと思っています。

友人に「カフェでも行かね」といわれて、自動販売機の横で缶ジュースを飲むしかできないぐらいの田舎にうんざりしているのです。

そして、町長の娘であり、名家の娘ということもあって、クラスメイトから陰口を叩かれたりしています。


一方で、瀧は、東京に住んでいるイケメン男子です。

ケンカっぱやいながらもやさしい男であり、バイト先の小野寺先輩にあこがれています。ですが、あこがれているあまりに、なかなか話も出来ない、なんとなく年上の女性にあこがれている男子高校生なのです。

 

この二人が、突然理由もなく丸一日、中身が入れ替わってしまうのです。

 

入れ替わりの楽しみ。

入れ替わりに気づいてからのダイジェストが非常に楽しいです。


二人は自分にない部分を相手の生活にもちこみます。

物事をはっきりいえない三葉でしたが、瀧が入れ替わることで、クラスメイトに主張するようになり、しまいには、女の子に告白される始末。
カフェがない田舎のために、自分たちのカフェスペースをつくるところなんかは、東京の人間が田舎になんとか文化をもちこもうとする姿がわかってすばらしいです。

一方で、三葉は、あこがれていた都会の生活を満喫し、バイト先の小野寺先輩と仲良くなるなど、二人はお互いの特徴を生かして、楽しむのです。

 

ですが、「君の名は。」が物語的にも面白いのは、そのあとになります。


二人は、積極的に入れ替わりの理由を探ったりはしません。それについて二人でルールを考えたりしますが、意外にも順応しているのです。

 


ですが、ある日唐突に、その入れ替わりが行われなくなるのです。

 

 

君の名前は。


そして、はじめて彼らは、お互いに会いたいと思うようになります。

 

場所も何も関係なく、唐突に入れ替わった二人。
しかし、そのことによって、二人は自分たちのことがわかり、恋に落ちているのです。

どこで好きになる余地があったのか、と思う人もいるかもしれませんが。

 

まったく関係がなかったはずの二人ですが、入れ替わってお互いを知ったことが、彼らがお互いに会いたいと思う動機、になっているのです。

 

入れ替わりというファンタジーな要素そのものをつかった、遠距離恋愛になっているところが、新海誠監督らしいです。


ネタバレは避けますが、とある事情が二人を阻みます。


たんなる距離だけではない、一番近くにいながら、もっとも遠くにいる二人が、お互いを求める物語になっているのが素晴らしいです。


なぜ入れ替わりが起こったのか。

その理由は、なんとなくは明かされますが、はっきりとは説明されません。すべては、マユゴロウの大火によって失われてしまったのでしょう。

でも、それはセカイ系の物語ですので、物語の設定よりも、二人の関係に注目していただきたいと思います。

 

セカイ系の震災(ここから軽いネタバレ)。

なんでも震災に結びつけるのはどうかと思うのですが、とはいえ、この物語は、新海誠による一種の震災を語った物語でもあると思われます。


映画をみていない方は、一応ネタバレとなってしまいますので、ネタバレが気になる場合は、映画をみたあとに戻ってきていただけるとありがたいです。

 


さて。

 


作品の中で、ティアマト彗星なるものが地球に接近します。


ティアマトとは、メソポタミア神話における海の女神の名前となっております。
神々を生み出しながらも、最終的には厄災をもたらす怪物を生み出した存在です。

その名前からして、どことなく怪しい雰囲気がわかります。


そして、案の定ティアマト彗星は、地球に最接近した再に二つに割れ、主人公の住む町に落下してしまうのです。

死者700名を越す大災害となり、それ以後、町はなくなってしまいます。

 

主人公は、その大災害をなんとか止めるべく、奮闘することになるのです。


止められなかった災害を、二人の恋の力によって、最小限の被害にとどめるという奇跡をみせてくれる物語となっており、二人の関係にとってしても、非常に明るいものとなっています。

 

ほしのこえ」にしても「秒速5センチメートル」にしても、二人の関係には救いがないものとなっています。

青春は美しく純粋であるけれど、時間的・距離的に離れるにつれて、純粋さは失われてしまうという悲しい側面が強くだされているためです。


ですが、「君の名は。」では、まぎれもないハッピーエンドで終わっています。


二人はたしかに、再び離れてしまいます。

ですが、

「たしかなことが一つだけある。私たちは、会えば絶対、すぐにわかる!」

「セカイのどこにいても、会いに行く!」

 

まさにセカイ系を体言する台詞。

ですが、この言葉が、二人だけではなく、世界をも救うのです。

セカイ系は本来、閉鎖的な物語ですが、彼らの特殊な力が、時を越えて多くの人を助けることにつながるのです。

 

君の名は。」は、男女の入れ替わりをする恋愛ものだと思ってしまうところですが、時空を越えて恋をする二人、そして、震災以後の世界で何が必要かを問うてくる作品にもなっておりますので、是非、美しいアニメーションと共にみていただきたいところです。

蛇足ですが、スタッフロールの中に映画監督である岩井俊二の名前があって驚きました。青春映画といえばやっぱり、岩井俊二です。
本作品が気に入った方は、「リリィ・シュシュのすべて」や、「花とアリス」をみても楽しめるかもしれません。

 

 

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以上「セカイを救え!感想&解説/新海誠君の名は。」でした!

 

 

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