映画化多数! 作家・吉村昭特集!
本日はいくつもの映画の原作(相米慎二『魚影の群れ』や今村省平『うなぎ』など)となっている小説家・吉村昭の作品の中からオススメの作品を紹介していきたいと思います!
①漂流
江戸時代、無人島に流れ着いてしまった男の12年に及ぶ孤独な戦いを描いた作品。男はある方法を使い、12年後にこの絶海の孤島から帰還を果たします。水も食糧もないこの島で男はどうやって生き抜き、そして生還したか。文庫本で500ページを超える大作ながらサクサク読める名作です。1981年には北大路欣也主演で映画化されています。
1923年、歴史に残る大きな被害を発生させた関東大震災。その脅威を冷徹なまでの落ち着いた文章で描写し、あの日、あの場所で何が起きていたかを記録する震災文学。未だに地震という「いつ爆発してもおかしくない爆弾」を抱えているわが国にとって一読しておくべき作品といえます。『三陸海岸大津波』とともにお勧めです。
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③戦艦武蔵
その夜、長崎にてうごめく影あり。
極秘裏にすすめられた「戦艦武蔵」建造プロジェクト。膨大の資料を厳選し、その製造から沈没までを一気にまとめあげた力作。戦争とは何か、国家とは何か。あくまでリアリズムの鉄則に従い、理性的に描写されています。右も左も関係なく、一度は読んでおきたい一作です。『戦艦武蔵ノート』と一緒に読みたいですね。
④赤い人
北海道はどのようにして開拓されたか。その知られざる側面に迫る作品。樺戸集治監初代典獄・月形潔の視点を中心し、囚人と看守の北国での厳しい生活を描きます。「赤い人」とは当時の囚人の着ている服の色からつけられたタイトルです。ちなみに月形潔は現在の北海道月形町の名前の元となりました。読めば読むほど自分にはこの生活は無理や!と思うこと必至。
⑤破獄
逃げ出せ、この狭い檻の中から。
脱獄することのみに才能を結集させた孤独な男を描いた本作。脱獄というのはご存知の通り、繰り返せば繰り返すほど、より監視の目がきつくなり、より堅牢な部屋に入れられ難易度を増します。それでも主人公はその都度われわれには想像も及ばない方法で脱獄を繰り返します。決して諦めない反骨精神が、ただただ脱獄することにのみ使われた何とも凄まじい男の記録。あなたも読んだら、今いる部屋から脱獄したくなる!?
⑥高熱隧道
1936年、黒部川第三発電所の建設工事が開始された。しかし、それは国策史上稀に見る難工事だった。渓谷は次々と作業者の命を飲み込んでいく。この血で塗れた道は本当に開通するのだろうか。実際の出来事をモデルに書かれた脅威のフィクションです。大変お勧めです!同じく難工事物である『闇を裂く道』もいいですよ!
⑥仮釈放
その男は不貞した妻を殺しただけでなく、密通相手自身とその親にも手をかけ、無期懲役の判決を受けた。16年後、彼は仮釈放される。保護観察司のもと社会復帰を目指す主人公。人を殺してはなぜいけないのか、人を殺した人間は生きることが許されるのか。様々な疑問をないまぜにしながらも物語は進み、少しずつ社会と結びつきつつある彼は再び結婚する。そして迎える衝撃のラストにあなたは茫然自失となるに違いない(こちらはドキュメンタリーではなく小説です)。
⑦冬の鷹
ここで問題。医学書『ターヘル・アナトミア』を訳した人物とは?
杉田玄白と答えた人、半分正解です。
前野良沢と答えた人、正解!
前野? 知らないと答えた人もこの本を読めば、「彼がなぜ『解体新書』執筆陣として有名ではないか」が分かります。
前野は医者であるがひょんなことから手にした外国の書物を見て興味をそそられる。そんな折に手に入れたこの『ターヘル・アナトミア』なる本。腑分けされた人体が書かれている。言葉はさっぱり分からないが、同じ人間なのだから勉強すれば訳せるのではないか。その前野の思い込みが物語を始動させます。
当時の日本は鎖国中であり、オランダ語の辞書もなければ研究者もいない。そもそも外国語の勉強は大罪なのではないか? という恐れのもと、杉田ら協力者とともに翻訳作業を始める前野。
しかし、次第にそれぞれの思惑は関係性を変化させていき…。
あなたはどの登場人物に感情移入しながら読み進めるでしょうか?
⑧間宮林蔵
誰もが知っている、そして誰もが知らない。
間宮林蔵は海峡にその名を残したことで現代に生きる我々にもおなじみの江戸時代の人物。彼が探索した樺太は当時謎に満ちた大地で、そもそも島なのか大陸なのかすら定かではなかった。彼は鎖国体制下に国境を破る意味を十分に理解して、探検を続ける。すなわち自分の命より謎の解明を優先したのだ。その間宮の半生を描ききった作品です!
⑨ポーツマスの旗
外相・小村寿太郎。日露戦争後に開かれたポーツマス会議日本側全権委任としてあまりに有名。あの時、小村は何を考え、条約の締結に臨んだか。歴史の裏側に隠された一面を吉村昭の静かな筆致で彩る本作。これも必読です!
⑩街のはなし
著書が幾つか残したエッセイ集の一つ。様々な資料を元に重厚な作品を仕上げる吉村氏であるがこのような軽く短い作品でも読み応えがあり、力量が伺えます。日常の小さなきらめき一つから、著者の思考を垣間見れるのです。他にも『ひとり旅』、『わたしの普段着』など、おやつ感覚でサクサク読み進められるエッセイ集があります。
以上、非常に簡単ですが吉村昭お勧め作品をまとめてみました。もちろんこちらに挙げた他にも、三毛別羆事件を描いた『羆嵐』はマストですし、世界大戦物、歴史物、純文学、エッセイ、事件・事故物などあらゆる種類の作品が遺されています!