シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

10年目の夫婦が乗り越えること/「アイズワイドシャット」解説&感想  

アイズ ワイド シャット (字幕版)

 アイズワイドシャットは、かの巨匠スタンリー・キューブリック監督の遺作となる作品です。

トム・クルーズニコール・キッドマンという二人の名優が共演し、当時、実際に二人が夫婦だったということもあって、実に生々しく、心に食い込む映画になっています。


見終えたあとに、なんだかすっきりしないな、という気持ちを解消すべく、ネタバレありで解説していきますので、興味のある方は是非ご覧いただければと思います。

 

スポンザードリンク

?

 

表面だけみてみると

 


トム・クルーズは、医者をやっています。もちろん、イケメンで話も上手で、女の人にもモテモテです。


この映画の表面だけみてみると、モテモテなトム・クルーズ演じるビルが、色々な女の人に誘惑されるものの、寸前のところで思いとどまって、妻にそのことを話したら、「ファック」と言われて終わってしまう映画です。


なぜか、R-18指定を受けているため、若い人たちが見る場合は、一応気にしたほうがいいとは思いますが、ただ、エロとかそういうものは、それほど強くはありません。

この映画は、男の欲望を描きつつ、その結婚した男の情けなさもまた描いている作品でもあるのです。


色々な見方ができる映画こそがいい映画ですが、「アイズ・ワイド・シャット」は、その見方そのものを楽しむこともさることながら、やはり、キューブリックが最後に何がいいたかったのかが、なんとなくわかることで、より面白さが倍増する映画になっています。

題名の意味はなに?


アイズ・ワイド・シャットは、タイトルからして夫婦についての物語であることが示唆されています。


アイズ・ワイド・シャットとは、直訳すると「目を大きく閉じて」と矛盾することを言っています。

目(アイズ)を、大きく(ワイド)、閉じて(シャット)というのは、意味がさっぱりわかりません。

ですが、映画評論家の町山智浩氏が指摘するとおり、結婚式のときの名文句として言われている言葉をもじったものだそうです。


Keep your eyes wide open before marriage, and half shut afterwards


これは、物理学者でもあるベンジャミン・フランクリンの名言でもあるそうです。

どういう意味かと言いますと、「結婚する前は大きく目を開き続けなさい。しかし、その後(結婚後)は、半分目を閉じなさい」

改めて書くまでもありませんが、結婚する前はよく相手のことを見て、結婚したあとは目を半分閉じるつもりで、文句を言ったらいけません、という夫婦円満の秘訣を語っているのです。


その言葉の中の、eyes wide と、shutを取り出したこのタイトルによって、この映画そのもののテーマが語られています。

 

倦怠期の夫婦


この映画は冒頭から秀逸です。

パーティに行く準備をしているトム・クルーズと、ニコールキッドマン。

トム・クルーズがサイフを探していますが「ベッドサイドじゃないの」とニコール・キッドマンはすぐに伝えます。

続いて、パンツを下げた状態で便座に座っているニコール・キッドマン

彼女が「わたし、どう?」と言うのに対して、その姿を見ることもなく、トム・クルーズは「完璧だよ。グレイトだ」と言うのです。


二人は、たしかに着飾っていますが、お互いを男女として見ていない状態が、冒頭2分でわかってしまう秀逸な場面です。


そんな夫婦が、セレブのパーティに呼ばれることで、歯車が狂ってしまうというのが、この物語の冒頭です。

 

夢小説・闇への逃走 他一篇 (岩波文庫)

夢小説・闇への逃走 他一篇 (岩波文庫)

 

 

男であり、女である。

 

トム・クルーズは背は小さいですが、医者であり、イケメンです。

パーティ会場でも、若い女の子二人にちやほやされています。

それを横目で見ながら、ニコール・キッドマン演じる妻は、ロマンスグレーな髪の紳士にエスコートされてダンスを踊ってしまうのです。


旦那からは、すっかり女性として見られなくなってきているがゆえに、酔った振りをしてダンスをしますが、相手の男がぐいぐいとアプローチしてくるので、

「アリス、君にまた会いたい」と言う紳士に対して、

「無理よ。私、人妻ですもの」と断ります。

 

一方で、旦那であるトム・クルーズは、若い女性と消えたまましばらく戻ってきませんでした。

どういう事情かは映画をみていただければいいと思いますが、この小さな亀裂がやがて、夫婦の危機へと発展するのです。

 

 

そして夢を見る。

なぜか、夫婦そろってマリファナを吸いだします。


この映画のキモはまさにこのシーンにあるといっても過言ではありません。


ニコール・キッドマンは問いただします。

「あの二人の女の子たちと、ファックした? あの二人の女の子よ。口説いていたでしょ」

「何? 何を言っている。僕は誰も口説いていないよ」


トム・クルーズ演じるビルは、妻に子犬のようにすりよります。

ビルは妻のことを心底愛していますし、そこになんらの疑問も持っていないのです。


妻は、そこで開けてはならない話題を取り出してしまうのです。


「あなた、あの女の子たちとしたかったのね。男はそういう風にしかみていないのね」

「僕は例外だ。君を愛しているし、夫婦だし、決して嘘はつかない」

「あなたは、私のせいで、そういうことをしないのね。本当はしたいんでしょ」

妻はそうやって、絶対証明することのできない話題を突きつけてくるのです。

ビルは、必死に弁明しますが、妻であるアリスはそれを受け入れません。


そして、家族で旅行したときのホテルの話を始めるのです。

 

夫婦でもわからないこと

 

妻アリスは、ホテルのロビーで見かけた海軍士官の男だったら抱かれてもいいと思ったわ、と告白するのです。


その日の夜は眠れなかった、とも。


もちろん、夫婦の誓いを裏切るようなことはなかったにせよ、旦那であるビルに対して、決定的な猜疑心を受け付けてしまうのです。


それまで、ビルは妻が浮気をするかもしれない、なんていうことはただの一度も考えたことがなかったのです。

そして、自分もまた浮気をするなんて一度も考えたことがなかったのです。

そのビルに、一点の疑念が生まれたことで、彼はドツボにはまっていき、夜の街を徘徊するかのように、夢のような世界に引きずり込まれていくのです。

 

誘惑されるビル

 

夜の町にでたトム・クルーズは次々と女性に誘われます。


患者の娘に告白されたり、娼婦に誘われて家まで着いていったり、貸衣装屋の娘に誘われるような目でみられたり、トム・クルーズの心が弱ければ、すぐにでも転落してしまいそうな境遇に見舞われるのです。


しかし、いずれも邪魔が入ります。


ですが、友人のピアニストが演奏をしている秘密のパーティーの存在を知って、トム・クルーズはついつい行ってしまうのです。


そこは、マスクをつけた全裸の女性たちがいる仮面舞踏会になっていました。

トムは誘惑されますが、ある女性から「ここはあなたがいるべき場所じゃないわ。帰りなさい」と言われてしまいます。

 

 結局、ばれて追放されてしまうのですが、彼は踏み外そうとする直前で、やっぱり、踏み外せずに終わるのです。

浮気のようなことをしても、真面目すぎてうまくできない男の不器用さがみてとれる場面でもあります。

また、その途中で、何度も何度も、トムは海軍士官に妻が手篭めにされている想像します。

ここがポイントで、彼は妻の不貞なんて一度も疑ったことがなかったために、嫉妬と共に、自分自身の倫理感が崩れていくような感覚に襲われているのです。

 

浮気の代償

 

パーティーから追放されたトムは、前日の誘われた女性たちに会いにいきます。


ですが、その結果はいずれも悲惨なものです。

娼婦の女性はHIVに感染していたり、貸衣装屋の娘は、美人局をしてお金をとっていたようであることがわかったり、自分のことをパーティで助けた女性は、謎の死を遂げてしまったり。


自分が関わってしまっていたかもしれない女性が、次々と不幸になっていく中で、トムは、妻にすべてを話します。


映画の結果から考えるに、悪いことをすれば、それ相応の罰が待っているから、やるな、と言っているのです。

トムはもともと愛妻家で、患者相手に邪な気持ちを起こすなんて考えたこともない真面目な男です。

でも、真面目な男が、妻の一言で倫理観がおかしくなってしまい、その気の迷いそのものが映画として描かれているのが面白いところです。


話を聞いた妻アリスは「危険な冒険だったけれど、私達はなんとか無事にやり過ごすことができたのよ」

夫婦の危機というのは、男の側にも女の側にもおきるのです。

 

アリスは言います。
「私にとってすれば、一晩のできごとでも、一生のことでも、夢であっとしても、それが真実かどうかなんてわからないわ」


この言葉の真意については、トムが、パーティに招いてくれた富豪の男と長々と会話するところでわかります。

トムは、秘密パーティにでたことで女性を死なせてしまったと後悔するのです。
その後悔のために、トムは余計なことを調べようとするのですが、富豪は「それは違う」と言います。

「こう思ったらどうだろうか。すべては、嘘だった。と」

彼女が死んだのは、君のせいではなく、彼女は勝手に死んだのだ。
過程を考えるな、といっているのです。

これは夫婦円満の秘訣を暗に伝えています。

この映画ではもちろんアリスは不倫も何もしていませんが、その可能性があるというだけでトム・クルーズは動揺してしまいます。

でも、確たる証拠がなければ、それの過程を考えてもしょうがない、と言っているのです。

 

それは、違うだろ、と映画をみていない方は思うかもしれませんが、そんなかたこそ是非「アイズ・ワイド・シャット」をみていただければと思います。

 

お互いの秘密がなかった夫婦の彼らが、秘密をもつことの大事さと、夫婦円満の秘訣を示してくれるのです。

最後にアリスは言います。


「わたしたち、大事なことをすぐにしなきゃ駄目」

「何を?」

 

この次の言葉こそが、巨匠スタンリー・キューブリック監督が遺作となった作品の最後の言葉となるのです。

 

さて、総括として言いますと、実はこの夫婦は結婚10年目になろうかという二人です。

子供もそろそろ大きくなってきて、お互い愛しているものの、男女として見れなくなってきているという二人。

その夫婦が、どういう風にして、危険な冒険を乗り越えていくか、という身近でありながら、非常に深い物語が語られておりますので、是非、めくるめくキューブリックワールドに浸ってみてください。

 

以上、「10年目の夫婦が乗り越えること/「アイズ ワイド シャット」解説&感想」でした!

 

 トム・クルーズが主演の映画で、当ブログで紹介しているのは以下となります。

 

cinematoblog.hatenablog.com

 

スポンサードリンク