偏見を捨てるなら今!感想&考察 ズートピア
ディズニー映画といえば、やはり「アナと雪の女王」の超ミラクル大ヒットの印象がいまだにありますが、4月より公開されている「ズートピア」について、その見所や、脚本の出来の素晴らしさを踏まえた上で、考えてみたいと思います。
この物語は一見してみるとわかりますが、誰しももってしまう偏見や世間の圧力、夢をもって進むということがいかに大事かということが詰まった作品ですので、どんな人でも安心して、少し興奮してみることができる傑作です。
ズートピアとは
題名である「ズートピア(ZOOTOPIA)」は、動物園を意味するZOOと、理想郷を意味するユートピアをあわせた造語です。
この作品では、動物たちが独自に進化を遂げて、肉食動物も草食動物も、種族を超えて生活する超文明都市であるズートピアで生活しています。
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そして、ズートピアの主人公であるウサギのジュディ・ホップスとキツネのニック・ワイルドの成長の物語でもあるのです。
物語の前半では、小さいころの主人公が演劇を行っているところからはじまります。
そこでは、動物達が進化し、手と手をとりあって理想的な社会をつくりあげたということがわかりやすく描かれます。
この寸劇も、伏線になっています。
ディズニー映画のみならず、子供向け映画では、必ず夢は諦めてはいけないと教えてくるのが当たり前です。
ですが、主人公であるウサギのジュディ・ホップスは、将来の夢を警察官になることだと言ったとき、彼女の両親は
「ジュディ。成功するためにはね、夢をあきらめることだよ」
と言います。
開始して10分もしないで、両親は夢を諦めることこそが幸せだというのです。
ウサギである彼らは、にんじんをつくって生きることがもっとも幸せだと考えていて、ソレに対して疑問をもっていないのです。
理由はわかりませんが、ジュディは「世界をよりよくするため、警察官になる」という夢をもち、
「今まで、ウサギで警察官になったものはいないんだ」
と現実を言われても、
「それなら、私がはじめてのウサギの警察官ね」
と前向きです。
その一言だけで、彼女は、どのような性格で、へこたれない前向きなウサギであることがわかるのです。
よくも悪くもジュディの両親は田舎の人間で、前例のないことや、危ないことはやって欲しくないのです。
それが、娘のためだと思っています。
ディズニー映画によくありがちな、ただ意地悪な両親とかではありません。
娘の心配をして、自分の経験のもと、彼女を田舎にとどまって欲しいと願うのです。
ですが、彼女の夢は、警察官。
あきらめるなんてことは、考えることもしません。
ここは「アメリカ」
「ここは、何をしてもいい。誰でも夢をかなえられる町」
それこそがズートピアです。
アメリカもまさにその考えを体言している国だったりします。
ヨーロッパなどの支配から離れて、出自や貧富の差に関係なく、アメリカン・ドリームを目指して、夢を追いかけることができる。
ズートピアとは、かつてのアメリカを体言している世界といえるのです。
「この子は、象にあこがれていて、将来は象になりたいっていうんだ」
そんな台詞がでてきます。
キツネの子供がそんなことを言うのですが、不思議と誰も笑ったりはしません。
観客の我々からすれば、それは笑うところと思うのですが、劇中で、差別的なことはすごく多くでてきますが、ズートピアの理念に対して笑うようなことは、誰一人行わないというのが、物語で一貫して守られたことでもあります。
主人公のジュディは、初のウサギの警察官ということで、バカにされます。
ニックを助けるときも、脅すときも、彼女はバカにされますが、彼女は何かをつかって立ち向かいます。
物語の冒頭で、警察学校で訓練するシーンがありますが、はじめは自分の力だけでジュディは訓練を乗り越えようとします。
「畑!死んだな」「にんじん! 死んだ」
と、罵倒されます。
でも、わずかなダイジェストの中で、彼女は、自分の身体的な能力を利用して、時に他人を利用しながら(誰かの背中に上ったり。でも、他人を蹴落とすという意味ではありません)、自分の夢に向かって進むのです。
アメリカ、いや、ズートピアという理想の国では、偏見や差別はありますが、ズートピアが決めた法律や理念を利用することで、小さな草食動物でも、肉食動物や大動物たちと渡り合うことができる。
現実の世界においても、腕力に対して、腕力に勝とうとしても難しいですが、知識やルールをつかうことで、腕力のない人間でも、不正や悪と闘っていくことができる。
そういうものを、ズートピアの中でもっともわかりやすく行っているのが、ジュディ・ホップス巡査なのです。
偏見と闘うバディムービー
ジュディはキツネのニックと相棒になります。
さて、映画をみているとすぐに気づくのですが、この映画の人々は偏見と差別に満ち溢れています。
キツネはずるがしこい。
ウサギはどじ。
肉食動物は危険で。草食動物はやさしい。
象は記憶力がいい。ナマケモノは遅い。
キツネであるニックは、とある理由で挫折を経験します。
なんにでもなれるズートピアですが、その動物たちの理想郷の中では、強烈な偏見があって「ずるがしこいキツネなんて、信用できるわけがないだろ」といって、酷い目にあったりします。
ズートピアは、あらゆる動物がいるために、その動物に対してのイメージというのがあって、そのイメージによって、世間が動いているのです。
ニックは、その世間の差別や偏見に打ち勝つことができず、それなら「キツネはキツネらしく」生きていこうとして、詐欺師をやっているキツネなのです。
世間が思っている通りに生きる。
これもまた生き方の一つですが、理想に燃えるジュディと、一度は現実に敗れたニックが、結果としてコンビを組むことで、再び夢をもつの大事さにに気づいていくというのが、非常に素晴らしい脚本になっています。
また、ニックは幼いころから都会で暮らして、すっかりスレてしまったキツネです。いわゆる、都会暮らしが長いこともあって世間慣れしています。
それに対して、ジュディはバニー・バロウズという田舎町で、275匹の兄弟とにんじんを売って暮らしていた田舎娘。
その田舎娘が、ズートピアにいくという感動は、はじめてズートピアを見る我々観客とリンクされて、非常に印象的です。
そんな田舎娘であるジュディが、都会で生きるニックと出会うことで、田舎のよさと都会の生き方を学ぶという点も、見所です。
真面目だったウサギが、キツネのずるがしこさを学び、キツネが、ウサギの良さを学ぶ。
本来は、捕食する側と、捕食される側だったはずの二人が、ズートピアという場所を通じて、分かり合っていくというのが一つのテーマといえるでしょう。
特に、にんじんのペンが二人の間を行きかう中で、重要性を増していくというのも面白いです。
仕事の映画
この映画は、様々な視点で考えることができる点も面白いです。
二人の成長もそうですが、何より、「モンスターズ・ユニバーシティ」など、過去の作品からも受け継がれている「仕事というものをどう面白くしていくのか」というヒントが詰まったものだからです。
モンスターズ・ユニバーシティは、子供達を怖がらせることでお化け達が生活している世界で、怖がらせ屋になるために主人公たちが頑張る物語です。
モンスターズ・インクの続編となりますが、特にユニバーシティにおいては、仕事というものや、学校での生活というものに対して、どのようにして考えていくべきか、ということが示されています。
詳細は省きますが、主人公であるマイク・ワゾウスキは、怖がらせ屋になるため学校に入りますが、可愛い見た目のために怖がらせることに向いていないと思われてしまいます。
結果として、自分のおもったようなルートに進むことができなくなりますが、彼は、モンスターズ・インクに入社し、郵便配達という、誰もが嫌がる仕事からはじめて、最終的に自分のなりたかった仕事につくことができます。
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仕事というのは、どんなところにいても楽しめるし、自分の夢を諦めなければ、実現することができる。
このテーマがより洗練されているのが、本作品「ズートピア」ではないでしょうか。
ジュディ・ホップス巡査は、ウサギの警察官ということで冷遇されます。
「お前の仕事は、交通取り締まりだ」
車の違反などを見張れということになってしまいます。
警察官になったというのに、不満なジュディは、署長にくってかかります。
「私、警察学校では優秀だったんですよ」
「それなら、100件の違反を取り締まれ。優秀なんだろ」
と、普通であればそこで腐ってしまうところですが、彼女はそこからが違います。
「それなら、200件取り締まってやるわ。午前中までにね」
そういって、一気に自分の中の目標を達成してしまうのです。
監督も言っていますが、ジュディ・ホップスは、ディズニー映画の伝統的なキャラクターを継承しています。
強く、明るく、元気な、賢い女性。
伝統をきっちり受け継ぎながら、それを現代的な、それでいてファンタジックな物語にしているというのが面白いところです。
ディズニー映画が、ピクサー時代からの流れと、過去から続くディズニーの伝統を見事にあわせているところも見所といえるでしょう。
映画の引用
わき道に逸れますが、「ズートピア」は、過去の映画やドラマの引用も、ところどころみてとることができます。
特に、物語の重要な部分に関わってくるにも関わらず、きっちりパロディになっている映画があります。
それは、フランシス・フォード・コッポラ監督の代表作の一つ、「ゴッド・ファーザー」です。
ゴッド・ファーザーもまたアメリカという自由の国という点が非常に重要な映画となっています。
イタリアからの移民として流れ着いてきた男(ヴィト・コルレオーネ)が、イタリア・マフィアを作り、その中でアメリカの裏社会を動かしていく親子の悲劇を描いた物語です。
そこでは、アメリカが自由の国であり、アメリカ人になろうとしているアル・パチーノ演じるマイケル・コルレオーネ。
そして、その父親であるマーロン・ブランド演じるドン・ヴィト・コルレオーネの物語となっております。
何にでもなれるズートピアと、自由の国アメリカで揺れるマフィア達を重ねてみることで、よりズートピアという国が、かつてのアメリカ的な場所だということを強調するという意図が伝わってきます。
ズートピアで出てくる、小さなネズミの「ミスター・ビック」は、口の中にティッシュでも詰まったかのような掠れた喋りかたといい、室内の雰囲気といい、完全に、ゴッド・ファーザーをパロディにしています。
「今日は娘の結婚式なんだがな」
と言っているのは、まさにゴッド・ファーザーの冒頭のシーンそのままです。
その娘であるネズミの髪型は、「ヘアスプレー」という映画の主人公の髪型とまったく同じです。
この映画も、アメリカという国の中で、オデブちゃんな主人公であっても、努力することで認められるアメリカという国を体言したキャラクターだからではないでしょうか。
この映画の時代では、白人ではなく、黒人も文化的に認められてきたという点がポイントです。
ドラマに関しては、単なる遊びでしょうが、ブレイキング・バッドとしか思えない薬の精製シーンがあったりして、ブレイキング・バッド人気がディズニーでもあるのだな、と思って楽しくなる場面ですね。
麻薬を精製するならブレイキング・バッドというアイコンになっているのではないかとも思えるシーンです。
偏見と闘う。
この物語は、脚本が抜群にうまくできています。
物語の核心については、映画をみていただきたいと思いますが、ジュディの両親ははじめ、たんなる田舎の人です。
偏見に満ちていて、ズートピアにジュディを送り出す際には「キツネに気をつけろ。キツネは危ない。都会は危ない」
とする人たちでしたが、ジュディが活躍することで、両親は心変わりをしていることが後半わかります。
「キツネと一緒に商売をやっているんだ。ジュディの話を聞いていたら、キツネも悪くないと思ってね」
ジュディは自分が行動することで、他人を不幸にしていると思ってしまいます。
ですが、そのどん底の中で、両親がそのようなことを言うのです。
ジュディは、他人からの圧力に屈したりはしません。
ですが、自分が動いたことで他人を傷つけたりすることに対しては、非常に弱いのです。
また、この物語は後半、偏見や差別をつかって、他人を不幸にしようとするものがでてきます。
本当に悪い奴とはどんなやつなのか。
ズートピアという理想と思われる町の中にある偏見。
その中でも、どうすれば幸せに生きていくことができるのか。
まわりの圧力に負けないで、どうしていけばよりよく過ごしていくことができるかわかる素晴らしい映画に仕上がっています。
ディズニー映画なんだから、子供向けでしょ、と思う人もいるかもしれませんが、これは「誰でも、何にでもなれる」世界の物語です。
どんな人間でも、その偏見を捨てることができるということもまたテーマになっている作品です。
CGによる、動物達の毛の質感なども、抜群にレベルがあがっていて、すべての動物達が可愛らしく、躍動感溢れる動きをしていますので、物語も素晴らしさもそうですが、映像を見るというだけでも、満足感を得ることができますので、気になる方はご覧になってみてはいかがでしょうか。
以上、「偏見を捨てるなら今!感想&考察 ズートピア」でした!
偏見を扱った映画は、以下のものも当ブログで扱っています。