王国の未来は? 砂田麻美『夢と狂気の王国』
ニャロ目でございます。
今夜は『もののけ姫』や『となりのトトロ』でおなじみ、スタジオジブリを砂田麻美監督が取材し作り上げたドキュメンタリー作品『夢と狂気の王国』(2013年、118分)を取り上げたいと思います。
邦画史に残るアニメ作品を連発する巨匠・宮崎駿やプロデューサーである鈴木敏夫らに迫ったこの作品。『風立ちぬ』や『かぐや姫の物語』制作当時のスタジオジブリの現場の様子がわかる、貴重な映画となっています。
宮崎国王
スタジオジブリや宮崎駿監督に関しては近年幾つものドキュメンタリーがテレビ放送されています(自分もたまに観ます)。
今作は主に宮崎駿監督をメインに据え、2012年秋から映画『風たちぬ』の完成、引退会見の後までを丁寧に追っています。
宮崎監督は基本的にインタビューには丁寧に答える、サービス精神に溢れた人だと自分は思うのですが、今回の映画の中でも気さくにインタビュアーや周りに話しかけています。
「生き物」である映画を作るのは非常にきつい作業であることを常に口にする宮崎監督。
震災や改憲など日本社会に新たに噴出している問題を身近に感じつつ、おのれの相反する感情と向かい合い、真摯に戦う姿が胸をうちます。
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見どころとして、『風立ちぬ』の主人公役の候補に庵野秀明監督(『新世紀エヴァンゲリオン』、『ふしぎの海のナディア』)を挙げる部分がよかったです。
パッと思いついたのか、庵野監督の名前を出す宮崎監督。その名前を何度も口に出すことで次第に乗り気になってくるのが伝わります。
とまどいながらも声優として参加する庵野監督の様子から、これまでの宮崎監督との関係性を振り返るパートになるのも、映画のつながりとしてよかったです。
また、映画の中では『風立ちぬ』のラストのセリフの変更について、監督自身、演者である庵野秀明、ジブリプロデューサーの鈴木敏夫の意見がチラっと語られる部分も見どころです。
映像としては、映画制作の様子に迫った作品ですので基本的に室内の映像が続きますが、たまに息継ぎ/息抜きのようなタイミングで外のショットが挟み込まれます。
何度か登場するスタジオジブリの屋上も伏線として機能しています(次の項で触れます)。
引退会見の直前、ビルから町を見下ろしながら、「あの屋根から屋根へ飛べたりしたら…」「空から町全体を眺めることができたら」という宮崎映画が延々と描いてきた「空中・浮遊感・躍動感」についてのコメントもグっときますし、見事にその志を映画の中で表現していたんだなと感心しました。
もう一人の国王
今作で残念なのは高畑監督がほぼでてこなかったこと。
自身の引退作といわれている『かぐや姫の物語』制作中のインタビューがあれば大変貴重なものになったのではないかと思います。
ただ、姿としてはほとんどでてこなかったのですが、周囲の人物へのインタビューで制作当時の高畑監督の様子が語られます。そこでも、非常にとらえどころのない人物として言及されています。
映画のラスト近く、宮崎、高畑、鈴木の3人がスタジオジブリの屋上で集うという何だかすごい場面があります(これが映像的には伏線回収ですね)。
ブルーレイのパッケージにも3人がにこやかに並んでいる様子が写ってますが、「これはまさに夢と狂気の王国だな」という凄みを感じさせますね。
王国の未来は?
今後は、よくも悪くも作家性に大きくよりかかったアニメ作品はもう作られないかもしれません(もちろん、野心に満ちた若い監督にどんどんでてきてもらいたいです)。
今作は映画として編集も凝った力作です。テレビのドキュメンタリーと比べるとより編集にエンタメ性がありますし、宮崎監督の引退作(ということになっている)『風立ちぬ』制作とその周囲をめぐる貴重な映像資料となっています。
「夢」と「狂気」の王国とは、もちろんスタジオジブリをあらわしているのですが、「美しく呪われた夢」や「くだらないものに囲まれ」ながらも毎日を繰り返さなければならない、この国そのものも意味していると思います。
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