生徒会選挙と生き様を描く「ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ」
「ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ」タイトルを見ただけで、大半の人は見なかったことにして、通りすぎることでしょう。
これは、悪い邦題の典型ですね。
邦題があまりに酷すぎる映画で有名なものは「バス男」でしょうか。
主人公がバス通学しているというだけで、バス自体は物語と一切関係ありません。
「バス男」は、汚い言葉を決して使わない映画としても有名で、笑わせてくれ、ちゃんと泣かせてもくれる映画ですので、レンタルビデオ屋でみつけたら、是非手にとって欲しいところです。
ちなみに、バス男は、後に原題と同じ「ナポレオン・ダイナマイト」に改題されて出しなおされています。
他にも、「小悪魔はなぜモテる」*1
など、頭をひねりたくなるような邦題は世の中に溢れているわけですが、タイトルと違って、中身がいいものが沢山ありますので、やばそうな邦題ほど手にとって見ていただきたいと思います。
っということで、今回も、またもやアレクサンダー・ペイン監督作品「ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ」を紹介します。
原題と邦題
邦題ではまったく意味がわからないと思います。
原題は「Election」
英語で選挙を意味します。
アメリカの映画で、学園を舞台にした映画というのは数多くありますが、生徒会長を決める選挙をメインにもってきた作品は、この作品ぐらいでしょう。
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生徒会長に立候補しようとする女の子、トレイシー。
彼女は、片親ながら、自己啓発の塊のような子で、生徒会長になって、どんどんえらくなってやるといきまいている。アメリカの象徴のような女の子です。
それに対して、主人公は、生徒会顧問を受け持ったりしつつ、ベストティーチャーに選ばれるなど、頑張っている先生なのですが、親友であり同僚でもあった男が、トレイシーと関係をもってしまって辞めさせられたこともあり、トレイシーを生徒会長にしたくないと思っています。
奥さんもいますが、子供はなく、今の生活にそこそこ満足している。いわゆる小市民的な存在です。
でも、その先生のちょっとした恐怖感や嫌悪感が、生徒会長の選挙を軸にしつつ、主人公や周りの人間達の人生を変えていくことになる、といったのが物語りのざっくりした内容です。
4名のナレーション
メインとなるキャラクターは、4人います。
一人は、主人公である先生。
二人目は、生徒会長になろうとするトレイシー。
三人目は、主人公が生徒会長の対抗馬として出す、スポーツ青年ポール。
そして、四人目は、その妹です。妹は、好きだった女の子をとられた腹いせに生徒会長に立候補してしまいます。
アレクサンダー・ペイン監督の2作品目にあたるのが本作品ということもあって、以前紹介した作品に比べると、洗練されていないところも見受けられますが、基本的には、キャラクターたちのナレーションを多様しつつ、軽快なカット割りと、長回しをうまくつかって飽きさせません。
細かいところは、ナレーションでぱっぱと終わらせていきます。
主人公がどんな人間か、トレイシーがどんな気持ちで生徒会長にでているのか、ポールは、その妹は。
こういうことをナレーションじゃなくて、映像で表現するのが映画だろう、という人もいると思いますが、物語の重要部分と関係なく、且つぱっぱと終わらせるためには、こういう手法はありだと思っています。
特に、物語序盤でトレイシーのことを、主人公が紹介する場面があるのですが、ビデオを途中で止めたように一時停止されます。
どんな美人の女優さんでも、ぶさいくに見える瞬間というのがあります。集合写真を撮ったときに、目が半開きになってしまって、残念な思いになった人は少なからずいることでしょう。
その、一番微妙な顔の状態で映像を止めて、主人公がトレイシーを紹介。
しかも、それが何度も繰り返されるなど、くすりと笑ってしまう映像は、アレクサンダー・ペインならではといったところ。
ことわざ
あと、日本が好きなアレクサンダー・ペインだからなのかわかりませんが、悪いことにさらに悪いことが重なる「泣きっ面に蜂」。
主人公が見事にその状態になります。
これが、泣きっ面に蜂か。
小ネタは随所にみられるので、それを見るのも面白いかもしれません。
あと、やっぱり、アレクサンダー・ペイン監督といえば、ネブラスカ州を舞台にするというもので、今回の舞台もネブラスカ州になっています。
何もないということで有名なネブラスカ。そんな場所を舞台に、こんな生徒会長選挙が行われていると思うと、感慨も一押しかもしれません。
物語といえば
選挙がメインと書きましたが、これは、選挙の話ではなく、人間の行いがどういう風に自分にかえってくるか、あるいは、何が幸福で、不幸なのかを考えさせる内容にもなっています。
ことわざでいうところの「禍福は糾える縄の如し」「人間万事塞翁が馬」といったところでしょうか。
登場人物たちは、結構、自分勝手なこともやっていて、それがうまくいく人もいれば、悪い方向にいく人もいる。
物語の最初で、主人公はゴミを捨てているのですが、こんなちょっとしたこともまた、誰かの悪意の対象になったりするっていうので、恐ろしいものです。
正直、この物語において、過剰に誰かに感情移入できるといったものではありません。
ただ、誰もが、こういう道を踏み外してしまうようなこともおきるかもしれないというのを、面白く描いている。
やはり、後の「アバウト・シュミット」や「ファミリー・ツリー」、「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」といったある程度年齢がいってしまった人たちが、人生を振り返る物語にこそ面白さを見出してしまうのですが、この作品もまた、アレクサンダー・ペイン監督の一面を見ることができる作品になっています。
最後に主人公は、トレイシーを見て、あの子は今日も朝5時に起きているのだろうか、とか考えて、急に腹が立って、ミルクか何かが入ったカップをぶん投げます。
自分は満足だけれど、あの子はまだそこにいるのか。
踏み外さないことはいいことかもしれないけれど、踏み外す人の人生もそう悪くない。そんな気持ちになれる映画です。
以上、「ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ」でした。
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