シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

ヒラリー・スワンクの空手なる瞬間「ベスト・キッド4」感想

ベスト・キッド4 (字幕版)

 

「ベストキッド」シリーズといえば、ひ弱な少年ダニエルが、謎の東洋人ミスター・ミヤギに空手を教えられることで、空手大会に優勝し、ミヤギとの友情も深めていく、という感動的な物語となっています。

2~3については、当ブログの別記事で紹介しておりますが、いずれにしても、シリーズを通してダニエルさんと、ミヤギとの友情が描かれる点については変わりのない設定となっております。

しかし、「ベストキッド4」からは、主人公はのちにアカデミー賞主演女優賞を受賞する、ヒラリー・スワンクが主演を務めます。

シリーズの1~3に比べると、見ている人が圧倒的に少ない本作品について、見どころと、感想を書いていきたいと思います。 

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主人公はジュリーさん


ヒラリー・スワンク演じるジュリーは、カリフォルニア州の高校に通っている学生です。

しかし、両親を事故で亡くし、育ててもらってる祖母との折り合いがつかず、お互いいがみ合っている状態になっていました。

第二次世界大戦時における名誉軍人の受賞式の流れで、その事情を知ったミヤギは、自分が、女子高生であるジュリーと一緒に住み、代わりに、彼女の祖母であるピアース夫人には、自分の家に住んで、しばらく二人の距離を離れたどうかと提案します。

 

もう、この時点で設定的にどうかしていると思いますが、このあたりはぐっと飲みこんでください。

ベストキッドを見続けている人であれば、薄々気づいているかと思いますが、2以降のベストキッドについては、かなり物語としては突飛な部分があり、それを楽しむこともまた映画というもののいいところでもあるのです。

 

ようするに、「ベストキッド4」は、ヤバイ男にモテモテで、野生のタカをなぜか学校の屋上でこっそり育てている、両親が亡くなっているため気難しくなっている女子高生が、謎の空手らしきものを使うおじいさんと一緒に暮らしながら、成長していく物語、となっています。

基本的な構造自体は、ベストキッドシリーズと同じとなっていますが、主人公が、年頃の女の子、という点で、いくつかミヤギさんが苦労することになっています。

 

男の子(ダニエル)とは違う

「ダニエルさんという男の子と暮らしていたんだけれど」


と数回言い訳みたいにして言うミヤギ。

ひょんなことから、ミヤギは女子高生であるジュリーと暮らしますが、ダニエルさんとの違いから、ラッキースケベな現象も起こしてしまいます。

ノックもしないで部屋に入ってしまい、着替えをのぞき、平謝りのミヤギ。

「ダニエルさんは、部屋に鍵もつけないし」

物語の前半はそんな感じで、仲良くしようとするあまりに大失敗をしてしまうミヤギ。

シリーズを通してみていないと、ミヤギが単に変態なのかどうなのかの検討がつかないところですが、ミヤギさんは、ジュリーさんの心が開くのを待ちます。


ちなみに、シリーズを見ている人をあえて肩すかしさせるシーンなども面白いです。

ジュリーさんは夜に大音量で音楽をかけます。

本来であれば、夜には静かにしなさい、と注意したくなるところですが、色々と関係が悪くなっているミヤギは、耳栓で耳をふさぎ、家からこっそりいなくなるジュリーさんに気づけません。

その間に、アルファ・エリートを名乗るヤバイ一団に襲われそうになるのですが、やっぱり、ミヤギは助けにはきません。

いつミヤギが助けにくるのか、と思っていると最後まで助けに来ない、というのはシリーズに対する意趣返しなのかもしれません。

空手の修行

実はジュリーさんは、父親に空手を習っていたことがわかります。


男たちに襲われそうになったこと、ミヤギが空手をしていることを知ったジュリーさんは、空手を教えてほしいと言います。

このあたりは、ミヤギはニヤニヤしつつ、取引します。

「宿題を三つやったら、空手を一つ教える」

「数学を二つにしたらにして」

そんなたわいもないやり取りをしつつ、ミヤギは、一風変わった修行をしていきます。

 

ワックスみがきも当然やらせようとしますが、近所にいる3人のわんぱく少年たちのベビー・シッターをやらせて、反射神経を養わせるところは、ファンが望んでいた修行法の一つでしょう。

物語の後半では、シリーズでお馴染みの必殺技を教えます。

枯山水が作られた庭があるのですが、そこにある巨大な石の上に立たせて、蹴りをしながら、もう一方の石に飛ばせます。

ろくに教えもしないで、それをやらせ続けるのですが、一応、それが今回の必殺技です。

 

ニュー・カタ

また、「ベストキッド4」では、主人公が女の子ということもあって、おちゃめなミヤギを見ることができます。


男の子にプロム(仮装ダンスパーティ)に誘われたジュリーさん。

彼女は、自分が男っぽいということを自覚しており、ましてや、ダンスなんて踊れないから誘われただけで満足、と話をしています。


ミヤギは、孫娘同然な感じになったジュリーさんのために、サイズもわからないのにドレスを買い、空手の稽古だと言って室内でとある動作をやらせます。

拳を左右片方ずつだしていき、相手は逆の拳を出す動きをします。

左右にうごきながら、互い違いに動いていくのですが、その動きに疑問をもつジュリーさん。

「ニュー・型」

空手といえば、型ではあるものの、まさかミヤギが新しい方を生み出したのか、と思いきや、型の動きのようにした、ダンスの練習になっていたのです。

結局、その動きは、ダンス会場ではつかわれている様子はありませんでしたが、ダンスそのものは見事にこなしていたところです。

監督は変わってもコンセプトは変わらず

ベストキッドの1~3については、ジョン・G・アヴィルドセン監督がメガホンをとっていますが、「ベストキッド4」は、クリストファー・ケイン監督となっています。

しかし、物語のコンセプトそのものはかわっていません。


ミヤギは暴力のための空手ではなく、自分自身を成長させるための空手としてジュリーさんに教えていくのです。

子供たちのベビー・シッターの時には「太陽は暖かく、芝生は青い」という言葉を教えて、怒りを鎮める方法を伝えますし、

「ねぇ、帯はくれないの?」

「店で買えばいい」

「黒帯とかあるでしょ」

というジュリーに対して、ミヤギは言います。

「自分に力があるかどうかは、自分が知っていればいい。他人に誇るものではない」


ベストキッドは、現代では「The next karate kid」となっており、タイトルにも空手がでているにもかかわらず、修行を始めたり空手が活躍したりするのは、物語のずいぶんあとになってからになります。

ただ、空手を通じて手に入れるべき精神性については、シリーズかわらずのものであり、そういった意味では、物語の整合性におかしさはあるものの、ベストキッド史上の中では、一番まとまった面白い出来になっているところは、案外に知られていないところではないでしょうか。

シリーズ1ぶっとんでいる

物語の後半になると、禅僧まででてきます。


もはや、空手ではないのですが、色々な事柄にとらわれて集中ができていないジュリーさんのために、山奥にある禅寺で修行をするシーンは、映画史上でも、まれにみるへんてこさに仕上がっています。


話は横道にそれますが、禅問答というのは面白いものです。

両手で拍手をすると音がでるが、片手で拍手をするとどんな音がでるのか、という「隻手の音」といった公案

禅宗というのは、そういった、人間の頭でとらえきれないような、頭の中身を拡張するような事柄を考えさせることがあります。

考えさせるような事柄は、映画内の日常生活の様々なところにあり、ジュリーさんもそういった概念に縛られている部分について、少しだけほぐされるような気分を味わったはずです。

お坊さんは厳しい規則に縛られているだろう、と思うところでしょうが、本作にでてくるお坊さんたちは、自由です。

「私のうちに遊びに来てよ」

という、ジュリーさんに対して

「我々は、何年も山をでていない(出てはいけない)」

といっているのに、すぐにジュリーのところに遊びに行きます。

音をだしてはいけなさそうなところで、突然、音楽にあわせてお坊さんがラインダンス風に踊りだすところなどは、たんなる奇抜な演出というよりは、禅僧におけるある種の自由さ、というよりは、概念にしばられている我々の発想そのものを超えるようなことを示してくれていると、みるべきなのです。

 

戦うなら勝て

 シリーズ通して、物語の構成はやはり同じになっています。


最後は、なぜか戦わないわけには行かなくなります。

ジュリーさんは、禅寺での修行の成果を発揮。

ミヤギさんも、相手の教官を見事に倒して終わります。

「ベストキッド」の第一作目の終わり方のやり直しのような終わり方になっている点も、ファンサービス的な面白さがあります。

 

というのも、一作目は、ダニエルさんの優勝したシーンで終わりましたが、本来は、その後に、ベストキッド2の冒頭のシーンが流れるはずだったのです。

 

つまり、弟子が敵を倒し、最後は師匠同士でも戦いが行われて、見事に師匠、弟子ともに勝利するというのがベストキッド1で行われるはずだったラストだったのです。

 

しかし、物語の区切り的にダニエルさんの優勝シーンで終わり、つかわれなかったシーンは2で使用されることになったというエピソードは比較的有名な話です。

ベストキッド4では、まさに弟子同士の戦いで勝ち、師匠同士でもかつという、流れの中で終わらせたという点についても、リメイク的な要素をもちながら、物語の総決算的に作られたのが「ベストキッド4」といえるのではないでしょうか。


実は、2と3があまりに蛇足的な物語だったのに対し、4はある意味正当な面白さを継いでいるともいえる作品なので、もし万が一、本記事を読んでいて、なおみていなかったという人がいましたら、ヒラリー・スワンクの若い時を確認するためにも、見て損のない作品となっているのでご覧いただきたいと思います。


以上、ヒラリー・スワンクの空手なる瞬間「ベスト・キッド4」感想でした!

 

 

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