シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

生き残ることができるのか。映画「生きてこそ」

生きてこそ (字幕版)


過酷な状況の中で生き抜くということを取り扱った映画というのは枚挙にいとまがありませんが、映画「生きてこそ」では、実際にあった飛行機事故に基づいて作られた過酷な現実を描いた作品となっています。

遺書を書いた人間は全員死んでしまった、というその現実。
 
運も非常に大事ではあるのですが、何よりも、なんとしてでも生きる、という意思の強さを教えてくれる映画となっていますので、併せてみてもらいたい作品含めて書いていきたいと思います。

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実際の事件

「生きてこそ」は、ステラ・マリス学園というカトリック系の学校に在籍しているラグビーチームと、その家族が乗った飛行機が、墜落するところから始まります。
1972年に実際におきた事故に基づいたものとなっており、本作品は、多少の脚色をしつつ描かれたものとなっています。
物語という点では、本作品は、72日間生き延びたということが事前にわかってしまいますので、登場人物たちが、どのようにして生きようとしたのか、に注目していただけると面白いかと思います。

イーサン・ホーク演じる主人公は、飛行機内でたばこを吸って、注意されてもまたすぐ吸ってしまうような、いけ好かないキャラクターです。ただ、本作品は、登場人物たちの成長というよりは、あまりにひどい状況の中で、人々がどんな決断をしていくのか、というほうが重要です。

生き残ることができるか。

雪山での墜落ということもあって、本作品は、トム・ハンクス演じる無人島での生活を描いた「キャスト・アウェイ」よりも、過酷な状況となっています。
雪山ですので、食料もなく、寒さによっても死んでしまい、雪崩も発生するという中、彼らは究極の決断を迫られます。

 

 

この手の映画でついつい考えてしまうのは、「自分だったら生きていられるか」といった問題です。
「自分があそこにいたら、死んでた。意味のない言葉だ。おかれなければ、自分がどう行動するかはわからない」
 
マルコヴィッチ演じるナレーターが語りますが、この手の想像については、名作「ポセイドンアドベンチャー」をみても同様の感想を抱いてしまいます。
上下がさかさまになり、沈んでいく船に取り残された神父。
他の人たちを率いて、船の底(上下さかさまになっているので、上に向かって)進んでいくのですが、様々な決断を迫られます。
あまりにひどい状況の中で、主人公は、神に試されていると感じてしまう話になっています。

また、100日以上アラスカの、中州のような場所に取り残されてしまった青年を描いた「イントゥザワイルド」も名作です。
物質的に恵まれた主人公が、身分証明書などをすべて捨ててアラスカに向かって、バスの中で生活しながら、現実の厳しさや美しさに気づく物語となっています。
 
登山家の男が127時間もの間岩の間に腕を挟まれて、無事脱出するまでを描いた「127時間」なんてのもあります。

 

cinematoblog.hatenablog.com

 


さて、そんな、数々のサバイバル系の映画がある中で、「生きてこそ」は、何が重要なのでしょうか。

宗教的問題

生きるということは、命あるものを奪うことにつながります。そういった意味では、「イントゥザワイルド」や、「キャストアウェイ」なんかも、大なり小なり命を奪うことに罪を感じたりするところですが、「生きてこそ」は、もっと究極的な決断となっています。

ご存じの方も多いと思いますので、ネタバレ覚悟で書きます。

雪山の中で食糧がない、という状況の中で、彼らは、死体を食べることを決めます。
ですが、彼らは、ステラ・マリス学園という、カトリック系の学校に在籍しており、全員が聖書をそらんじることができるような人たちです。
 
当然、人間を食べるなんてこと、できるはずもありません(もちろん、無宗教だってできることではありませんが、キリスト教圏においてそれを行うのは想像を絶する事柄でしょう)。

果たして、死者を食料として食べていいのか、といったところが一つのポイントであり、究極の状況の中で、彼らがどのような議論を交わしていくのか見どころです。

食べることを拒否した人たちは、やはり命を落とします。
様々な要因があるところではありますが、最後まで生きようとした人たちだけが生き残った、という結果が見える映画となっております。

宗教というからみも含めて倫理観の高い人たちが、いかに人を食べてでも生き延びようとしたのか。
 
ちなみに、たんなる人間ではなく、飛行機に乗っていたメンバーは、自分の友人や家族ということもあって、たんに食べられるかどうか、というところを超えて悩んだだろうことも想像できてしまうところです。
 
「二度と元には戻れない」
 
そのセリフは、人間の、友達の肉を食べることへのステイグマであることを意味するでしょうし、何よりも、大きすぎる事件に遭遇した人間は、もう元に戻ることはできない、という不可逆的な事実を述べているところでもあるかもしれません。

本作品で、必死に生きることとはどういうことかを知りたくなった方は、ぜひ、「キャストアウェイ」や「イントゥザワイルド」を見てみていただきたいと思います。

以上、生きることができるのか。映画「生きてこそ」でした!
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