シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

お子さんのいる人は見てはいけない。トラウマ映画「震える舌」

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 本日紹介する作品は、下手なホラー映画よりも数段恐ろしい映画になっています。
 
それでなくとも、最近は衛生関係に対しての意識が強くなっている昨今ですから、そんな時期に「震える舌」を見ることはオススメしません。
 
しませんが、こういう映画もあるということを知って、その結末を見届けるということもまた必要なときがあります。
 
映画は自分が体験できないことを疑似体験させてくれるツールでもありますので、その恐怖の一旦について語ってみたいと思います。

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怖い病気

子供がなると怖い病気の中で、作品として取り上げられることがあるのは「日本脳炎」でしょうか。
 
発症率は1パーセント未満と少ないものになっていますが、ひとたび発症すれば、致死率は30パーセント程度となっており、脳に障害が発生する等極めて恐ろしい病気になっています。
 
娘の体調が悪くなったとき、渡瀬恒彦演じる主人公が、「日本脳炎とかなんでしょうか」と聞いてくるというのは、一つには後遺症が恐ろしい病気というのが、当日の日本人は特にその事実を知っていたからにほかなりません。
 
震える舌」では口頭のみででてくる病気ですが、映画「火宅の人」では、主人公の長男が発症し、長男がそんな状態にあるにもかかわらず愛人との放蕩にふける緒形拳を見ることができます。
 
本作品では、破傷風という病気の恐ろしさを媒体として、いたってどこにでもいそうな夫婦が壊れていく様を見ることができます。

わがままか?

「どうしたの、まーちゃん」
 
主人公たちの娘、マサコはある日、口を開けなくなります。

グラタンをたべようとしたフォークを落とし、怒られるのですが、なかなか食べようとしません。
「甘えるんじゃない」
渡瀬恒彦演じる三好昭は厳しく娘をしつけています。
 
この時代であればある程度そういうものか、と思うところですが、正直、昭はあまり娘に愛情を感じていないように見えます。
妻である邦江もまた、夫と恋人のように接することのほうが多く、二人とも子供に対して放任気味であることがわかります。
 
しかも、典型的な子供のことは奥さんにまかせるという姿勢であり、病院にちゃんと連れて行ったのか、とか甘やかすなといった、決して意思疎通がとれている家庭としては描かれていません。
 
とはいえ、親からすれば、娘の反応が、単なるわがままなのか、何か言いたいことがあるけれど、うまく伝えることができないのか、わからないものだったりします。
 
大病を通して、娘の気持ちを考えるようになる。そんな、家族間のコミュニケーション不全の物語としてみることもできます。
 

破傷風

みなさんは破傷風という病気を聞いたことがあるでしょうか。
 
一定の年齢以下のひとであれば、まず予防接種は受けているものとなっていますが、原理上は誰がなったとしても不思議ではない病になっています。

本作品は、予防接種の中に破傷風トキソイドを含まないころの時代です。
 
破傷風菌は、土中に存在し、傷口などから感染。
 
ひとたび発症すれば、致死率は50パーセントを超えてしまいます。
 
古びた釘や錆びた鉄なんかも怖いです。
破傷風による痙攣の力は大きく、自らの力で背骨を折ってしまうこともあるそうで、昌子が腰をしならせながら痙攣する姿は、恐ろしいの一言に尽きます。
 
震える舌」では、そんな破傷風にかかってしまった昌子の闘病をみることになります。
 

演技の恐ろしさ

その演技の異様さは、見ているものの心をつぶします。

作中でも説明されますが、破傷風菌は、菌そのものではなく、菌がだす毒素こそが問題になります。
 
その毒素が神経に作用し、光や音といったちょっとした刺激に反応して痙攣をおこしてしまうのです。
 
他の子供たちが遊びついでに突然入ってきてしまったり、高い音をだしながら歩いて来たりと刺激があふれています。
そんな日常の刺激で、舌をかみきってしまう昌子の演技は、すさまじいです。

エクソシストという映画がありますが、もしかしたら、こういう病の症状をみて、悪魔に取りつかれた、と思ったとしても不思議ではないな、考えてしまうところです。

看病する恐怖

親たちも大変です。
 
破傷風は、ヒトからヒトに感染するタイプの菌ではありません。
医者もそのことはよくわかっていますが、父親である三好昭も、妻である邦江もまた、医者のことを信じられなくなってきます。
 
しまいには、看病疲れもあって
「わたし、感染したと思う。」
といいだす始末です。
 
看病疲れによって、他人に攻撃的になったりしてしまう状況が描かれており、医療従事者というのがいかに大変な職業かもわかります。

また、自分の子供が死んでしまう、という前提で物事をすすめようとしてしまう主人公たちの気持ちもわかってしまいますが、一方で、その心が死んでしまう恐ろしさも描かれています。

ここからはネタバレ

ここまでご覧になった方は、すでに実際の映画もみていると思います。

本作品を大枠で語ってしまいますと、夫婦仲のほうが大事な家族が、娘の大病を通じて、家族の大事さに気づく、といってしまえば薄っぺらい解釈になるかもしれません。
 
「生まなきゃよかった」
と、つぶやく邦江。
 
すべての事柄に対して責任や罪を感じてしまう人間の弱さが描かれると同時に、
「お前だけを愛してやるからね。子供はもう作らない」
と言って、死んでしまう娘に対して、盲目的な愛情を与えようとする場面は、悲壮ですし、その傲慢さも含めて人間の業が見え隠れします。

結果として、娘は見事に回復します。
「ちょこぱん、たべたい」
という娘に、ジュースをかって、見事に転んでしまう姿は、決して他人事だとは思えない迫力があります。
 

見るときは覚悟を

埋立地は危ない」

本作品を見ると、しばらくの間、土を触れたり、サビがある場所に対して、嫌な気持ちがわくようになると思います。
 
同時に、お子さんがいる家であれば、少し神経質になってしまうかもしれません。

本作品は、原作者である三木卓が、自分の娘が破傷風菌に感染したときのことをモチーフとしており、これが、頭の中だけで作られたものではない、というところも含めて恐ろしい作品になっています。
 
何かと病気が怖い時代になってしまっておりますので、本作品をワクチン代わりに、気持ちを新たに頑張りたいものです。
 
以上、お子さんのいる人は見てはいけない。映画「震える舌」でした!
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