シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

戦争は終わらない。スパイク・リー監督「ザ・ファイブ・ブラッズ」感想

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スパイク・リー監督といえば、「ドゥ・ザ・ライトシング」や「マルコムX」でお馴染みの監督ですが、ネットフリックス資本でつくられた作品「ザ・ファイブ・ブラッズ」について、感想を述べてみたいと思います。


ネタバレありで感想を書きますので、気になる方は、ぜひ本作品をご覧になってからみていただければと思います。

 

本作品は、金塊と仲間の遺体を探す4人の黒人たちとその息子の話ではあるものの、昨今のブラック・ライヴズ・マターと重ねてみることのできる作品となっておりますし、何より、戦争はいまだに個人個人の中で続いているのか、ということを教えてくれる作品になっています。

 

一見陽気に見えたり、実直に暮らしている人たちにみえても、その闇の奥には、戦争の歴史が埋まっているかもしれないことをハッキリ伝えてくる作品になっています。

 

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冒頭部

物語の冒頭から、衝撃的な映像が流れます。

当時の凄惨な場面が使われ、地上波ではちょっとできないだろう映像を惜しげもなく差し込んでおり、一瞬にして当時の情勢に引き込まれます。

そこには、火傷を負った子供や、目の前で撃ち殺される人々、黒人の権利のために戦った人たちが映し出されます。

この映像だけで、この作品が描いていることはたんなる映画の中の話ではなく、現実との地続きであることを暗に示しているところです。

そして、4人のブラッズ(兄弟)が集まるのです。

 

4人の男たちは、かつて、ベトナム戦争でともに戦ったメンバーです。

はじめこそ、男たちの同窓会でもはじまるような楽しげな雰囲気ではじまりますが、この作品があとになるにつれて、重く深い物語になっていきます。

15分とたたないうちに、暗い内容になっていくことが暗示されているところも、うまい構成です。

バーで飲んでいる男たちのもとに、足の亡くなった子供が物乞いにきます。

「ダメだ。帰ってくれ」

そういって追い返そうとしますが、子供はお金を要求し続けます。

物語の冒頭では、そんなものかな、と思ってしまいがちですが、ベトナムにきた黒人である彼らは、明らかにターゲットにされているのです。

 

そこには、ベトナム戦争という非常に大きな戦争の傷跡の物語であることがわかってくるのです。

同時に、そんな彼らに対して、お酒をごちそうしてくる観光業を営む二人組。

この物語は、スパイク・リー監督による黒人から見たベトナム戦争を描いた作品であると同時に、その戦争が、いい意味でも、悪い意味でも遺産であることを表しているところに戦慄させられます。

ベトナム戦争

ベトナム戦争そのものについての詳しい説明はしませんが、この戦争そのものが、当時のアメリカの運命を大きく変えたものであったことについて異論はないのではないでしょうか。

巨大な力をもっていたはずのアメリカが、いつまでも決着をつけることができず疲弊し、結果として、当時のアメリカ文化にとっても深い影をおとした原因が、このベトナム戦争となっています。

 

そんな背景に加えて、「アメリカを再び偉大な国に」というスローガンの書かれたトランプ大統領御用達の野球帽がでてくるあたりも、皮肉がきいています。

  

 

アメリカにおけるベトナム戦争のトラウマというのは、映画の歴史を語る上でも欠かすことができません。


「ザ・ファイブ・ブラッズ」は、そんなベトナム戦争で生きた黒人兵士が、ベトナムに残してきてしまったものを、それぞれの形で手に入れようとする物語になっています。

 

地獄の黙示録

ベトナム戦争を舞台にしたり、テーマにした作品というのは、数多くあります。


中でも有名なのは、本作品で使用されるBGM「ワルキューレの騎行」を聞けば、すぐに思い出される人もいるのではないでしょうか。

フランシスコ・フォード・コッポラ監督が誇る「地獄の黙示録」。

 

 

ベトナム戦争における異常な状況を描いた作品です。

特に、マーロン・ブランド演じるカーツ大佐が、ベトナム戦争の中で変貌し、独立王国の中で君臨するという異常事態が発生。

主人公は暗殺のために彼に少しずつ近づいていくのですが、何が正常で何が異常なのかは、もはやわからなくなってくる恐ろしさをはらんでいます。

 

「ザ・ファイブ・ブラッズ」の大枠の構成は、この「地獄の黙示録」に近いものとなっておりますが、物語の中心にあるのは、ベトナム戦争がまだ、終わっているわけではない、という事実にあります。

 

ベトナム戦争を取り扱った映画

核心に触れる前に、ベトナム戦争を取り扱った映画にについて改めて紹介します。


ベトナム戦争によるトラウマを取り扱ったもので代表的なものといえば、やはり、マーティン・スコセッシ監督「タクシードライバー」でしょう。

ベトナム戦争によって不眠症を患ってしまった主人公が、大統領を暗殺しようとしたり、娼婦の少女を、周りを殺しまくりながら助け出したりする物語です。

 

タクシードライバー (字幕版)

タクシードライバー (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

また、ロシアの田舎で素朴に暮らし、鹿撃ちをするのが楽しみにしている若者がベトナム戦争によって変わってしまう姿を描いた「ディア・ハンター」。

 

ディア・ハンター (字幕版)

ディア・ハンター (字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

 

「ザ・ファイブ・ブラッズ」でも、批判されていたシルベスター・スタローン主演「ランボー」にいたっても、ベトナム戦争帰還兵によるトラウマや、軋轢による悲劇を描いています。

 

ランボー (字幕版)

ランボー (字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

 

戦争期間中のトラウマを描いたものとしては、スタンリー・キューブリック監督「フルメタルジャケット」は欠かせない作品です。


物語前半の、訓練シーンにばかり注目が集まってしまう作品ですが、物語後半の陰鬱な展開は、戦争がいかに人間をかえてしまうかを教えてくれます。

 

フルメタル・ジャケット (字幕版)

フルメタル・ジャケット (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

黒人からみた戦争

今あげた作品は、いわゆる多数派の白人が主人公の映画となっています。

スパイク・リー監督は、黒人からみた映画がほぼないことを話しており、当初の脚本から大きく変更している、ということを言っているそうです。

事実、本作品は、今までスポットライトがあたっていなかった黒人たちの、当時の想いを含めて汲み取った作品になっています。


主人公たちは、戦争当時に彼らに生きるための知識や考え方を教えてくれたノーマンという男の遺体を探し、その時に、敵に奪われていたことにしていた金塊を掘り出すことを目的にしています。

という話をしていますが、本作品の本質にあるのは、遺体でも、金塊でもありません。

金塊は、コントのように、脱糞しようとしてスコップで穴を掘っていたときにあっさり見つけてしまいますし、ノーマンの遺体もあっさり見つかってしまいます。


この作品は、昔のお宝をゲットして楽しもう、とか、仲間の遺体をもちかえって英雄にしようとか、そういう話ではまったくないのです。

 

これは、負の遺産も含めて、その事実をどうやって分配しようか、という物語なのです。

戦争は続く

物語の冒頭ででてきた足を失った少年が、なぜ彼らに執拗にお金を要求するのか。

河を下っている最中に、鶏を売りつけようとする人は、なぜあそこまで主人公たちに売りつけようとするのか。

「人殺し、父と母を殺した!」

 

その考えるとっかかりは沢山ありますが、ベトナム戦争による地雷によって足を失った少年は、やはり、アメリカ人であろう黒人である彼らに、お金を要求して当然だ、と思っているし、両親を殺された人が、お金をもっているだろうアメリカ人に買い物をさせようとするのも、無理らしからぬ心理でしょう。

たとえ、直接手をくだしたのが彼らでなくても、血の流れた歴史や責任は、残ってしまうものなのです。

 

また、フランス人であるヘディは、地雷除去を行っているLAMBの代表者です。

お金持ちの道楽として行っていると言っていますが、内実は、フランスによるベトナムへの介入について、自分なりの贖罪として行っているのです。

「戦争って人を傷つけ続けるものよ。いまだに死者を出している」

自分の先祖がベトナムの人たちを搾取してきた事実を知り、自分なりに何かしたいという思いの結果です。

自分が直接かかわっていないとしても、自分なりにできることをしようとする人々がいることがわかります。

戦争のトラウマ

物語冒頭は、陽気で楽しげだった主人公たち一向も、暗い部分があることがわかってきます。

一番攻撃的で元気のいいポールは、もっともトラウマを抱えている人物です。

物乞いの少年にしても、鶏を売りに来た人に対しても、極端に拒絶反応を示します。

 

オーティスについては、ベトナムに愛人がいて、実は、その愛人に子供がいたことまでわかってしまうのです。


この作品は、主人公たち4人のブラッズ(兄弟)たちのトラウマの話でもありますが、ベトナム戦争によって傷を負ったすべてのトラウマを浮き彫りにする物語にもなっているのです。

金塊とは

彼らは、あっさりと金塊を手に入れ、そして、重い金塊を背中に背負って歩きます。

これもまた、象徴的です。

金塊はたしかに価値のあるものでしょうが、彼らの背中に物理的、精神的に重くのしかかります。

 

ちゃんと換金できれば裕福に暮らせるかもしれません。

ですが、それを狙ってくるものがいたり、その金塊をあてにして、傾いた自分の経済を戻そうとしたりと、お宝をゲットしたからそれでハッピーというわけにはいかないですし、それが重要ではないことがわかってきます。

 

金塊を奪おうとして、ジャン・レノ演じる男がやってきます。

そこに、フランス人であるヘディは言うのです。

「我が国の介入が戦争の発端。彼らに金塊を渡して。彼らは犠牲を払った」

「みんながはらっている。黒人を特別視はできない」

これは、こういう物語だ、ということを教えてくれるシーンとなっています。

ベトナムの人たちも、フランス人も、もちろん黒人も、みんながみんな犠牲になっていて、それぞれの中で、戦争は続いているのです。

悪いものもいいものも、当然、応分の負担を強いられて当然だ、という考えです。

 

ランボーを非難する

蛇足というか、補足ですが、物語のはじめのほうで、彼らは「ランボー」を非難します。

ランボーの1作目は、ベトナム帰還兵であるランボーが、そのトラウマからうまく町になじめないという問題を取り扱っていますが、2作目にあたる「ランボー 怒りの脱出」では、いまだにベトナムにいる仲間を救出する物語となっています。

 

実は、「ザ・ファイブ・ブラッズ」でも、遺体ではあるものの、ノーマンという戦友をベトナムから救出するという点においては、同じ流れだといえます。

「ザ・ファイブ・ブラッズ」は、色々な映画のプロットをうまくまぜこみながら、その虚飾をはぎ取るようなことをしているアクロバティックな作品としてみることができる点も面白いところです。

そんな雰囲気をにおわせるためでなければ、長々と話をする必要はないにもかかわらず、あえて2時間を超える作品にそのシーンを入れていく理由にならないようにも思えましたので、本作品の方向性を示した重要なシーンとして、見直すとまた違った会話に聞こえるのではないでしょうか。

 

兄弟は死なない。ただ増えるだけ。

「息子に運ばせるなら、息子にも分け前を」

金塊の重さに疲れ、息子が別の人の金塊を運ぼうかといったとき、ポールは言います。

「最低野郎だな」

と言われますが、たんに金塊を運ぶから分け前を、というよりは、運ぶ以上は、その重荷そのものを背負わなくてはならなくなる、ということを暗に示しています。


本作品は、ブラック・ライヴズ・マターについての話としてみることもできますが、裏側にあるのは、戦争そのものの重さということではないでしょうか。


アメリカ国民の11パーセントが黒人にもかかわらず、ベトナム戦争では、全体の31パーセントが黒人兵士」

という話もあり、黒人への命の問題については根深い問題があることも示唆されています。

しかしながら、こと戦争については、かかわりをもったすべての人間がなんらかの形で傷つき、無関心なままではいられない。

のちに続くブラッズ(兄弟)たちにつながっていく、ということが示されています。

色々な思いが錯綜する物語となっていますので、この作品をきっかけに、それ以外の作品を見直してみるのも面白いかもしれません。

 

今の時代状況にピタリとはまる部分もありますし、まさに実力派のスパイク・リー監督監督であるからこそ作り出すことができた稀有な作品となっていますので、今の時代を生きる我々は、ぜひ見ておきたい作品だといえるのではないでしょうか。


以上、戦争は終わらない。スパイク・リー監督「ザ・ファイブ・ブラッズ」感想でした!

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