シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

歴史的緊急事態。世界恐慌が訪れる。「マネーショート 華麗なる大逆転」解説。

マネー・ショート華麗なる大逆転 (字幕版)

コロナウイルスの影響で経済的にも厳しい状況となっております。
そんなときこそ、映画をみて家で過ごしてもらいたいと思うわけですが、過去に世界中の経済に影響を与えたリーマン・ショック以来の歴史的緊急事態が起きております。
 
改めて、リーマン・ショック騒動でセカイがどうなっていったかを振り返るべく、その中で成功や苦悩を味わった人たちを描く「マネーショート」について、解説してみたいと思います。

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リーマン・ショックとは

「マネーショート」は、サブプライムローンに端を発する投資銀行の破綻によって巻き起こった世界的な金融危機を取り扱っています。
金融とかよくわからないし、という方もいるかと思いますが、我々の実生活と金融世界というのは繋がっています。
本作品は、頭がいいはずの人たちがその事実に気づくこともなく、どのようにして破綻を向かていったのかを描いています。
日本でもバブルが起きたわけですが、2008年のアメリカでも同じようなことが引き起こされていたのだなぁ、と思いながらみるとしみじみみることができます。
 

破綻に気づいた男

クリスチャン・ベール演じるマイケルは、やり手のファンドマネージャーです。
もともと医者になるところを、ブログで投資のことについて書いているうちに投資家になってしまった人物であり、そのため、作中でもドクターと呼ばれているときがあります。
本作品には、何人かの主人公がでてきますが、彼らの中でもっともはやく破綻に気づき、それを逆手にとって、空売り(ショート)にかけた人物です。
 
「マネーショート」の面白いところは、金融危機における事情をわかりやすく解説するだけではなく、人間の孤独や苦悩を含めて描いているところが秀逸だったりします。

時には、お風呂に入っている美女が説明してみたり、料理人が説明してみたりカジノでのやり取りがあったりと、唐突ながらも、わかりやすく要約してくれているのが特徴です。

ショートにかける

マネーショートにおける、ショートというのは、空売りを意味しています。

通常であれば、株等を安いときにかって、高くなったら売る。その利ザヤによってお金を手に入れるのが金融業界の基本となっています。
 
ですが、持っていない株を借りて売り、あとで返すというやり方を空売りといいます。
 
1000円で空売りしたものが、価格が下がって200円になれば、200円で返せばいいことになりますので、800円を自分の利益にすることができる、と考えてもらえれば、まぁ大枠として間違いではないでしょう。

マネーショートの場合は、サブプライムローンの債券がつまったCDOという商品をもとにした、壮大な空売りとなっています。
本来空売りして儲けるようなものでなかったことから、価格が下がると儲かりますが、価格があがってしまうと保証金を払うという契約を結んで、クリスチャン・ベール演じるマイケルは、大量のお金を空売りにつかっていくのです。

サブプライムの謎

小難しい話はもう少し続きます。

本作品は、儲けるということの功罪を、その両面を描いた作品となっています。

面白みのなかった銀行が、住宅ローンをつかって儲けることに気づいたことから、とんでもない投機が始まっていきます。

突然ですが、借金というのは、いわば自分が将来手に入れることができるお金を先に手に入れること、と言い換えてもいいでしょう。
 
仮に100万円を1年でためることができる人がいたとします。
 
1000万円で家を建てたいけれど、現金で買うためには10年間待たなければなりません。
その間に家賃や何かを払うぐらいだったら、借金をして先に1000万を借りて家に住み、10年かけてお金を返したとしても同じではないでしょうか。
 
もちろん、利息や何かはかかりますが、今回のケースではあまり考えないことにします。
銀行がしっかりと審査をして、お金が返せる人にお金を貸せば、利息をもうけることができて銀行も安心ですが、当時のアメリカでは、住宅バブルが訪れてしまいます。
 
かつての日本でもバブルがおきましたが、こういうときは、人間土地とかを買いたくなるものです。
100万円でかったものが、半年後には500万になるなら、誰だって買いたくなってしまうものです。勝ち続ければ、次も勝てると思い込む。人間というのはそういうものです。
 
そんなバブルの中で、銀行はどんどんお金を貸し出し、本来買えない人たちにまでお金を貸し出し始めたことで、世の中はおかしくなっていきます。

おかしい人たち

もう一人の主人公であるマークは、悩みを抱えている人物です。
それは、金融業界に対する根深い猜疑心ともいえるものです。
平たくいってしまうと、みんな詐欺だと思っているのです。
本来、人間が生きるのに必要なことは食べ物や安全といったものであって、株とか債券といったものは何も生みだしません。
 
価値のないものを価値のあるようにみせる、それこそ詐欺ではないか、と。
はっきりとはそのようなことは言ってませんが、自分のやっていることに対しての矛盾を感じているのがマークとなっています。
そんなマークのもとに、サブプライムローンを含むCDOが破綻する、という情報が入ってきたことで、彼の人生はにわかにかわっていきます。

物語のラストで、彼は、破綻していく金融業界の中で、儲けられるチャンスをみすみす逃そうとしてしまいます。

結局、売ることで利益を得るわけですが、自分が詐欺だなんだと思っていたやり方でお金を得るということは、その構造を批判していた自分もまた同じではないか、という矛盾に苛まれているのです。

二人の若者

様々な思惑の中で揺れる中、チャーリーとジェイミの若い二人こそが、さらなる主人公としてでてきます。

ライアン・ゴズリング演じるジャレドもいますが、物語をけん引する人物としてみていただければと思います。

さて、チャーリーとジェイミの二人は、少ないお金を船の関係を使った事業で増やし、さらに儲けようとしている二人です。
ある意味、もっとも純粋に大金を手にした人物たちとはなっています。
 
彼らは、ブラッド・ピット演じるベンという男の力を借りて、サブプライムローンのからくりをつかって大儲けしようと画策します。
絶対安全といわれているAAAのCDOを、空売りすることで彼らは利益をえますが、この大胆な行動をするためにも、彼らは二人でなければならなかった。
孤独に戦うマイケル。苦悩するマーク。そして、純粋に勝利しようとする二人によるそれぞれの構図が、マネーショートという映画を多面的に見せてくれるのです。

二人が、自分たちの成功を確信したとき、ベンは彼らをいさめます。

「いい加減にしろ。よく考えろ。俺たちが勝てば、国民は家や仕事や老後資金を失う。年金もだ。人々が数字化される」

人々が数字化される。
人々が数字化される、というのは面白い表現です。
マネーショートは、華麗なる大逆転というサブタイトルがついていますが、正直、華麗でもなんでもありません。
 
金融業界というのは、ゼロサムゲームです。
簡単にいうと、勝つ人がいれば、かならず、負ける人がいる、ということです。
 
主人公たちのように勝つ側にまわることができたならば、それは最高でしょうが、その一方で、負ける人がでてきます。

今回の場合、その大半が、年金を株などで運用している人たちであり、必死に毎日を生きている普通の人々なのです。
そして、ブラッド・ピットが言った数字化される、というのは、文字通り、多くの人たちの悲劇が数字でのみ語られてしまう、ということです。
 
人間の悲劇は、近くでみていれば大きすぎる物語になるでしょうが、それが、何万人ともなれば、それは、数字でしか語ることができません。
「失業率1パーセント上昇。4万人死亡」
年金暮らしをしている親や、子供のために仕事や買い物をしている人たちが暮らせなくなってしまうのです。
数字だけでみていると、そんな事実に気づけなくなってしまうことを、いさめてくれているのです。

異常に気付かない

マイケルは卓越した嗅覚で、サブプライムローンの崩壊に気づき、他者からの情報によって気づいたチャーリー達。
そして、マークだけは、実際に住宅ローンを借りて生活している人たちを見に行ってから、確信をもって動いています。
何もない土地がひろがっている中、大きな家が建っており、その大半は空き家となっているのを彼は知ります。

住宅ローンの仲介業者がでてくるのですが、現場サイドはもっとおかしなことになっています。
 
「審査を通らない人は? 金がなくても?」
「全員合格だ。家が欲しい人は簡単に手に入る」
 
本来、お金を借りられるだけの信用がなければ人はお金を借りることができません。
 
ですが、仲介業者の人たちは、相手の信用度など考えもせずにローンを組み、それを銀行に買わせて、いい暮らしをしてしまっているのです。
そこには、心配とかそういうものは一切ありません。
 
ちょっと誇張されているところもありますが、誰もがそんな生活が破綻するかもと思ってもいないのです。
失業スレスレの人たちに住宅ローンを組ませて、その債権を平気で売っているのです。
作中では、水商売の女性が、5つの家とコンドミニアムをもっているといって、マークを唖然とさせます。
必要のないものを、払えるはずのない人達が膨大な借金をして、住宅バブルを支えてしまっている。
 
マークは叫びます。
 
「バブルだ!」

認めない人々

「マネーショート」では、人々が自分たちのミスや状況をみとめないということも明らかにしています。
そのことによって、マイケルにいたっては、自分に自信をなくしてしまうぐらいです。

特にひどいのが、格付け機関と呼ばれる会社です。

ムーディーズが有名ですが、債権や会社に対しての格付けを行うことを生業にしているところです。
ここは間違いありません、と太鼓判を押すことで、人々はそれを信じてお金をだしたりするのです。
ですが、サブプライムローン問題のときには、その信用機関が不透明な理由によって格付けをしていたことが明らかになっていきます。
また、お金がたまったら二年後にはハッピーリタイヤしようとしている人など、金融業界において無責任な人たちが恐ろしいほどいることがわかってくるのです。

しまいには、合成CDOの説明がはじまると、世の中はとんでもないな、と思うところです。
 
ブラックジャックをしている人たちそのものを、賭け事の対象とする人々がでてきてしまいます。
 
その賭けの金額は、実際のブラックジャックの金額よりさらに大きく膨れ上がってしまうのです。
より大きなお金がうごくにもかかわらず、その根本にある賭け事には、勝算なんて一つもないのです。
だから、もとの勝負事が、事実が確定してしまったとき、一気にジェンガの山は崩れてしまうのです。

リーマン・ショックの失敗から

人々が認めない限りなかなか物事は動きません。
その結果、主人公たちは窮地に立たされながらも、多くの人たちから信用を失ってみたり、傷ついたりしていきます。

結果として、彼らが考えていたような大不況が起き、多くの人々が失業し、命を失っていったのです。

ですが、この作品では、本当に責任をとらなきゃいけない人たちは助けられ、人々の税金によって政府が公的資金の導入によって銀行を助けたりして、責任の所在はうやむやになってしまったことが示されます。
物語の冒頭で、マーク・トゥエインの言葉が引用されます。

「問題なのは知らないことじゃない。知らないのに、知っていると思い込むことだ」

腐りかけの魚を入れたシチューを、さも最高級のものだと思って食べる人々を揶揄するような物語であるとともに、その中で華麗に勝ったとしても、本当に幸福なのかを含めて問いかける作品となっているのが「マネーショート」となっています。
 
金融業界や用語といったものがわかりづらかったりする部分はありますが、非常に学びにつながる作品となっていますので、気軽に見てみるのもいいかもしれません。

以上、歴史的緊急事態。世界恐慌が訪れる。「マネーショート華麗なる大逆転」解説でした!
 

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