シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

感想。ロックンロールなオペラ座の怪人。ブライアン・デ・パルマ「ファントムオブパラダイス」

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 ブライアン・デ・パルマといえば、職人気質な映画作家として「アンタッチャブル」といったマフィア映画から、ホラー映画の傑作「キャリー」。ボディダブル、殺しのドレス、ともう、枚挙にいとまがないほどの名作を作り出してきた映画監督です。

とはいえ、これほどの有名な監督でありながら、名前を意識されることがあまり多いとは言えない監督でもあります。

今回は、そんなブライアン・デ・パルマ監督による、初期の傑作、カルト的映画ともいわれている「ファントムオブパラダイス」について、どのような映画なのか、感想含めて解説してみたいと思います。

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ロックで始まる物語

ブライアン・デ・パルマ監督といえば、主にその映像表現や演出の巧みさがよく語られます。
本作品でも、分割画面をつかったり、物語の冒頭では、デスレコードの鳥のマークをゆっくりまわしてナレーションいれるだけで、引き付けられる画面となっています。
編集技術の巧みさも含めて映画の面白さを堪能できるのが、ブライアン・デ・パルマ監督の見どころの一つです。
さて、本作品は、みた人はなんとなく察しがつくかと思いますが、古典的な作品を複合させて、当時の音楽業界の状況を見事に取り込んだ作品となっています。

その骨子となっているのは、「オペラ座の怪人」です。
醜い顔を持ちながら、音楽の才能をもち、やがて悲惨な死を迎えてしまう19世紀フランスの作家が書き上げた作品は、今も舞台になってみたり、ちょっと古いですが「金田一少年の事件簿」ででてきたりと、色あせない作品となっています。

その「オペラ座の怪人」を骨組みとしつつ、悪魔と契約したファウストそのものでもある音楽プロデューサー・スワン。
才能だけではのし上がれない世界をもあらわした過酷な作品となっています。
 

不幸な主人公

主人公であるウィンスロー・リーチは、さえない人物です。
音楽の才能はあるものの、ピアノでソロコンサートをやりますが、誰もロック全盛の世の中で盛り上がったりはしません。
 
ただ、スワンという男は、彼の音楽的才能を見抜き、自分がロックの新たな場所として劇場「パラダイス」でその音楽を、別の人間に演奏させて披露しようと考えます。
ウィンスローの立場からすれば、これはあまりにひどいことです。
ですが、一方で世の中そんなものともいえます。
いくら才能があったとしても、その見せ方が悪ければ見向きもされないのです。
ウィンスローという人物は、現代のわれわれがひいき目にみても、イケてる人物ではなく描かれています。
そんな人物が、才能を搾取されながらも、惚れた女性に自分の曲を歌ってもらおうとして殺人を犯したりするのは、ある意味、悪いカタルシスがあるところです。
 

悪魔との契約

ネタバレして本作品は解説していきますので、気になる方はお気をつけください。
 
レコード会社の社長であるスワンは、年をとらない人物です。
ですが、のちに、彼自身が悪魔との契約によって若さを手に入れていることがわかるのです。
そのあたりのくだりは、いわゆる「ドリアン・グレイの肖像」を思い出せるところです。
「ドリアングレイの肖像」は、肖像が年老いていくけれど、自分は年を取らないという物語です。
ファントムオブパラダイス」では、VHSの中の映像がポイントとなっていたりします。

ウィンスローは、レコードプレス機の間に顔を挟まれることで醜い顔になってしまい、声もまた奪われてしまいますが、狂気に満ちた創作能力を発揮します。

元ネタはこちらもオペラ座の怪人とは思いますが、サム・ライミ監督が「スパイダーマン」のとりたさに作り上げた「ダークマン」を思い出させるところです。

オタクの恋

ウィンスローは、ミュージシャン志望の女性フェニックスと出会います。
作中では、スワンのオーディションにきた女性は、音楽的才能をみてもらおうとしてオーディションにくるのではなく、自分自身の色香によって仕事をとりにいこうとしています。
なんでしたら、そもそも音楽の才能をみてもらおう、とかそんな気もありません。
そのため、フェニックスは、自分の期待と大きく異なることに失望して、オーディション会場からでていきますが、結局、別のオーディションではその、圧倒的な歌の才能を認められます。

だから、彼女の魂が高潔か、と思っていると、あっさり彼女は、スワンに体をゆるしてしまいます。
あまりのショックでナイフを自分につきたてるウィンスローですが、悪魔の契約によって自分の意思で死ぬこともできない身体になっています。
これほどの悲劇はありません。
自分の作品を他人にとられ、好きな女性もとられ、どん底の中で、彼は、事件を起こすのです。

観客への皮肉

おねぇ系のボーカルの人物の歌で、劇場「パラダイス」は盛り上がりますが、観客がもっとも盛り上がったのは、彼が死んだ瞬間です。
お客はそれを演出だと思っていますが、ウィンスローによって感電死させられて、それを知らずに熱狂するという悪意の満ちた演出が皮肉です。
本当であれば、才能が真実であれば売れると信じたいところですが、演出や知名度こそが大事であることを嫌でも考えてしまうのが本作品となっています。

名監督であるヒッチコックを敬愛するブライアン・デ・パルマ監督ですので、「ファントムオブパラダイス」の中でも、シャワーシーンで殺されそうになる場面があります。
本作品は、比較的短い作品ではありますが、古典的な作品を見事にアレンジし、演出により古びない普遍的な作品へと昇華させています。
 
ブライアン・デ・パルマ監督は、普通にみても面白い監督ですが、いろいろな映画をみて、一周してからもう一度みてみると、その面白さがわかる監督となっておりますので、本作品をみて、なんだか今一つだなぁ、と思った人も、忘れたころにみてみると、その演出の秀逸さに驚くことになるかもしれません。

以上、感想。ロックンロールなオペラ座の怪人ブライアン・デ・パルマファントムオブパラダイス」でした!
 
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