死は孤独なのか。幸せのひとりぼっち
スウェーデンの映画の中で、歴代3位の売り上げになったという「幸せの独りぼっち」。
59歳にして妻に先立たれ、会社をクビになったおじいさんが自殺をしようとするものの、なかなかうまくいかないというコメディタッチであり、人間がどう生きるべきかを考えさせてくれる映画が「幸せの独りぼっち」となっています。
人一人の人生には、映画になる十分すぎる魅力が詰まっていることを教えてくれる作品となっていますので、関連作品と合わせながら語ってみたいと思います。
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生きる。いや、死ぬ。
主人公であるオーヴェは、43年間鉄道会社に勤めていた男です。
しかし、妻に先立たれて仕事を首になり、最後に死を選びます。
この作品は、冒頭からオーヴェのキャラクターがわかりやすく示されているところから始まります。
彼は、妻の墓前に飾るための花を買おうとして店員と言い争いになります。
理由は、1つ50クローナのものが、二つ買うと70クローナというよくある売り方についてです。
複数買うと安くなるけど、一つなら高い、というのは店の戦略でしょう。在庫を早くなくしたいといったところがあるでしょうが、オーヴェは70の半分は35だといって怒るのです。
融通はきかないし、ゴミだしにもうるさいですし、車一つ動かすのでもガミガミと小うるさくて、下手をすれば困った人物です。
ですが、ある意味、彼が時代から取り残されていることがわかり、でも、決して自分の欲望とかのために怒っているのではなく、誰かを助けたりするための正義によって動いていることがわかっていくのです。
会社をクビになったことをきっかけに、縄を首にまきつけて死のうとしますが、イラン人であるパルヴァネという女性が隣に引っ越してきたことで、彼の死に際はあわただしいものに変わっていきます。
主人公の成り立ち
本作品は、オーヴェという男の人生をおっていきます。
部屋を歩きながら、時には死にかけながら、彼は、自分自身の人生のハイライトを思い出します。
その中で、彼がどうして頑固ジジィに見えるのかがわかってくるのです。
落とし物のサイフを届けたことで、正しいことを行うことの大切さを学び、後々まで彼の正義感につながる要素がみえてみたり、妻との出会いの中でも、彼の恋心とまじめさがわかるエピソードが連なっていきます。
住んでいる町の美化に努めたり、車の侵入を阻止することも、
「ルールだ!」
といって注意を繰り返します。
ですが、これも、若いころに友人であった男と築きあげたものであり、それは、危険なことを減らすために考えたものだったりするのです。
年月が経つにつれて、その理由が忘れ去られ、規則だけが残っていくように、頑固ジジィだけが疎まれながら残っていっているような状態なのです。
ただ、彼の回想を重ねることで、彼の正義のためによるところが大きいのが、わかってくるあたりが面白いところです。
映画における老後の人生
アレクサンダー・ペイン監督による「アバウト・シュミット」も、妻に先立たれ、会社も定年退職した男の物語です。
ジャック・ニコルソン演じる主人公が、退職した瞬間、会社の人間ではなく、ただのシュミット氏になってしまう演出の面白さや、小津安二郎映画に影響を受けたという監督の意向がばっちり入った演出は秀逸です。
結局、血のつながった家族よりも、心配してくれるのは遠くの人物だったりする皮肉もあります。
老後の美しい話であれば、記憶を失っている女性に対して、物語をきかせつづけるという「君に読む物語」なんかも、話をきけばきくほど登場人物たちのことがわかってくるという作品になっています。
「幸せのひとりぼっち」は、自分が孤独だと思っていたら、意外と自分のまわりには人がいる、ということがわかる作品になっているのが面白いところです。
もっとも、彼の人柄もあってのことではありますが。
そして、それを拡大してくれたのが、イラン人女性だったりするのですが、自分を必要としてくれている人は、自分が思っている以上にいる、ということも教えてくれる作品です。
自殺マニュアル
一方で、本作品は、自殺に関する方法も色々とでてきて面白いです。
首吊りがメインですが、主人公はなかなかうまく死ぬことができません。
首吊りがダメだとわかった主人公は、近所の人に貸していたホースをわざわざ返してもらって、車による一酸化炭素中毒による自殺を実行します。
これも、未遂に終わります。
何も知らない子供たちが「この車くさーい」と言っているのは、ほほえましい反面、恐ろしいところです。
海外ならではですが、銃による自殺も行われます。
血のしぶきなどが部屋を汚さないようにビニールを張ったりするあたりに、オーヴェの人柄が感じられるところだったりもします。
電車への飛び込み自殺もあったりしますが、自分よりも先に線路に身を投げてしまう人がいて、なかなかうまくいきません。
コメディタッチにそのあたりを描いてしまうところにも、本作の演出の面白さがあるところです。
主人公の想い
主人公はまじめです。
それでいて、役人に対しての不信感を持っています。
「シロシャツどもめが」
と敵対視していますが、いわゆるホワイトカラーの人々を憎む理由は、彼らが昔、オーヴェの家に火をつけたと思われる行動をしていたためです。
そして、オーヴェは、労働者であるブルーカラーとして生きていることを誇りに思っている人物でもあるのです。
だからこそ、国産車のサーヴを愛し、親友だと思っていた男が、ボルボにのっていることを許せなかったりするのです。
一人では何もできない。
なんでも自分ひとりで解決しようとしていたオーヴェですが、隣人に教えられます。
「なんでも解決できると思っている。でも、一人で、何もかも解決できない」
オーヴェは、妻とのエピソードを語ります。
それは、悲しい事実もあり、その事実の中で、
「今を必死に生きるのよ」と妻に言われて、自分の考えを変えたことについて話をします。
簡単にこのシーンを済ませようとすれば、もっと楽な演出が可能とは思いますが、彼自身を変えてくれたのはどこまでいっても妻であり、その妻がいなくなったあと、それでも、やっぱり、妻が彼自身を支えてくれることがわかります。
誰かを憎んだり怒ったりするのではなく、自分自身ができることをやっていく。
それを、セリフではなく映像や俳優たちの演技で教えてくれるあたりが、「幸せのひとりぼっち」の魅力といえるところです。
みておきたい映画
本作品をみていてもう一つ、老人が活躍する映画を思い出すところです。
デトロイトで生きる白人以外は認めない男が老人となり、子供たちからは一軒家からでて暮らせといわれて、彼もまた妻を亡くしています。
自分がもっているアメリカ人の魂を、誰が引き継いでくれるのか、といった作品でもあるクリントイーストウッド監督「グラン・トリノ」。
自分の生きる知恵とかを持った老人が若者に対して何かを伝えていく。
クリント・イーストウッド監督による、役者人生に区切りをつけた作品でもあります。
若い時に苦労して働いて、気づいた時にはまわりに理解者がいない。
そんな老人の物語として、「幸せのひとりぼっち」を見た方は、ぜひこちらもご覧いただきたいと思います。
以上、死は孤独なのか。「幸せの独りぼっち」でした!