シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

おススメ関連映画を紹介。感想批評 映画「トランスワールド」

トランス・ワールド(字幕版)

 

クリント・イーストウッドの息子であるスコット・イーストウッドの初主演作品である「トランスワールド」。

 

物語の大半を森の中の小屋(キャビン)で撮影されており、どちらかというと、舞台劇のような雰囲気すらする映画となっています。

森の中で出会った男女が森の中の周辺に閉じ込められる不思議な現象、ホラーやサスペンスの雰囲気を感じさせる本作品となっておりますが、この記事を読んでいる人は、「トランスワールド」を見るかどうか迷っている、というよりは、見たけれどもやもやする、という点が大きいと思いますので、どのような気分と期待をし、どのような想いを抱いたかを中心に語ります。

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小屋に迷い込む

物語は、サマンサという女性が山小屋に迷い込むところから始まります。

物語そのものは、小屋に迷い込んだ男女が自分たちにある隠れた共通点に気づき、あいまいになっていた記憶をたどることで、自分たちがしなければならないことに気づき実行する、という話になっています。

物語の前半は、小屋から脱出できない、という状況は把握されていません。

車がガス欠で動かなくなったサマンサ。

車が動かなくなってしまったために立ち往生してしまったトム。

迷い込んできたジョディ。

食料の関係もあって小屋の周辺から出ようとするものの、気づくとレトロゲームの傑作パックマンのように、世界の右と左がつながってしまった異空間に迷い込んでいることに気づきます。

 

少しこの手の作品を見慣れた人であれば気づくところなのが、彼らは実は死んでいるのではないか、と思ってしまうことではないです。

 

サマンサは、妊娠しているにも関わらずたばこを平気で吸います。

ときどきフラッシュバックする記憶。

いつまでも帰ってこない夫。

道があるんだから、逆戻りすればどこかにたどり着くはずなのに助けはいつまでたっても来ません。

それならば、彼らがいるところが煉獄のような世界であると考えてしまうところです。

 

煉獄か?

煉獄とはカトリックにおける、この世と天国の間にある世界とされています。

サマンサたちは、まわりに疎まれることによって殺されたりした人物なのではないか思ったりしました。

そのうち、彼らは生きていた時代も違うことに気づきます。

「あんたのその服を貸してやれよ」

とトムが、ジョディに言うセリフがあります。

「買ったばかりよ」

とジョディが反論しますが、セリフのあちこちに伏線は張ってあります。


異なる時代に生きていた彼らが、超常現象的な力によって一つの場所に集められた、ということが徐々にわかってきます。


さて、彼らが煉獄で生きて、自分たちの存在意義に気づいたりするという点では、もっと徹底的にやっているアニメがあります。

麻枝准原作による「エンジェルビーツ」をおいてほかにありません。

エンジェルビーツ」は、突然学園生活をすることになった主人公たちを描く物語です。

記憶の一切を失った主人公が、コメディタッチな世界で強制的に学園生活を送りますが、彼らは悲惨な目にあって殺された人物たちであることがわかってきます。

死後、しかし、天国でもないその世界で、彼らがどうして集められていくのかがわかる良作アニメとなっています。

 

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「トランスワールド」をみていると、どうにも「エンジェルビーツ」を思い出してしまうところでした。


いつネタばらしがあるのかと思ってみていると、「トランスワールド」はさらに一歩進めてくるのです。

やり直し

本作品の予告がユーチューブで公開されていますが、すでにそこにネタバレがあって驚きます。


一見他人同士の彼らですが、実は血縁同士であることがわかります。

同じぐらいの年齢でありながら、他時代から一か所に集めらえただけではなく、彼らは親子関係にあったのです。

しかも、それは、第二次世界大戦に戦死してしまった人物を助けるためだったのです。

なぜ彼らが選ばれたのか、という点はまったく説明されていませんが、キャラクター達がやらなければならないことはわかってきます。


戦争でサマンサの父親が死んだことで、母親が再婚してしまう。

その結果サマンサはお産の時に一人になってしまい、出産後死亡。

母親を亡くしたジョディは施設に入ってグレてしまい、その結果、ジョディは刑務所で出産して死んでしまい、その息子のトムも悲惨な人生を自殺で終えてしまう、という連鎖が発生したというのです。

今の説明が本作品のキモとなっております。

ただ、過去を変えることで何かをやり直す、という作品は世の中に数多く傑作が作られています。


エンターテインメント性が高いもので言えば、ロバート・ゼメキス監督「バックトゥザフューチャー」でしょう。

タイムマシンによって過去の戻った主人公が、なんとか現代に帰ろうとする傑作です。

 

 

「トランスワールド」は、命の連鎖によって未来を変えるものとなっていますが、自分たちの行動が世界を変えるというもので、わかりやすいものは「バタフライエフェクト」ではないでしょうか。

 

 

過去に戻って行動をかえることによって未来がかわる。

あたかも、蝶々の羽ばたきが世界の裏側の事象を左右してしまう、といういわゆるバタフライ効果を取り扱ったタイムスリップものです。

この作品の良さは、ささいな出来事が未来をかえてしまうことで、主人公が完璧に望むような世界は実現しないという皮肉も描いてしまっているところです。

ゲームで見る歴史改変

本ブログでも何度か取り上げていますが、「この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO」がこの手の作品としてベストではないでしょうか。

物語を、まるでゲームのシナリオ分岐のように考えている作品であり、この作品は、選ばれなかった世界もまた同時に存在している、という考えがいまだに新しいです。

 

普通のシナリオゲームであれば、悲惨な目にあった事実をなくすために、別のルートを選ぶわけですが、その悲惨な事実がなければ決して次のルートを選ぶことができない物語になっています。

 

悲惨なルートは、絶対になかったことにできない、というものです。

ヒロインがかわいそうだから、ヒロインが幸せなルートだけ選ぼうとしてもダメであり、物語の性質上、必ずその事実を無視することができないつくりになっているのです。

 

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さらに、ループ物のアニメで有名なものを言いますと「涼宮ハルヒの憂鬱」における、エンドレスエイトではないでしょうか。

エンドレスエイトは、8月の夏休みを永遠に繰り返します。

何万回と繰り返す夏休みを、主人公たちは憶えていません。

覚えてはいませんが、その時に生きてきた彼らの小さな積み重ねがそのループから抜け出すためのヒントを与えているという面白さがありました。

エンドレスエイトの場合もまた、何万回と繰り返したループが一見なかったことにされています。

 

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主人公たちは憶えていないからです。

ですが、宇宙生命体である長門だけは、その時間のループの中にいながら記憶を保持しますが、観測者として干渉することもできずに苦しみます。苦しんだ結果生まれたのが「涼宮ハルヒの消失」につながるところは、また別の機会にかければと思います。

 

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シュタインズ・ゲート」もゲームでは有名なところではありますが、いずれにしても、やりなおしをする、という作品は、ゲーム的なもの(涼宮ハルヒは小説ですが)との相性が抜群に良いものとなっています。

  

 

プレイヤー自身がバッドエンドを繰り返し、その繰り返しそのものもゲームシステムに取り込んでしまう「YU-NO」は、素晴らしいと思っておりますが、「トランスワールド」に舞い戻って考えますと、ちょっと、物足りなさを感じてしまうところです。

誰かの犠牲の上になりたつループ

「トランスワールド」は、ループ世界または、パックマン世界とでも呼ぶべき世界は、父親を助けるためだけに存在している空間となっています。

結果、彼らはそれに成功し、サマンサの父が死ななかったことでサマンサは生き続け、娘も愛情いっぱいに育った、というラストになっています。


ですが、少し虫が良すぎるラストのように思います。

ジョディは、強盗をした店の店主に声をかけられて店をあとにします。

そのあとに、世界が変わる前に付き合っていた男が別の女性を相棒にして強盗を行おうとするシーンがでてきます、

そのままみると、過去を改変したことでジョディは強盗をすることもなく、トムも生まれてくるに違いない、めでたしめでたし、と思うところです。

ですが、ちょっと考えてもらいとところです。


ジョディが悪くならなかったことで、別の女性が強盗をしているのです。

強盗の事実そのものがなくなった、ならまだしも、ジョディじゃなかっただけで、それが他人にうつっただけにすぎません。

それで、ジョディはいいのでしょうか。

たしかに、強盗をして生活をして、最後には死んでしまったジョディは不幸だったに違いありませんし、サマンサだって一人でお産をして死んでしまったのは残念なことだと思います。

ですが、それも含めて人生です。

ましてや、過去を改変することで、自分以外の人間が自分が負うはずだった不幸を背負っているなんて、物語として正しくないのではないでしょうか。

ジョディが殺したり傷つけた人たちへの罪はどうなってしまったのか。

すべての不幸が一人の男の死で始まったのだから、その死を回避すればそれでいい、というものではないはずです。


「トランスワールド」は、物語の前半が、ミステリアスな雰囲気と何かが起きそうな緊迫感があるのですが、物語の根底にある部分が納得しかねる部分があるのが残念なところです。

深読みするのであれば、コンビニのおやじが謎の力でその相手の未来を変えてしまう能力をもっていて、ジョディをトランスワールドに送り込んだ、と解釈することもできますが、いずれにしても、自分たちが幸福に生きるために、他人に不幸を押し付けていい理由にはならないはずです。


ですが、本作品を面白いと感じた方は、「バタフライエフェクト」や、今回紹介した各種ゲームをプレイしてもらえると、ループものや過去改変ものの面白さをより感じることができます。


以上、おすすめ関連映画を紹介。感想批評 映画「トランスワールド」でした!

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