大きすぎる夢は人を惹きつける。映画「ザ・ウォーク」
ロバート・ゼメキス監督による映画「ザ・ウォーク」は、今は無きワールドトレードセンターの二つのビルの間にワイヤーを通し、その上を命綱なしで歩いた実際の人物の話となっています。
たんに、綱渡りをするだけの映画と思ってしまうかもしれませんが、そこにいたるまでのドラマや、巨大な夢をかなえるための方法が示された作品となっていますので、そのあたりを含めて解説してみたいと思います。
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ロバート・ゼメキス
ロバート・ゼメキス監督といえば、言わずとしれた「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズや、「フォレスト・ガンプ」によって大ヒットした人物です。
「フォレスト・ガンプ」については、トム・ハンクス演じる主人公についての話であり、多少頭の回転がゆっくりした人物でありながら、歴史のさまざまな場面や人物に出会っていくという歴史体験ものでもあります。
黒人文化が取り除かれているという批判もありはしますが、ロバート・ゼメキス監督は、CGをさりげなく使うということも含めて絶妙な技巧をもった監督です。
そんなロバート・ゼメキス監督が、3Dをつかって公開した本作品ですが、
普通に映画館でみることができなかった人でも、まったく遜色なく楽しむことができます。
夢をぶちあげるということ
物語のあらすじは、そのままとなっています。
フランス出身のフィリップ・プティは、完成するまえのワールド・トレードセンターを新聞で見つけて、ある夢を目標にします。
二つの高層ビルで有名な建物ですが、主人公はその二つの間で綱渡りをするために、奔走することになるのです。
主人公であるフィリップそのものは、冒頭のわずかな時間だけで、プライドの高い人物であることがすぐにわかります。
自分の引いた線の中では無言を貫き、大道芸をして生活している彼ですが、その円の中に入った人物は徹底的に排除します。
そんな彼が、大きすぎる夢をもったことでいろいろな人たちを巻き込んでいきます。
人は、巨大な夢をもった人間に憧れを抱き、また、共有したくなるものです。
主人公は、彼らを共犯者と呼びます。
感謝する人間へ
「心の中で敬意を払う。観客に心から感謝と敬意を示すんだ」
「命を懸けるのは僕だぞ」
といって、フィリップは、師匠であるパパ・ルディから去っていきます。
彼は自分自身のプライドの高さから、感謝することができないでいるのです。
それもあって、彼は、自分自身をアーティストと呼称します。
「ザ・ウォーク」では、そんな生意気な青年が、夢のために変わっていく姿がよく描かれています。
彼はワールド・トレード・センターで綱渡りをするために、いろいろな人の協力をあおぐことになります。
路上で弾き語りをしていた女性アニーと知り合い、カメラマンとなる男と知り合い、やがて、必要に応じて仲間を増やしていきます。
路上で一人、自分の周りに白い線で円を描き、閉じこもっていた彼が、その輪を広げていくのです。
袂を分かつことになったはずの師匠にも、ロープをきちんと張るための技術を学ぶために頭を下げる姿などは、目標のために自分を変えていく必要があることを教えてくれます。
綱渡りはミッション
「ザ・ウォーク」は、人間が変わっていく姿も面白いですが、何よりの見所は、綱渡りをするために情報を集めたり、協力者を集めたりするミッションをこなしていく姿でしょう。
誰かに与えられたミッションではなく、自分の目標のためにすすんでいく努力というのは、みていて胸が熱くなります。
ワールド・トレード・センターは、ひとつめのビルが完成しており、もうひとつの完成が間近というところになっています。
その工事が完成してしまえば、容易に部外者が立ち入ることができなくなるので、主人公たちは限られた時間の中で作業を進めていきます。
警備の人間に見つからないように作業をすすめていく様子などは、スパイアクションもののようでもあります。
ハラハラのミッションが、綱渡りによって物語的にも集約されていく、という点も完成度が高いです。
綱渡りシーン
「ザ・ウォーク」の一番の見所は綱渡りのシーンですが、そこで起きる主人公の心情的な部分が面白いところです。
ネタバレというほどではないので、気になる方は後ほどこの下の部分を読んでください。
主人公は、ワイヤーを間一髪のところで張り終えます。
しかし、肝心の衣装を落としてしまうのです。
これは、実話に基づいているのでどうしようもなかったのかもしれませんが、作中では、このことで主人公の変化をみてとることもできます。
芸に関しては気取った感じ振る舞いをする主人公ですが、衣装を落として動揺してしまいます。
「衣装を落とした。一世一代の綱渡りなのに! 衣装がない。これじゃない」
「どうする?」
当たり前かもしれませんが、犯罪行為に手を染めている状態で、後戻りができるはずがありません。
ですが、プライドの高い彼は、完璧を求めたはずです。
でも、彼は、本当に大事な覚悟を決めるのです。
「とにかくやる。間抜けな下着姿だけどな」
感謝の気持ちを忘れるな
主人公ははじめに綱渡りをするとき、回りの光景がみえなくなります。
それ以前に、彼は沼で綱渡りをしたときには酔っ払いの野次によって集中力を失ってしまって落下しています。
そんなこともあり、ワールド・トレード・センターでの命がけの綱渡りではまわりの状況がみえないぐらい集中しているべきです。
ですが、この綱渡りをしていく中でも彼は変化していきます。
一度反対までわたりきったあと、再びわたりはじめるのです。
「そのとき、今まで心からは感じたことのない思いがわきあがって来た。感謝の思いだ」
パパ・ルディに感謝や敬意を示せ、といわれてできなかった彼が、途方もない大舞台の中で、そのことに気づくのです。
そこからの、彼のやりすぎじゃないかと思われる綱渡りのシーンは、目が離せません。
やがて、ワイヤーが切れるんじゃないか、という不安の中で、彼が無事に渡りきれるのか、というところが最後の最後まで続きます。
周りがみえていなかった彼は、ワイヤーの上で、周りをみることができるようになっていくのです。
クレイジーなことをやった人に対して
当ブログは犯罪を助長する気はありませんが、「ザ・ウォーク」では、綱渡りという行為ではあるものの、主人公は犯罪行為を行っています。
犯罪行為といっても、誰も傷つけていません。
ですが、不法侵入にはじまり、市民生活に影響を与えるようなさまざまな条例等にふれていることは間違いないでしょう。
警察官は「バカなまねはやめろ」といって彼らを逮捕しますが、現場の作業員たちは、彼の偉業に拍手を送ります。
警察官の一人もまた、彼に敬意を示します。
たしかに、犯罪かもしれませんが、彼の行った大胆な芸術は、人々の心をうったのです。
もうひとつの主人公
さて、本作品の面白いところは、フィリップという主人公の成長を描きつつ、夢によって周りが影響されたり、困難を越えられるということを示しているのと同時に、ワールド・トレード・センターという場所の生まれたときを描いた作品でもあるところがポイントです。
書類棚と呼ばれてさげすまれていた場所だったはずのところに、フィリップという男が、命がけの行為をすることでニューヨークを代表する場所になったということがわかります。
建物や場所もまた、ただ作られるだけではダメで、命を吹き込まれるというのはどうこうことか、ということがわかるのです。
そして、冒頭でも書きましたが、ワールド・トレード・センターは、9・11アメリカ同時多発テロによって消滅してしまった場所でもあります。
アメリカの代表的な場所の誕生を描き、かつ、作中の中で、今は見ることができなくなってしまったニューヨークを代表する場所を、再びCGで復活させた、ということにおいて非常に意義あるものとなっています。
映画というのは、人間以外にも、そういった町そのものを映すことができる、ということも示すことのできた、感慨深い作品としても大変興味深いものとなっています。
ちなみに「マン・オン・ワイヤー」というドキュメンタリー映画もありますので、本作品で詳しく知りたくなったかたは、あわせてみてみても面白いかもしれません。
以上、大きすぎる夢は人を惹きつける。映画「ザ・ウォーク」でした!!