アカデミー賞脚本賞。感想&解説 映画「ゲット・アウト」
差別というのはよくないことです。
ただ、歴史と言うのは残酷なもので、差別が行われてきた事実はありましたし、それを利用する人たちも多く存在していました。
その歴史の中で、移民国家であるもののアメリカは白人が支配する国であったという歴史的事実はあり、黒人差別というのは法律として存在していたことは歴史の教科書をひもとくまでもないと思います。
とはいえ、差別というのはやっていはいけない、という風潮が強まっていく流れの中で、アメリカでは初のアフリカ系の大統領が誕生し、そして、トランプ大統領になって再び歴史が戻ったりしながら進んでいます。
差別はよくないけれど、差別というのは存在していることを示した映画「ゲットアウト」について、考えてみたいと思います。
差別なんて存在していない、という人のほうが、実は差別している人よりも恐ろしいかもしれません。
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根強く残る
物語は、写真家であるアフリカ系アメリカ人のクリスが、白人の恋人ローズの実家にいくというところからはじまります。
両親に会いに行く、というコメディ映画であれば、ベン・スティラー主演「ミーと座ペアレンツ」が有名なところでありますが、本作品は、もっとブラックユーモア溢れたコメディ映画となっています。
「両親には、僕は黒人だっていうことを言ったの」
とたずねるクリス。
ローズは、両親は差別するような人たちじゃないから安心して、と言ってクリスを実家へつれていきます。
感覚的にわからない方もいるかもしれませんが、アメリカでは人種差別というのは根強く残っています。
本作品の舞台は、アメリカ南部のどこかという事になっています。
南北戦争があったという歴史をみても、アメリカ南部による黒人差別というのは大きく、そんなところに、白人の娘が黒人のボーイフレンドをつれていく、なんていうことは狂気の沙汰なのです。
ただ、冒頭でも記載したとおり、差別をするというのは決してよくないことであり、差別なんてしませんよ、といって実行している人たちも少なからずいるのは事実でしょう。
黒人差別
アカデミー賞を受賞した「それでも夜は明ける」などでは、徹底的な黒人差別の現状や、奴隷としてつれてこられた自由黒人の悲劇を描いていますし、黒人の権利を獲得するために、キング牧師や、マルコムXなどが活躍していたことについては、様々な映画をみていただければ概要がつかめるかと思います。
余談ですが、黒人差別があるという事実がある一方で、白人からも、黒人からも差別されるような人たちがいる現実と、それから乗り越えようとした人たちの映画なんかもあったりします。
ラッパーであるエミネムの自伝的映画「エイトマイル」なんかは、その典型的な映画ともいえます。
アメリカ映画の中で、それらを主題とした映画は枚挙に暇がありませんが、そんな歴史の上に立ちながら、現在の我々がどんな状況の中にいるかを教えてくれるのが、「ゲットアウト」になります。
ここの家、なんかヘンだ。
彼女に家に案内されたクリスは、違和感にきづきます。
一見、暖かく迎えてもらえた主人公ですが、使用人としてあたりまえのように黒人がいます。
「親の介護のために仕方がなく雇ったんだが、そのあとも解雇するきになれなくてね」
と、彼女のお父さんは、自分たちが黒人差別をしない人間だけど、でも、やむえない事情で雇っているのだ、と予防線をはりながら話しをしてきます。
そして、使用人である黒人たちは、異常な行動をしているのです。
鏡をみてうっとりしている黒人女性、夜中に全力疾走をする黒人男性。
急に涙を流してみたり、何か違和感めいたものを主人行は気づくしかないのですが、わかりません。
精神科医である彼女の母親に、ふいに催眠術にかけられてしまいます。
不信感をいだきながらも、どうすることもできないまま、ホームパーティに彼は出席します。
ここからはネタバレ。
このあとは、ネタバレとなりますので、純粋に作品を楽しみたいかたは作品をみてから戻ってきていただきたいと思います。
さて。
本作品は、黒人差別について取り扱った作品であると同時に、その裏にある恐ろしさを描いています。
ホームパーティにきた人たちは、表面的には差別的なことを言いません。
わかりやすく罵しったりもしないですし、暴力的なこともしません。
「僕はゴルフをやるんだけど、タイガー・ウッズのことは好きさ」
とか。
「黒人は、あっちもすごいんでしょ」
と、クリスは苦笑いです。
彼らは、表立って非難したりはしません。
ですが、黒人に対して差別意識はもっていませんよ、というアピールそのものは、クリスからすればおかしいのです。
本当に、差別的な気持ちをもっていなければ、わざわざ、そんなアピールをする必要すらないのです。
この作品では、差別をしてくる人よりも、差別がないとして、自分は違うと思っている人たちのほうがたちがわるい、ということを示しています。
彼らが言っているのは、黒人というイメージについて言っているのであって、クリスという彼本人を見ていません。
彼らの目的とはナンでしょうか。
このあとは、ちょっとファンタジーな話しになってくるのですが、一種のメタファーだと思ってみることでその内容がわかる補助線になるかもしれません。
黒人に対する憧れ
ホームパーティにきている人たちは、みんな白人で、年齢も上の人たちが多いです。
そんな中、クリスは、アフリカ系の若者を見つけて声をかけます。
ですが、その男は、年寄りの白人みたいな格好をしていて、どこかなよなよとしています。
「白人しかいなかったから、あんたがいてよかった」
というクリスですが、相手の反応がおかしいのです。
黒人の若者であれば、当然するであろう、こぶし同士をうちつけあう挨拶を彼はしません。
握手だと思って、クリスの握ったこぶしを手で覆ってしまうのです。
クリスは、その男のことが気になって写真にとるのですが、フラッシュをたいてしまったことで、その男は豹変してしまいます。
「でていけ!!」
ゲットアウトと叫ぶ男の言葉は、主人公に対してではなく、自分自身の中身に対しても言っているのだろうというのがわかります。
そう、ネタバレしているので書きますが、見た目は黒人でも、中身は白人になってしまっているのです。
差別と憧れ
詳しいことは省きますが、ローズの一家は、黒人の肉体への憧れを強く持っていると同時に、老いや死から逃れようとしている人たちなのです。
黒人は肉体が優れていると一方的に思い、心身ともに優れている黒人をつれてきては、脳みそを入れ替えるというマッドサイエンティストな行動をしていたことが発覚します。
このあたりは、正直、ファンタジーすぎるところではあるですが、将来そういうこともできるかもしれません。
この映画で思うところは、彼らはたしかに黒人に対して差別はしていないと思います。
肉体的にも、精神的にも優れているという点を認めており、偏見はないといっています。
ですが、彼らの肉体を奪ってしまって、自分のものにしようという発想には、差別よりもっとひどい現実が見えてきます。
つまり、うまく使ってしまおうと思っているのです。
差別主義者のように、さわるのも、話すのも汚らわしいという発想ではなく、彼らは、都合よく利用して、道具として消費しようという発想しかないのです。
それは、表面的には差別としてわからないかもしれませんが、わかりやすい差別よりももっと危険な考えです。
物語のラストの差し替え
クリスは、命からがら逃げ出します。
そして、恋人を撃ち殺そうとするところで、警察の車が来てしまうのです。
その現場だけみれば、黒人が白人を殺そうとしている場面であり、言い逃れができません。
当初のカットでは、恋人を撃ち殺したクリスは、問答無用でつかまってしまうという暗いラストになる予定でしたが、この映画の直前にとある事実が確定します。
トランプ大統領の就任です。
アフリカ系の大統領から、続いて、女性大統領へ行き開かれたアメリカになっていくかと思いきや、結果としては、差別的な発言を行い、アメリカ・ファーストという内向きな政策へと舵取りをする人物の就任です。
そこで、映画の中でも、結局、黒人が捕まってしまうのではあまりに酷いというので、映画のラストは変更されて、恋人を殺さないまま彼らは去っていくというシーンに変更になったとのことです。
「ゲット・アウト」は、差別というのが一筋縄ではいかない根深い問題であることを、白人家庭に黒人の彼氏が来るという、身近な事柄から切り込んでいく本作品は、いまだからこそ見るべき映画となっています。
以上、アカデミー賞脚本賞。感想&解説 映画「ゲット・アウト」でした!