原作との違いは? 映画版アイアムアヒーロー
花沢健吾原作漫画を大泉洋主演で制作された「アイアムアヒーロー」。
日本映画では珍しいお金をかけた本格ゾンビ映画として、その見どころを紹介していきたいと思います。
スポンザードリンク
?
花沢健吾
花沢健吾といえば、「ルサンチマン」で、バーチャルな世界の少女に恋をした30過ぎのハゲでデブの男が、現実の女性との間で揺れ動きながら奮闘する物語を描き漫画界に影響を及ぼした人物です。
VRといった言葉すらほとんどなかった時代の中で、ヘッドセッド型の端末によってバーチャルな世界にはまっていく男の恋や友情が心に響く作品であり、VR端末がでてきた現在から考えると、先見の明がある作品でもあったといえるでしょう。
また、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」などはドラマにもなっています。
特徴としては、自己評価が著しく低い男が、罠のような女性によって成長しながら、自分なりの生き方を見つけるといった流れの作品が多いです。
そんな花沢健吾の「アイアムアヒーロー」は、かなりの作品数が存在しているゾンビものをつかって、英雄(ひでお)というさえない男が、どのようにして自分と向かうのかというものになっています。
2ちゃんねるを含むサブカルチャー的なものを組み込みながら、原作版は主人公の内的な部分をえがきます。
映画の主人公
映画版では、大泉洋が主演を務めています。
大泉洋といえば、北海道出身の役者であり、そのとぼけたキャラクターと天然パーマの存在感によって、一定以上のファンをもつ人物です。
そんな大泉洋が、漫画家のアシスタントをやりながらいつまでも目がでないキャラクターを演じています。
あの大泉洋が服装や物腰だけで、あっというまにさえない男になってしまうのです。
あらすじは、漫画の前半部分をなぞった形になっています。
15年前に漫画の新人賞をとった鈴木英雄は、その後うだつのあがらない人生を過ごします。同時期に賞をとった人間には先を越され、編集者からは見捨てられ、同棲している女性からも見放される。
漫画版ではたびたび、同棲相手だった徹子との関係で悩みますが、原作版はそれほど気にする様子はありません。
街がゾンビ化する中、たまたま一緒になった有村架純演じる女子高生の比呂美と一緒に富士山をめざし、富士山のふもとのショッピングモールで命からがら脱出するというのが大枠の話になっています。
基本的にはエンターテインメント重視の作品となっており、漫画版がもつ主人公の内的な描写はありません。
原作では、時々主人公の妄想のようなものと対面する時があり、一つの特徴となっていますが、映画版は、主人公がゾンビをうってうってうちまくるまでの話となっています。
主人公の卑屈さ
主人公は、猟銃をもっています。
外国のゾンビものであれば、銃などの道具はあっという間に手に入りますが、日本ではそうはいきません。
そんな中、銃を渡せと要求された主人公は、
「法律違反になっちゃうんで」
と言って断ります。
鈴木英雄という人物は、どこまでも卑屈な人物であり、まじめで融通がきかないところがあります。
世界がゾンビの影響で無法状態になっているにもかかわらず、猟銃の所持が法律で云々という話をする男なのです。
ですが、想像したことはないでしょうか。
自分の目の前の世界がめちゃくちゃになってしまえばいい。
そうすれば、自分は変われるに違いない。
という一見危険ながら誰しもがもったことのあるその願望。
映画版「アイアムアヒーロー」は、そんな世界が終わってしまったとしても、それでも変わる事のできない男が、変わろうとする物語として作られています。
原作の面白さ
原作の主人公は、半分ゾンビ化した女子高生の比呂美に助けられつつ、主人公も助けながら進んでいきます。
映画版での比呂美、ほとんど眠り姫状態になっております。
また、もう一人のヒロインでもある長澤まさみ演じる女性もまた、後に、主人公の卑屈さを浮き彫りにすると同時に、成長させてくれる重要な人物となりますが、映画版では、主人公ががんばるきっかけにはなっていますが、それほどの重要人物ではありません。
原作の主人公を心の底から好きになれる人というのは、なかなかいないでしょうが、誰もがもっているであろう心の闇に振り回されている人物として、映画版を気に入った人は、原作版を読んでみても決して損はないと思います。
ゾンビ?ZQN
先ほど、サブカルチャー的なものが取り入れられている点について書きましたが、本作品のゾンビの名称、ZQNは、ネット用語であるちょっと危険な一定の人たち総称したDQNという言葉に加えて、ゾンビということで、ZQNという名称でつけられたものと推測されます。
ゾンビものというのは、ジョージ・A・ロメロ監督「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」にはじまり、様々なゾンビがでてきました。
特にジョージ・A・ロメロ監督は、ゾンビというものをつくった際に、世相のメタファーとしてだしていることも特徴的です。
共産主義者のメタファーとしてのゾンビであるとか、休みの日になるとショッピングモールにいくぐらいしかすることのない人たちを表したりしています。
ゾンビは、ゆっくりとしたうごきでくるのが恐怖の要因とも思えるのですが、最近はいろいろなゾンビがでてきており、一概に、これがゾンビというものはありません。
「アイアムアヒーロー」では、ゾンビは生前の行動を模倣するといった点を組み込んでいます。
ゾンビものでいえば、「ウォーキング・オブ・ザ・デッド」シリーズをみていただければ、だいたいのゾンビの類型をみることができますので、ゾンビ好きはみてみていただきたいと思います。
「アイアムアヒーロー」については、原作のドラマ的な部分の大半が抜け落ちておりますが、アクションホラー映画としては、見所のある作品となっています。
ゾンビ映画のいいところは、血まみれにして顔をぬってしまえばゾンビになるというところが簡単なところですが、原作のZQNのようなゾンビ状態を表現しつつ、違和感なくやってしまう、という映像的な部分は日本映画ではみられないものとなっています。
日本を舞台にしたホラー映画というよりは、ゾンビもの映画として面白い映画となっています。
以上、原作との違いは? 映画版アイアムアヒーローでした!