ネタバレ解説。コメディ傑作。面白さの理由は。カメラを止めるな!
「カメラを止めるな!」は、製作費300万程度というものすごい低予算でつくられている映画でありながら、数々の映画館で放映が行われているヒット映画です。
ゾンビ映画を撮影中に、本物のゾンビがまじっていたら、という劇中劇で行われるドタバタ作品を、37分のワンカットでとるという技術的にはすごくです。
ですが、はたしてそこまで面白いのか、という半信半疑な中で気にしている人も多いのではないでしょうか。
この作品は、ネタバレをしても面白いですが、事前情報なしでみたほうがはるかに驚きがありますので、まだ作品を見ていない方は、ネタバレ前の記事をみた後で、再び本記事に戻ってきていただければと思います。
では、この記事は、ネタバレをふんだんにいれながら解説をし、その面白さの要因や、おすすめの映画を含めて語っていきたいと思いますので、スタッフ全員が一丸となって映画をつくるように、映画をみたわれわれもまた、楽しみを共有することで、もう一つの映画を語ってみたいと思います。
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劇中劇の面白さ。
では、以下ネタバレとなりますので、作品の新鮮味を保ちたい人は注意の上読みすすめていただきますようお願いします。
本作品の面白さの一つとして、劇中劇をさらに俯瞰してみている、メタ構造である、ということがあげられます。
劇中劇そのものも、ゾンビ映画を撮影中に、本物のゾンビがでてきて、撮影を続けながら、1人の女優が本物の感情を表現する女優へと成長し、五芒星の中心から空を見上げる、というそれだけでもよくできた作品となっています。
これが、ワンカット37分で描かれるというのは面白い試みです。
賛否両論があることは認めますが、一見間がぬけたり、だるくなったりしそうなところを、後からのメタ構造がうまく解決したり、低予算ゾンビ映画にありがちなウソくささをうまくつかっているところに妙があるといえます。
ゾンビが出てきた後、突然ドンという音がなります。
「奈緒さん、趣味ってなんですか」
と唐突に、へたれ男が言って話をそらす。
劇中劇単体でみたときには、なんだこの間の抜けた台詞まわしは、と思ったのですが、カンペにトラブルが発生したから、アドリブでつないで、という苦肉の策としてだしていたと思えばこそ面白く思えます。
実はこうだったのだ、というネタバラシは、劇中劇をみた違和感が、そのまま面白さにつながっているのは見事です。
構造をうまくつかった面白さが一つの魅力に違いないのですが、本作品はエンターテインメントとしてもよくできているのみならず、しっかりと、テーマ性がもりこまれているのが面白い点です。
この映画がもつテーマ。
政治的な意味や、世の中へ訴えたいこと、何かのメタファーといった、作品をつくる以上は何かを盛り込まなければならない、という風潮が近年大きいのは薄々感じているところではないでしょうか。
主人公は必ず成長しなければならないのか。
アクションシーンなど盛り上がるシーンがなければならないのか。
そんな映画がもたなければならないセオリーというものを、本作品は意識されていないのがよい点です。
ちなみに、そんな映画に対して不満をもった脚本家の物語として面白いのは、「アダプテーション」となっています。
ニコラス・ケイジ演じる主人公は、ハリウッド式の脚本に対して疑問を抱いているのですが、蘭についての解説をした本の脚本を頼まれ、メリハリのない話を脚本にできなくて悩む、というものです。
「カメラを止めるな!」がいいのは、よい作品を、みんなが一丸となってつくりあげる面白さ、を第一にしている点がこの映画のもっともよい点です。
三谷幸喜なシナリオ術
この映画を見て思い出される映画は、三谷幸喜監督「ラヂオの時間」でしょう。
事実、「カメラを止めるな!」の上野監督自身も三谷幸喜作品からの影響について話しています。
「ラヂオの時間」は、ラジオドラマの脚本を生放送でやることにした番組で、新人脚本家の本が、出演者のわがままや事情によって改変されながらも、番組や作品を最後までやりとげようとする人たちのひと時を描いています。
本作品については、別記事にて紹介していますのでご覧いただければと思います。
「ラヂオの時間」も、また生放送という限られた枠の中で、トラブルで発生した問題を脚本を変更したり、効果音がないのを工夫でごまかしたりするところが見どころとなっています。
「ここ、ゾンビで戻ってくれば、16ページに戻る」
と、「カメラを止めるな!」の監督の娘役が言うあたりは、もう、それがラジオであろうと、映画であろうと同じイメージなのだな、と感じさせてくれるところです。
ただ、「カメラを止めるな!」と「ラヂオの時間」の決定的な違いは、「ラヂオの時間」が、結局出演者のエゴによってゆがまされてしまう点です。
「脚本通りにしてください!」
と叫ぶ主人公の話はもっともだと思ってしまうあたり、悲しみが強いですが「カメラを止めるな!」は、みんなの都合ではなく、ホラー映画を生放送で、ワンカットで行うというアツアツポイントを実現させるために、みんなが必死に頑張るところが泣けます。
みんなが一つの出来事に向かって頑張る姿は、「ラヂオの時間」よりは「みんなのいえ」のほうに寄ってるところが、また、いいさじ加減の脚本となっています。
言うまでもありませんが、本作品が気にいった人は、三谷幸喜映画もおすすめできるところです。
親と子の物語
キャストたちの紹介も面白いです。
「私はいいんですけどぉ、事務所的に、ゲロをあびるのはぁ」
とか、
「涙は、目薬でいいですかぁ」
というアイドルあがりの女優がいます。
劇中劇の中でも、彼女の成長をみせられるという点で、実は演技力がもともとあるのでは、と思わせる部分もありますが、何よりも、彼女や、もう一人のやたらに映画について考えすぎる俳優の男の成長も素晴らしいです。
アイドル女優については、物語のしょっぱなから「本物がみたいんだよ!」と言われて、彼女は目薬なしで泣いてしまっています。
本当に怖かったのでしょう。
今まで、演技や世間をなめていたアイドル女優がかわっていく瞬間です。
俳優の男についても、「ゾンビは斧をもつんですか」とか「政治的な意味は」とかいってきて、監督を困らせます。
ですが、監督が、生放送ノーカットということを逆手にとって、というよりは、単純な怒りによって俳優の男を張り倒したりします。
「親にも殴られたことないのに」とガンダムのアムロな台詞をいう男は、監督の奥さんに「ほらいけ!ノロノロするな!」といわれて、はい、となってしまうあたり、彼自身もまたあまっちょろい男から、戦場で叩きなおされて男になっていくさまがわかります。
親と子の物語
アルコール依存症のおっちゃんがいますが、このおっちゃんがいい味を出しています。
緊張するとお酒を飲んでしまって意識がとんでしまう彼。
劇中劇の中では、なぜかやたらに気合いの入ったゾンビを演じていながら、後半、わけのわからない動きをいれてきて、どうなってるんだと思わせたりする、ある意味演技派です。
その人が、台本の娘の写真を入れているところが大きな伏線になっています。
「そんなに撮影つらいの?」
と監督役の日暮が、奥さんに心配されてしまう場面があるのですが、これは、そのおっちゃんに影響をうけて、娘の写真をみているうちに泣けてきてしまったというだけにすぎません。
そんなギャグなのですが、実は、これがラストにつながっていく、単なるギャグに終わらせてないところがうますぎるところです。
実は、この監督の娘は、まぎれもなく、監督と、奥さんの子供だということがわかる性格になっているのが面白いです。
元女優の奥さんは、役に入り込んでしまうと現場すらぶちこわしてしまう人です。演技自体は悪くないのですが、協調性に欠けてしまう部分があるのです。
一方で、監督は協調性がありすぎるあまり、自分をだせないでいる情けない人物です。
再現映像とかをつくっている人であり、「安い、早い、質はそこそこ」
というキャッチフレーズのもと仕事をしています。
そのあたりの、扱いやすい監督として重宝されている人物です。
ですが、娘からするとそんな父親に納得ができていないのです。
「優秀なんだけど、ちょっとね」
と言われて、娘もまた現場にいれこみすぎて現場を壊してしまうタイプです。
これって、入れ込んで場を壊す女優と、協調性がありすぎて作品に妥協してしまう監督の、まさに二人の特徴を受け継いだ娘なのです。
親とまったく違う感性をもつのではなく、親と精神的にもちゃんと親子である、というところもまたよいキャラクターづくりになっています。
そんな父親が、1人暮らししようとする娘に対して、すこしでもいいところをみせたいと思って、生放送、ワンカットという前代未聞の仕事を受けてしまうのは、ある意味必然といえるでしょう。
この映画が職業映画としてみれるのも、まさにそこです。
閑話休題
職業映画として、絶大な面白さをもっているのが「マイレージ・マイライフ」です。
仕事一筋であり、マイレージをためることだけが趣味な男ジョージ・クルーニー演じる主人公が、新人の女の子に仕事を教える中で変化していく物語です。
ベテランと新人のバディものではありますが、仕事の姿をみせることでお互いが影響される、という仕事映画の一つの金字塔といえる作品だと考えています。
さまざまな作品がありますが、仕事する姿でみせるというのもおもしろい映画のジャンルとして存在するのです。
物語のラストに向けて
この映画が見ていて気持ちがいいのが、だれもが映画をきちんとつくろうとしているところです。
物語のラストの場面で、4メートルのカメラのクレーンができないことがわかります。
「その場面捨てましょう」
という現場プロデューサー。
「なにいってるんですか。呪文をとなえたからこうなった、だから、ここの場面を描かないとわからなくなっちゃうじゃないですか」
「そこまで見てませんって」
「見てんでしょうが!」
このあたりは、息子が食べてるでしょうが、という北の国からのパロディかもしれませんが、シリアスな場面です。
劇中劇の中では怒っていた監督ですが、ディレクターに対してかみついたのはこれが初めてです。
ですが、結局、「バストからゆっくりひいてエンドロール。これで行こう」
と引いてしまいます。
このあたりのやりとりは、三谷幸喜「ラヂオの時間」でもにたようなやり取りが多様されます。
「カメラにカンペで伝えてきて」
ですが、そこで妥協してしまう映画だったら、ここまでの面白さにはならなかったでしょう。
あきらめムードの中、娘が台本の後ろに挟まっていた写真をみて気づきます。
「動ける人、何人いますか」
何をするんだと、思うのですが、まさか、ここ最近、バラエティ番組とかでもなぜかでている組体操。
それが、こんなところでいかされるとは思わなくて度肝をぬかれました。
何度も崩れる人間ピラミッド。
そのたびに、引き延ばす演技。
数々のミスやトラブルが発生する中で、彼らはこだわるのです。
正直いって、最後に足元の五芒星がみえようがみえまいが、わかりはしないでしょう。
でも、そこにこだわることこそ、クリエイターの思いなのです。
そして、大の大人が一丸となって組体操をして、生放送の場面をとりきる姿は、感動を超えたものが生まれてしまうのは必然です。
スタッフの一致団結、親子の和解と、映画の完成が同時に結びつく脚本なんて、そうそう考え付きませんし、考えたところで実現できません。
でも、この映画は、ちゃんと皮肉も加えているところがたまりません。
視聴者は思ったほどにはみていない。
非常に不思議な顔立ちをしたプロデューサー役の人がいるのですが、この人が愛嬌がある人です。
「アツアツポイントが二つあんねん」
と独自の言葉づかいで、生放送を見ています。
この人は、一般の視聴者として描かれています。
トラブル中に必死につなげようとしている役者たちを見た他の人が、
「なんか、長くないですか」
とプロデューサーに聞きますが、彼女はスマホをいじりながら「そうか?」とだけ。
また、ぶりっこで取り繕ってばかりのアイドル女優が、監督に脅しかけられて本気で泣いている姿をみて
「いい表情しますね」
「そうやろ、この子、芝居に嘘がないねん」
って、みている人は、現場のことなんてわかっていないのがよくわかる発言です。
アイドル女優は、性格は悪いかったし演技もいまひとつだったのが、結果として現場ででた本物の感情だったのですから、たしかにいい表情には違いありませんが、プロデューサーのおもっている観点は異なっている面白さです。
現場の間一髪なんてわかることもなく、「本番はトラブルもなく、ほんまに良かったです」といって、歩いていく姿は、もう、いっそすがすがしいくらいです。
劇中劇をみている我々を代弁するのがプロデューサーサイド。
スタッフたちの裏方の苦労を知りながら、それを、嫌味ではなく、エンターテインメントとして見事に成就させている点で、実によくできた作品となっています。
構造の巧みさや、キャラクターの面白さ、演出のうまさを含めて、絶妙な映画となっておりますので、二回、三回とみてみるのも面白いかと思います。
以上、ネタバレ解説。コメディ傑作。面白さの理由は。カメラを止めるな!でした!!