日本の異常気象は大丈夫か。映画「日本沈没」1973年版
日本は今、異常気象の真っ只中です。
異常気象も毎年続けば、それもまた正常といえる恐ろしさ。
突然ですが、人間のちっぽけさを知ることになると同時に、人間はどう生きるべきかを教えてくれる作品こそが、小松左京原作「日本沈没」です。
もしも、日本が沈没してしまうとしたら、人々はどんな行動をするのか。
感想&解説をしてみたいと思います。
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日本は沈没するのか。
本作品は、小松左京というSF界の巨人がつくりだした代表作の一つです。
映画が公開された当初は、まだ一般的に認知されていなかったプレートテクトニクス理論を説明し、どのようにして地震が起きるのかを、実在の人物をつかって説明するという離れ業をやってのけています。
物語そのものは、地球物理学者である田所博士が、様々な情報から日本が沈没するかもしれないという予測をたてたことにはじまります。
若き日の藤岡弘演じる小野寺が深海調査船「わだつみ」にのって調査をすすめますが、田所博士が
「日本は、沈没してしまうかもしれん」
といった瞬間、地震がおきて日本沈没、というタイトルがでるという展開は皮肉と共に熱い進め方です。
本作品は、SFといいながらも、決して絵空事ではなく、近未来に起こりえるかもしれないという日本沈没という事柄を、2年と言う時間に短縮して作られたものとなっています。
日本は終わるのか。
「日本沈没」という作品そのものは、その後に登場する様々な作品に影響を与えており、影響の大小を考えると想像がつかないほどです。
また、本作品のテーマから連想されるものとしては、近年でいえば庵野秀之監督「シン・ゴジラ」なんかは、日本沈没に通じるテーマがかたられているところではないでしょうか。
ゴジラによって被害を受ける日本。
その中で、自らを犠牲にしながらも日本を守ろうとする人たちが描かれています。
「日本沈没」もまた、丹波哲郎演じる山本総理が日本が沈むことを受けて、日本国民を避難させるために各国を説得しにまわるところが素晴らしいです。
「一万人がダメなら千人、千人がダメなら100人、いや、一人だっていい」
と自らの台詞に酔っていく、丹波哲郎の涙すら浮かべる演技はたまりません。
終わり行く、沈み行く日本の中にいながら、最後まで日本を諦めない人たちがいるという姿を見せてくれる作品です。
日本人とは何か
日本人とは、なんなのかも考えさせられます。
「何もせんほうが、ええ」
箱根の老人と呼ばれる裏で政治家を操る老人がいう有名な台詞です。
彼は、どうにかしようとする周りに反して、なにもせんほうがええ、といいます。
なぜ、何もせんほうがええ、と言ったのか。
彼が老人であるから、というのはあるでしょう。
日本と言う土地があり、四季があり、自然がある。
そんな中で生きているからこその日本人である、というのが老人の考えであり、長い時間をその土地で生きてきたものの感覚なのです。
多くの場合、船が沈没するときに、船長は最後まで残るものです。
船長というものの責務ということもあるでしょうし、その中でしかもう生きられないという諦観ともいえるものです。
箱根の老人は、そういったものの象徴として描かれているのです。
ただ、一方で、日本人とはどういうものか、ということの提議にもなっているところが面白いところです。
五分後の世界
話しはすこし脱線しますが、日本がもしも占領されてしまって、日本というアイデンティティが失われてしまったとしたら、という、IFを描いた作品として、村上龍の「五分後の世界」という作品があります。
主人公は、気づくと5分後の世界の日本にきてしまい、そこでは、日本人というのは、超優秀だけれどゲリラで戦闘をしながら生き延びる民族になってしまっています。
日本人という自己は一体どこから生まれてくるのか、ということを考えさせられる作品です。
「日本沈没」もまた、日本にいるから日本人なのか、はたまた、日本人としての民族性、精神性をもっているから日本なのか、ということを考えさせられるところが面白いです。
日本人は生き残れるか。
日本沈没は、1973年に公開された映画ではありますが、災害に見舞われることが増えている日本の中で、決して色あせない事象を扱っています。
明日から一般人の海外への渡航は禁止になる。
そんな事実を、特殊な立場ゆえにしった藤岡弘演じる小野寺は、海外への切符をとりますが、肝心の恋人が交通渋滞に巻き込まれて、合流することができません。
様々な人間の思惑がとびかう中で、人は正しく人でいられるのか。
そのあたりも含めて、人間心理が描かれた作品となっています。
また、日本人への痛烈な批判も描かれます。
「日本人は民族としては若い。四つの島でぬくぬくと育てられてきたわが子供が、外へ出て行ってケンカをしてひどい目にあっても、島へ逃げ込み母親の懐へ鼻を突っ込みさえすればよかった」
日本という家に逃げ込めば、助かるということもあって、過保護に生かされているという皮肉です。
また、日本に住むわれわれがいかに他国からの侵略に対して、やさしい立場の中で生かされてきたかも示唆されます。
「日本沈没」は、自分自身のことのみならず、世界にでることができない日本人の窮屈さも描いた優れた作品の映画化であることから、決して色あせない面白さがあります。
単なるパニック映画というだけではない「日本沈没」、自分自身を見直す意味でも面白い発見があるかもしれません。
以上、日本の異常気象は大丈夫か。映画「日本沈没」1973年版でした!