シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

日本人は見るべき映画。感想&解説「犬ヶ島」ウェス・アンダーソン

犬ヶ島

 

ウェス・アンダーソン監督といえば、天才少年と学校の校長との恋の鞘当てが行われる「天才マックスの世界」や、アカデミー賞にノミネート・受賞するなどした「グランド・ブタペスト・ホテル」で有名です。


ウェス・アンダーソン監督は以前にもストップモーションアニメである「ファンタスティック MR.FOX」を作成しているのですが、「犬ヶ島」は、段違いの出来のよさとなっています。


ネタバレしたからといって魅力に影響がでるような作品ではありませんが、少々物語に踏み込みながら、究極のストップモーションアニメといえる本作品について感想と解説をしてみたいと思います。

 

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ストップモーションアニメはどうなの?

さて、いきなりですが、ストップモーションアニメはみなさん見ますでしょうか。

正直、あまり見る気がおきないのではないでしょうか。

有名なところでは、可愛らしい羊と牧場主との生活を描く「羊のショーン」や、コウテイペンギンであるピングーとその一家の物語「ピングー」などが、よく知られているところです。

映画として有名なのはティム・バートン監督「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」でしょうか。

 
また、説明するまでもないかもしれませんが、ストップモーションアニメは、実際の人形等をすこしずつ動かしてコマ撮りし、それを連続して写すことで動いているようにみせるアニメーションの基本です。


いずれにしても、ストップモーションアニメは、作成の大変さもさることながら、劇場に見に行くかと考えると、通常の映画とは趣が違うのは認めざる得ません。


しかし、ウェス・アンダーソン監督「犬ヶ島」は、ストップモーションアニメに対して積極的ではない方も、大いにオススメできる作品です。

特に日本人であれば、その舞台設定の違和感を通したユーモアを感じやすく、世界設定や言葉の使い方含めて面白くみれるはずです。


ウェス・アンダーソン監督による独特すぎる世界観。

キャラクターの可愛らしさも含めて、「犬ヶ島」は、今までのものとは一線を画するすごさがあります。

 

溢れる日本愛

ウェス・アンダーソン監督は、もともと日本が好きな監督です。

スタジオジブリ宮崎駿監督、巨匠黒沢明監督の映画に強く影響を受けており、
犬ヶ島」の中でも、その影響は随所に見えてくるところです。


本作品の舞台は、ウニ県メガ崎市という日本のどこかにある町が舞台です。


本作品を見た人の中には、日本の文化をバカにしているということを言う人もいるそうですが、むしろ、日本愛が溢れかえっているがゆえに、できた作品といえるものです。


音楽が、和太鼓の勇ましいリズムではじまります。


そこではじまる、少年侍(しょうねんざむらい)コバヤシの昔話からはじまります。

言葉の選び方、物語の設定が、いわゆる、間違った日本好きの外国人の日本観、というところに絶大な面白さがあります。


スモウ。

ハイク。
スシの作成風景。


特に、寿司の製作風景が見られるところは、魚の捌くところからはじめるこだわりようです。

三枚におろすのかと思いきや、ファンタジーな魚の骨のとりかたをしてネタをつくったり、じわじわとくる面白さです。


スシ、ゲイシャガール、ハラキリ、といった、一昔前の間違った日本観をそのまま発展させて、素晴らしい舞台設定にしてしまうウェス・アンダーソン監督。


日本語で書かれたらくがきにも注目したいところです。
「海のことは、漁師に問え」
とか、謎の格言めいたことが柱にかかれていたりして、台詞以外のところでも楽しむことができます。 

 

黒沢愛

作品の中にはパロディめいたものが沢山詰まっています。


隠す気が全然ないものの一つとしては、この作品が一種の「7人の侍」としてつくっているところも魅力です。


犬ヶ島」は、ドックインフルエンザにかかった犬達が、小林市長によって、犬ヶ島に強制送還されるという悲劇から動き出します。


小林市長の甥である小林アタリ少年は、自分の愛犬をみつけるために犬ヶ島にいき、5匹の犬たちと探しにいくというのが物語前半の大筋です。


劇中で流れる音楽で、突然、7人の侍のテーマが流れます。

小林少年は、犬たちが島流しにされることへの憤りを犬達に語るのです。


5匹の犬、と、小林アタリ、そして、彼の愛犬を合わせて、いわば7人の侍たちが、巨大な悪に戦いを挑むというのが後半の物語になってくるのです。


ちなみに、黒沢明映画へのオマージュとしてわかりやすいのは、メガ崎市の市長である小林市長は、黒沢明映画にはかかせない存在である三船敏郎にそっくりなところです。


物語の後半は、猫派である小林市長が犬達を排斥するためにしていた画策が明らかになりながらも、人民が操作されてしまうところなど、「悪い奴ほどよく眠る」などをみておくと、より面白く感じられるところかと思います。

 

ユーモア

ウェス・アンダーソン監督の映画は、オフビートな笑いがでてくるユーモアが素晴らしいです。


ファンタスティックMR.FOX」でも、普段は比較的紳士にふるまっている主人公たちも、食べ物を食べるときは突然野生にもどってしまうという描写があったり、目の焦点があっていない友人など、一歩間違うと危険な笑いがちりばめられています。


犬ヶ島」でも、独特の舞台設定にもどついたユーモアがあり飽きさせません。


オラクルという天気や人間の動きを予知できるという犬がでてきます。

「人間の見ているテレビをみているだけじゃないか」

と一瞬で看破されてしまうのですが、これは、マトリックスのパロディではないでしょうか。

本当に未来がわかるのではなく、膨大な情報によって未来を予知するというオラクルという存在に「マトリックス」のネオは会いに行くわけですが、このあたりの設定を、人語がわかる情報通の犬として伝えるパロディさが面白いです。

 

日本人がもっとも楽しめる映画

さて、概要の説明が多くなってしまいましたが、本作品は、物語の冒頭で注意書きが流れます。


犬の言葉は英語に翻訳されているが、それぞれの種族の言葉は、同じではない、というものです。


鳥は鳥の言葉を、犬は犬の言葉、日本人は日本人の言葉を話しています。


「犬が島」は、外国人がみれば、日本語の部分がよくわからないはずです。

その前提のもと映画をみていくと思うのですが、アタリ少年と犬たちは言葉が通じているわけでは断じてありません。

行動や雰囲気、もっている道具(写真)をつかって、心を通わせているのです。

 

野良犬として育ったチーフという犬は、アタリ少年に対して警戒していますが、少年の優しさに触れてかわっていきます。


棒をなげて遊んでもらった、チーフははじめこそ

「お前が気の毒で拾ってくるんだからな」

としぶしぶといった感じで動きます。
もちろん、アタリ少年は言葉がわかりませんが、その行動で気持ちをわかってあげているのです。


交換留学生のトレーシーという女の子は、英語も日本語もしゃべります。


この映画では、それぞれの言葉をつかいながら、時には何を言っているかわからくても、種族を超えても通じ合えるということを示しているのです。


だから、英語圏の人が本作品をみて、日本語でしゃべっているところに英語字幕がついていない、と不満を覚えても、それでいいのです。

何をしゃべっているかなんて、関係ない。

でも、通じ合える、「犬が島」の重要なテーマです。

そうはいっても、日本語がわかる日本人が本作品をみると面白さを一層感じられるのは間違いのないところです。

美術のすごさ

 さて、ここからは余談ですが、「犬ヶ島」のセットのすごさは、今までのウェス・アンダーソン監督の中でも群を抜いているといわざるえません。


ほぼ例外なく、画面構成がシンメトリー(左右対称)になっているというこだわり。


黒沢明監督もまた、画作りには異常にこだわった監督ではありましたが、ウェス・アンダーソン監督の画面コントロールは素晴らしいです。


犬達の立ち位置、滑り台と階段の配置。いずれも左右対称となっており、緊張感のある構図が保たれます。

その画面構成だけでも見る価値があります。

 

また、舞台の中にある小道具も凝っていて、一度ではとても見切れないぐらいの情報量があります。


キャラクター達の表情もすごいですが、あらゆる点にチカラが込められている本作品は、何度見ても発見があるところです。

 

間違ってるけど心地いい

本作品は、一昔前の間違った日本観を発展させたような舞台設定が、2018年のこのときだからこそ、逆に新鮮に思える映画です。


軍用の爆弾歯をつかって敵を倒すという設定や、劇中の映像はすべてアニメーションだったりするこだわり。

現代の少年では絶対にありえないことでしょうが、自分の気持ちを俳句にしてあらわすなど、日本人ではあればズッコケてしまいそうなことを、大真面目にやる面白さ。

このどこまでも間違っていながら、でも、心地よい世界観。


どですかでん」の埋立地を舞台にしたような犬が島。


そこでくらす犬達。

権力者による一方的な都合による誘導、人々に不安を植えつけて扇動しようとする人たち、それに異をとなえる人たちなど、現代社会の問題点をえがきながら、多種族間の友情をしっかり描く懐の深い作品が「犬ヶ島」となっています。


犬ヶ島」を気に入った方は、「ファンタスティックMR.FOX」も見てみても面白いとはおもいますが、「犬ヶ島」が圧倒的に面白いので、是非、ご覧いただきたいと思います。


以上、日本人は見るべき映画。感想&解説「犬ヶ島」でした!

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