シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

正義はいったいどこにある。/日本で一番悪い奴ら

日本で一番悪い奴ら Blu-rayスタンダード・エディション

 
「凶悪」でリリー・フランキーピエール瀧の二人を、ものすごく恐ろしいおじさんとして演出した白石和彌監督。

白石監督のその次の作品にあたるのが「日本で一番悪い奴ら」です。


古きよき日本映画の生臭さをただよわせながら、暴力を時に恐ろしく、時にユーモラスに描くその作品は、好き嫌いがわかれるところかもしれません。


今回紹介する「日本で一番悪い奴ら」は、北海道警察による組織的犯罪について指摘した、ここ最近では非常にめずらしい作品となっていますので、その魅力も含めて考えてみたいと思います。

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白石和彌

白石監督は、行定勲監督や、犬童一心といった日本映画を牽引する監督の作品に参加した人物です。


「凶悪」では、リリー・フランキー演じる先生と呼ばれる人物による犯罪の内容について、共謀した人物が告白していくというものでした。


「凶悪」については、当ブログでも別途紹介しているので、そちらをご覧いただきたいと思いますが、「凶悪」の中でも描かれたような暴力については、「日本で一番悪い奴ら」でも発揮されており、見る人を選ぶところではありますが、一見の価値があるものとなっています。

  

ちなみに、白石監督は、北海道旭川市出身の監督なっており、そんな北海道の監督が、北海道警察の事件について、これでもかと浮き彫りにしていく、というところも興奮してみることができる部分といえるでしょう。

純朴な主人公

 綾乃剛演じる主人公諸星は、柔道が強いということが理由で、北海道警察(以下 道警)に就職した人間です。

 

警察という組織の中で、右も左もわからず、事件の調書ばかり書く毎日。

要領も決してよくないため、意味のない仕事をずっとやっています。


そんな、彼にピエール瀧演じる村井が声をかけます。


「調書なんて書いてたって、意味ないぞ」


飲み屋につれていってもらった諸星は、とにかく顔を売るように言われます。


主人公は、柔道一直線でやってきた男ですので、うまく捜査をしようとか考えられなかったのです。真面目にやることしかできず、成果を挙げられない。

 

しかし、主人公である諸星は、先輩に言われたとおり、ヤクザに名刺を渡し、とにかく顔を売ろうとします。その姿は滑稽ですが、たしかに成果をあげはじめるのです。

 

それまで、主人公は警察組織の中でどうしていいのかわからず、元気のない人間として、おどおど生活しています。

彼は、柔道が強いからスカウトされただけです。

そのため、柔道で優勝するという、その彼の役割が終わってしまったあと、役に立たなくなっている時点から、彼の物語が始まっている、というのがポイントです。

 

悪を吸う。

ピエール瀧演じる村井は、ある日つかまってしまいます。


そして、主人公の前から、自分に捜査の仕方を教えてくれた人物がいなくなってしまったわけですが、結果として、諸星は自分がその後釜になります。


そして、今まで吸わなかったたばこを、むせながら吸い始めます。

わかりやすい象徴ですが、それが大人になること、あるいは、悪いものを取り込む、ということの象徴としてタバコをつかっているのは、面白いところです。


諸星が、村井から教わったのは、スパイを作ることです。


スパイをつくることで情報を入手し、犯人逮捕につなげていく。


そのためには、警察でありながら、ヤクザとも仲良くしていかなければならない、という事情の中で、諸星はどんどん悪に染まっていくのです。

 

作品の細かい内容は省きますが、彼は、スパイをつかって次々と成果をあげていきます。


やがて、銃器対策室に配属された主人公は、銃の押収をしなければならなくなります。

悪をつくる。

話しは脱線しますが、園子温監督の代表作の一つ「愛のむきだし」の中で、AAAの西島くんが演じる主人公は、盗撮をします。


彼の父親は神父であり、その父親が精神的にまいってしまったために、息子に毎日懺悔をするように強要するのです。


「どんな罪をおかしたのかいいなさい」
「罪なんて、ありません」
「嘘をつくな!」


主人公は、本当に純粋な少年であり、優しい男なので罪など思いつきもしません。ですが、彼は、自ら罪をつくりだすことで、懺悔をするようになっていくのです。

 

「日本で一番わるい奴ら」における諸星もまた、銃器対策室という場所に配属されてしまったことで、銃を手に入れる必要にせまられます。

「何丁か、都合できないかね」


そう上司に言われて、彼は、エス(スパイ)たちをつかって、ロシアから銃を買い付けてくるようにいうのです。


銃を取り締まるはずの警察が、銃を手に入れるために銃を買う、という、目的と手段が逆転してしまった現象がおきているのです。


「うっす」

といいながら、主人公は、借金までしてエスに銃を買わせ、お金がなくなると、麻薬を売って、銃を買う資金を手に入れるようになっていき、やがて、エス(スパイ)は麻薬の売買でますます儲けていくという謎の循環が始まるのです。

  

悪いヤツラは誰なのか。

本作品の元は、2002年に発覚した稲葉事件と呼ばれる事件が発端となっています。

道警という、公的な機関である警察が、実は、犯罪者をとりしまるために犯罪を行っていた、ということがわかった衝撃的な事件です。


自殺者も出て、多くの人間に影響がでた事件でもあります。


先ほど引き合いにだした、園子温監督が愛犬家殺人事件をもとに「冷たい熱帯魚」をつくったり、東電OL殺人事件の「恋の罪」などを描いたりしたのが、比較的最近のものではありますが、警察の組織的な犯罪について、告発するような作品というのは、非常に珍しいといえるでしょう。

 

cinematoblog.hatenablog.com

 

映画の中でも、ほとんどの警察関係者は処分されなかったということが示されています。


ただ、一方的に、道警が悪いのだ、というわけではなく、諸星という主人公を通したときに、なぜ彼が犯罪をしてまで、犯罪者をつかまえようとしたり、銃を入手しようとしたのかがわかります。


銃を手に入れるために、麻薬の密輸を警察が見逃したとき、他の署員たちは、うなだれます。


「罪を背負ってしまったんだ」


銃を手に入れるために、麻薬が日本に入ってくる。

普通に考えれば、これは悪いことなのですが、諸星は、今更何をいっているのか、という風に怒ります。


諸星という男は、真面目に捜査をして、失敗し続けてきました。


ですが、警察として市民を守るためには、非合法なことをやらなければならないときもある、ということを言っています。


もちろん、非合法に物事をはこぶことは、悪いことなのですが、同時に、そうでもしなければ悪を取り締まることなんてできないということを、物語の前半に描かれています。


目的のためには手段を選ばない、というマキャベリズム的な発想で諸星は突き進みましたが、やがて、彼は見放されていきます。


「市民の安全を守る」


という思いがあったとしても、力が無ければ守ることができない。

彼なりに精一杯やったことであり、悪いことをやっている、という自覚はないのです。


この映画で恐ろしいのは、部下が勝手にやっていることだから、俺は知らない、という上司達の対応でしょう。


ある意味、純粋に警察として生きようとしていた人間は切り捨てられ、本当に悪い奴らは、警察の中で生きているかもしれない。


そんな、恐ろしさと共に、どんな組織の中にあっても、存在する暗部を描いている作品こそが「日本で一番悪い奴ら」です。

 

自信をなくした男が、悪の道に染まることで結果として生き生きと動き出していく様は、ピカレスクロマンとしても非常に面白いエンターテインメント作品でもあり、一人の男の栄華と没落を描いた作品として、非常に面白い作品となっていますので、気になった方は、自分自身におきかえながらみてみると、面白いかもしれません。

 

以上「正義はいったいどこにある。/日本で一番悪い奴ら」でした!

 

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