女の友情は真実か/ピッチ・パーフェクト
笑いあり涙ありのエンターテインメント性を重視した音楽映画「ピッチ・パーフェクト」。
音楽が重要な映画には違いありませんが、音楽のノリを楽しみつつ、一人の女の子が孤独な状態から、仲間を思える人間に成長していくビルディングスロマンとしても見ることができる作品なっています。
物語としてはあっさりしていますが、元気のでる映画ですので、その内容について考えてみたいと思います。
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アナ・ケンドリック
主演女優は、「マイレージ・マイライフ」で助演女優賞を獲得した、アナ・ケンドリックです。
「マイレージ・マイライフ」は、ジョージ・クルーニー演じるやり手のリストラ宣告人のもとに、画期的なシステムを実践しようとする新入社員アナ・ケンドリックふんする女性がやってきて、古い人間と、新しい人間とのジェネレーションギャップや、その中で行われる人間の機微がこれでもかと描かれる作品となっています。
優秀ではあるものの、周りとうまく打ち解けることができなかったり、孤独さと幼さを抱えたキャラクターである点については、「ピッチ・パーフェクト」の主人公であるベッカと通じるところがあります。
ブロードウェイ出身の女優ということもあって、歌やパフォーマンスは面白く、「ピッチ・パーフェクト」でも、コップをつかってリズムを取りながら歌ったり、ダンスを踊ったりと、多才ぶりを如何なく発揮しています。
物語の内容
物語そのものは、冒頭でもかいたとおり比較的単純であり、今までも似たような筋の作品はあったと思われます。
自分の才能を信じながらも、大学教授である父親に半ば無理やり大学にいれさせられた主人公ベッカ。
彼女は、まわりの人間とうまく打ち解けることができない人間です。
ヘッドフォンで周りの音を聞かないようにし、「私はLAに行って、DJになるの」という女の子です。
父親は、そんな彼女を見かねてか「大学で色々学びなさい。1年経ってそれでもLAに行きたいというのであれば、応援する」といって、大学生活を勧めます。
彼女は、一見美人で人当たりよくやっているように見せていますが、周りと壁を作っているのは明らかです。
ルームメイトであるアジア系の女性は、
「あなたは親友じゃないわ」
「迷惑よ」
と言っていて、キツイ性格だと思わせるのですが、実は、主人公にたいする回りの反応を代弁したキャラクターとなっているのが面白いところです。
そんな壁をつくっているベッカが、シャワールームで鼻歌を歌っているところを、アカペラグループ「バーテン・べラーズ」にスカウトされ、父親に言われたことを果たすためもあって、アカペラサークルに入って行く中で成長していく姿が描かれるのです。
個性的なキャラクター
この手の映画ではある程度鉄板なつくりですが、個性派ぞろいのメンバー達が、一つの目標に向かっていく中で衝突を繰り返して、成長していきます。
ベッカと並んで人気のキャラクターとして、ふとっちょエイミー(ファット・エイミー)は、その身体のふとましさもあって、愛するべき人物となっています。
アカペラサークルなのに、か細い声しかださない不思議ちゃんや、ニンフォマニア(色情狂)の女性や、喉にポリープをもった歌い手、とにかく、お互いがお互い他者とうまくかかわれない人物ばかりです。
敵対する男性アカペラグループ「トレブルメイカーズ」も面白く、「バーテン・べラーズ」との対比として使われています。
ブレックファストクラブとは
当ブログでも、以下の記事で解説しています。
「ブレックファストクラブ」は、補習のために集まったクラスメイト達の交流を描く作品となっています。
この作品を理解するためには、アメリカのスクールカーストを理解する必要があります。
アメリカでは、スポーツマンやチアリーダーというのはクラスの中でも最上位にくる人たちとなっています。
そこから、勉強のできる人間やオタクなどがいて、彼らは、同じ学校にいながらほとんどコミュニケーションをとることがないのです。
そんな人たちが、様々な理由で補習をうけることになり、その補習の中で、それぞれが抱いていたコンプレックスや立場などを聞くことで、うち溶け合っていくすばらしい作品となっています。
スクールカーストの中の階級が違えば、ほとんど話すこともないクラスメイト。それが、お互いを知り、補習が終わったあと、果たして、どうなるのか、というのも見ものとなっています。
「ピッチ・パーフェクト」では、この作品が幾度も登場しています。
始めは、音楽繋がりということもあってエンディングの音楽を聴くためだけに、ベッカは「ブレックファストクラブ」を見ます。
そのとき彼女は、それほど映画についても興味がないのです。
ですが、彼女が「バーテン・べラーズ」で仲間達と関わっていく中で、ブレックファストクラブのエンディングの曲だけではなく、その映画の中に描かれている意味を読み取ることができるようになり、感動の涙を流すようになるのです。
「ピッチ・パーフェクト」では、他の名作への入り口となっているのみならず、映画というのが成長によって面白さがわかるようになっていくものであることも示されているのです。
フラタニティ
ピッチ・パーフェクトを理解する上で、もう一つ見ておいていただきたいのは「アニマル・ハウス」です。
こちらも、当ブログで紹介しています。
ジョン・ベルーシが主演し、大学における「フラタニティ」の現状を紹介し、且つ、大人や決め事といったものに対して抵抗していく若者を描いたものとなっています。
「ピッチ・パーフェクト」でも、フラタニティが登場しています。
フラタニティとは、海外の大学に存在する互助会のようなものだと考えてください。
日本語では友愛会と訳されることもあるものですが、日本で言うところの組に加盟するといったところでしょうか。
劇中でも、主人公達は「バーテン・べラーズ」に入り、全員でスパークリングぶとう酒を飲みまわします。
「グラスに入った血を飲むのです」
「ピッチ・パーフェクト」では非常にマイルドな入会の儀式ですが、入会の儀式は、一種のイニシエーション(通過儀礼)となっており、かなり激しい儀式が行われるフラタニティもあるそうです。
ちなみに、フラタニティは一応基本的には男性の組織であり、女性のみで構成される組織のことは「ソロリティ」というそうです。
LAにいくもの、いかないもの
何度も描きますが、この作品は物語の筋としてはそれほど難しいものではありません。
周りと壁をつくっていたベッカが、ソロリティに加入したり、ボーイフレンドができる中で、自分の中の問題に気づいたり、仲間と衝突しながら、かけがえのないものに気づき、目標に向かってみんなで努力するといった内容です。
一方で、彼女自身が当初望んでいた願いを達成するものもでてきます。
それがもう一つのアカペラサークルである「トレブルメイカーズ」のメインボーカルの男です。彼は、友情をもっていたにも関わらず、自分自身の欲望のために仲間を棄てて、LAに行ってしまいます。
そんな対比として描かれているところも面白いです。
この作品は、王道であるがゆえに力強いものとなっています。
「ピッチ・パーフェクト2」も人気となった作品でありますので、なんだかキラキラしていて、ギャルっぽい女の子の友情物語なんでしょ、と思っている方は、今回は音楽的な面での解説はまったくしませんでしたが、音楽バトルなども繰り広げられたりする作品でもありますので、ご覧になってみるのも面白いかと思います。
以上、女の友情は真実か/ピッチ・パーフェクトでした!
フラタニティについて描かれた作品で、当ブログで紹介したものに以下があります。